第7話 駆け出し冒険者の決断


サイラスの町に来て約1ヶ月…俺とナッツはFランク冒険者として町に馴染んでいた。


まだEランクに昇格するにはギルドポイントが足りないが、順調にポイントもお金も稼げる様になっていて、農家の収穫をお手伝いする依頼の時にお駄賃替わりにいただいた野菜と、草原エリアで採集の途中に狩った角ウサギのジャッカロープや、穴掘りネズミという爪や歯が鋭いラグビーボールサイズのネズミ魔物のお肉で日々の食生活も安定している。


ドルツ爺さんの店のおかげで中古品ではあるが出費も少なく装備も整える事が出来ていて、テントや野宿に必要な生活必需品をはじめとして革の胸当て等の防具類も手に入り、ナッツは片手剣と俺は弓を使い始めてから小型の魔物の討伐数も上がり貯金額も小金貨二枚になった。


ほぼ文無し状態の二人が1ヶ月で生活費とは別に約二十万円分稼いだのだ…自分でいうのもアレだが、上出来だと言えるだろう。


ドルツ爺さんの、


「獲物に近づくのが苦手でスピード負けするのならば、いっぺん試しに弓で遠距離攻撃に変えてみろ。」


とのアドバイスを受けてから特に俺が順調なのである。


ただ初めの一週間は、なかなか矢が狙い通りにヒットせずにかなり悩んだが、欲張らず少し距離を詰めて中距離武器的な使い方に変えてから飛躍的に命中率が上がった。


『それもこれも健康な体のおかげである…ありがとう』


毎日野宿で朝から晩まで草原を駆けずり回ってクタクタなのだが、やっと冒険者として相棒に頼りっきり状態から脱出できて毎日が楽しくて仕方がない。


しかし、一つ大きな問題がある…依頼で作物の収穫をしながら俺はその事に気がついてしまったのだ。


収穫の秋を過ぎれば冬が来てしまうことを…

いくらここが王国の南の端にある町とはいえ、もちろん冬は寒い。


無理をすればテントでも暮らせなくもないが、出来る事ならばそんな無理はしたくない!

しかし、以前商業ギルドで聞いた町の中の土地は一番端っこの方でも大金貨三枚で、大壁の外にある古い町の農家や牧場が多い石積の低い壁のエリアでも大金貨一枚程必要になる。


しかも、いくら家庭菜園を作りのんびりと暮らしたい俺とはいえ流石に元々農家の物件は無駄に広過ぎて管理が大変になってしまうのだ。


その事をナッツと夜にテントで相談していると、


「明日、ルイードさんに相談してみましょう。」


と提案してくれた。


このルイードさんというのは、俺達と幌馬車でサイラス迄に来た商業ギルドの職員さんであり、ナッツの話では王都のギルドのエリートコースの職員さんらしく、なんでも何ヵ所か地方のギルドで経験を詰んで現場を理解してから中央に帰り出世コースを辿る予定なのだそうだ。


