第9話 動き始める何か


村を購入?して一週間…

ようやく色々な手続きも無事に完了して正式に廃村が俺達の物になった。


そして俺とナッツは、現在ルイードさんの手配してくれた荷馬車に揺られて廃村を目指している。


ちなみにであるが、あの場所は開拓村だった為に正式な名前も無く俺達は(自宅)と呼んでいる。


サイラスの町への入場料の無料化手続きはマイトさんが代官さんに掛け合ってくれたらしく、しかもマイトさんは、


「盗賊のアジトにならない様に見張ってくれているし、若い冒険者二人に町のサービスもろくに受けれない場所に住んでもらって税金もないよね?」


と、税金免除まで勝ち取って来てくれたのだった。


勿論、サイラスの町で何か商売をすればきっちり税金の対象になるが自宅に居る限り住民税的な物や、作物を作っても年貢的な物も免除である…ありがとうマイトさん。


そして自宅の代金はというと、ほぼ書類作成料としての小金貨一枚のみの支払いで購入出来る事に決まった。


貯金額の範囲内とは言ったけど…何だか安過ぎて悪い気がする。


しかもルイードさんが、


「住める状態での引渡しが出来なかったので、商業ギルドからのお詫びと引っ越し祝いも兼ねまして…」


と、大工道具と木材、それに、農具などをプレゼントしてくれたのだ。


商業ギルドマスターのマイトさんに、


「良いんですか?こんなに貰っちゃって…」


と俺が聞くと、


「定期的に草刈りや見回りに使っていた人件費が無くなるんだから気にするな!」


と、笑っていた。


ただマイトさんは、


「キース君とナッツ君にお願いなんだけど、来年あのオランが実ったら少しわけてくれないかな…」


と、恥ずかしそうに頼む…(オラン)とは例のミカンっぽい味の柑橘である。


そのお願いを聞いたナッツは、


「それならば私にお任せ下さい!」


と言って、ポンと胸を叩いていたので放っておいてもあのオランの木とやらの管理はナッツがやってくれそうだ。


しかし、ナッツがあんなにオラン好きとは知らなかったよ…

この人生の半分以上一緒にいるのに…俺は駄目な友達だな…と少し反省する自分がいた。


さて、サイラスの町には俺達のこの引っ越しに約一名不満を言っている方がいた…そう、クレアママさんだ。


強い魔物の住む古の森とは町から見て反対側とはいえ魔物に国境などの概念は無く、いつ凶悪な魔物が森伝いに移動して俺達の住む自宅に襲ってくるか…

それに現在Fランクの冒険者二人だけで人里離れた廃村に移り住むなど…考えられない!…

などと心配してくれて、クレアママさんは冒険者ギルドに残る過去数十年分の資料をひっくり返しながら廃村周辺の魔物の分布図や採集物の資料などをまとめて、


「二人とも、元気でやんなよ…

資料を渡しておくから、採集した物は保存が出来る様に加工してからまとめて持ってきなよ。

上手に出来たら高値で買ってあげるから…」


と、本当の家族の様に親身になってくれた。


「クレアママさん、ありがとう…」


と感謝を伝えると、無言で俺とナッツを抱き締めてくれたのだった。



という周囲の方々の協力のおかげで、やって来ました新天地マイホームという訳なのだが…

荷馬車の木材等を一旦全て旧鍛冶屋の中の広い作業場に一緒に運び込んでもらい、ここまで乗せてくれた荷馬車の御者さん達を見送った後にナッツは鼻歌まじりにオランの木の周辺の草引きを開始して、俺は到着からずっと頭の中に流れているアナウンスと戦っていた…


『帰宅を確認、お帰りなさいませマスター。

ヒッキーポイントの加算カウントを開始します。』


などと、前回の『初回サービスヒッキーポイント』の事でさえ俺はまだ良く理解出来ていないのに頭の中に流れる声はお構い無しに話を進めている。


自分のスキルなのは解るが、そのスキルをどうしたら良いのか解らなかったので前回サイラスに帰ってから、


「教えてよナッツえも~ん」


と、既にスキルを使いこなしているナッツに、『はじめて、がやってきた少年キース』は相談をかけたのだが、そんな頼りの相棒は、


「解らない事はスキル自身が教えてくれますよ…たぶん…」


と、頼りないアドバイスをくれた。


俺が、


「たぶん…って…」


と、参考にならないアドバイスに、


『そんなんじゃ、スキルして翌朝パンツを洗う羽目になるかも知れないじゃないか!』


と心の中で不満を言っていると、ナッツは、


「スキルによって、色々らしいですからね…私みたいにスキルの説明が頭の中に浮かぶタイプもいるし、鑑定系は声が聞こえたり視界に文字が浮かんで見えたりすると聞いた事があります。」


と、言っていたが…今回、2度目の自宅にてハッキリしたのが、俺の(自宅警備スキル)は…うるさ過ぎる。


聞こえるし、頭の中に文字…というか操作画面?が現れ、そして視界の端にも時計となにやら数値が現れている…時計機能は地味に有難いが、情報量が多くて頭痛がしてくる。


そう、俺の自宅警備スキルは声が聞こえ、頭に文字が浮かび、視界に数値等が見えるという自己主張の強い、かまってちゃんタイプのスキルのようだ。


しかも、よく解らないヒッキーポイントシステムという何かを搭載している…

俺としては本当は母屋の修繕をはじめたいのだが、


『メインメニューをご確認下さい。』


と、ウチのヒッキーちゃんが騒いでいるので俺は、


『メインメニュー』


と、試しに心の中で唱えると、次の瞬間に俺は大きなモニターの有る小部屋の様な空間に居た。


「なんだ?なんだ!?」


と、慌てていると、どこからともなく、


「ようこそマスター。

ここはマスタールームです。

マスターの記憶を使い、私(自宅警備スキル)を使いやすくする為に作られたイメージの空間です。

現実のマスターは現在…」


というと、目の前の巨大なモニターに昼寝をしている俺が映る。


人というのは現在起きている事態が理解不能過ぎる場合、一周回って案外冷静になるようで、鍛冶屋の作業場の土間で昼寝をしている俺の向こうでセッセと草刈りをしているナッツが見えて、


『相棒を働かせて、昼寝とは…最低な絵面だな…』


などと、考えてしまっていた。


そして、ユックリと頭が回りはじめた俺は、


「これ、どうやって見ているの?」


と素朴な疑問を口にすると、声は、


「自宅警備スキルの基本性能の1つ〈監視〉です。

現在1視点ですが、ヒッキーポイントを使い増設も可能です。』


と教えてくれた。


俺が、前々からの疑問である、


「その〈ヒッキーポイント〉って?」


と聞くと、部屋のどこからともなく聞こえる声は、


「ポイント名前などは、マスターの記憶から適当な名前をチョイスしましたが変更も可能です。

自宅設定された場所にマスターが24時間自宅に居る毎に3ポイント付与され、マスター以外の家族の方の滞在についてもマスターの滞在ヒッキーポイントの付与の瞬間に自宅に滞在している家族の方1名につき1ポイント付与されます」


と、教えてくれた。


つまり、俺が自宅に(引きこもる)と付与されされるポイント…


『ヒッキーポイントねぇ…ダサくない?』


お~い、ナッツ君…俺のスキル、ダサいんですけどぉ~!


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