そんな偉いさん候補のルイードさんは何かと俺達を気に掛けてくれて、たまに商業ギルドの荷降ろしクエスト等をクレアママさんを通して斡旋してくれる。


荷降ろしクエストは重労働ではあるが短時間で金額的にもかなりオイシイお仕事の為に毎回大変助かっているのだ。


そして翌朝、その日は冒険者稼業をお休みにした俺とナッツが商業ギルドに足を運ぶと数名だけの小さなギルドの窓口には、いつものようにルイードさんが座っていた。


俺達はルイードさんの座るカウンターに行って冬越しの件について相談すしてみると、ルイードさんは、


「少し待っててね。」


と席を立ち商業ギルドマスターのデスクに行って何やら相談している。


何を話しているのかは遠くて解らないが、どうやらルイードさんはこちらの貯金額も把握しているので予算内で俺達の無茶な要望を何とかしようとしてくれている様子だった。


しばらくしてギルドマスターと二人でカウンターに戻ってきたルイードさんは、


「こちらのキース君とナッツ君のコンビ冒険者です。

二人とも知っていると思うがこちらギルドマスターの〈マイト〉さんだよ。」


と、俺達を紹介してくれたのだが全く話が見えない…


『へぇ~、マイトさんっていうんだ…』


と、いうぐらいの感想である。


何故わざわざ商業ギルドマスターのマイトさんを連れて来たのか解らずに、緊張している俺達を見てギルドマスターは、「う~ん…」と唸ったあとで、


「二人は掃除は得意かい?」


と俺達に聞いてくる。


これにはナッツが、


「掃除はどんな掃除でも大得意です」


と、返事した。


たしかにナッツのスキルは掃除上手だが、


『どんな掃除って、そんなに種類が有るのかな?…はき掃除に拭き掃除…』


などと考えているとマイトさんは続けて、


「じゃあ、少し壊れた家の修繕は出来るかい?…無理かなぁ…」


と聞いてきたので、これには俺が、


「大工道具さえ有れば、素人細工ですが床でも壁でも直せますよ。」


と答えた。


俺は前世ではDIYが趣味だったし、建築系の高校も出ているので材料と道具さえ有れば小屋でも建てれる。


すると俺達の返事を聞いたマイトさんは、


「本当か?では、町から少し離れた所だが掃除と修繕を自分達でするのならば、現在は放棄されている開拓村に住んでくれないか?

少しオンボロだが家は三軒あるし周辺の森も自由に使ってくれて構わない。

どうだろう、二人で開拓村の管理人として少しならばギルドからお給料も出すから…」


と必死な雰囲気だ。


俺とナッツは提案された条件などが理解出来ずにルイードさんに、


「えっ、どういう?…」


と、説明を求めるとルイードさんは、


「まぁ、順を追って話すから…二人は空白地の開拓事業を知っているかな?」


と聞くので俺は、


「はい、何年かの期限を決めて開拓者を募り、期限までにある一定の開拓を成功させれば、耕した土地や始めた事業の登録料や取得料を払わなくて良いヤツですよね…ただし失敗したら自己負担の一か八かの博打…違いますか?」


と答えるとルイードさんは、


「そう、それ…

この町を作るにあたって幾つかの開拓村が出来たのだけど、今回はその一つの村の管理をする名目で、二人に住んで欲しいんだ」


と教えてくれた。


すると、それを聞いたナッツが、


「えっ、えっ?開拓を断念した村って…ヤバイんじゃ…」


と怯えながら聞くとマイトさんが、


「いやいや旧村人は全員この町までの街道が整備され発展したサイラスに合流してしまい、石垣で囲われ家もある事から盗賊のアジトに使われない様に定期的に商業ギルドで管理しているんだよ。

牧場主さん等にオススメしていたが、ミルクの出荷等にも距離があり、少し手間がかかるからと買い手も居ないままで年々建物は老朽化するしで困っていたんだよ…」


と、説明してくれた。


そしてルイードさんは、


「商業ギルドは管理費を使わなくてよくなるし二人は家が手に入る。

どうだい?なかなか良い提案だと思うんだ。

サイラスの町から馬車で片道三時間程度だけど買い物がかなり不便なぐらいだから…

何なら行商人の誰かを担当にして御用聞きのコースに入れるから…駄目かな?」


と駄目押しをしてくる。


急な提案に俺とナッツが、


「一度現地を見てからでは駄目ですか?」


と渋っているとギルドマスターのマイトさんは、


「よし、早速明日見に行こう!馬車はこちらで用意するから、明日の朝にまた商業ギルドまで来てくれ!!」


と、興奮している。


よっぽど遠くの物件の管理が面倒だったみたいだな…

たしかに安全な町の大壁の中は勿論、兵士さんのいる街のすぐ近くに広い土地が有るのだから農家さんもワザワザ三時間離れた不便な土地で農業はしないわな…

まぁ明日、現地を見てからだな…住むかどうかを決めるのは…

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