第6話 Fランク冒険者として
クレアママさんに紹介してもらった裏路地のドルツ爺さんの店に向かうと、そこはゴミ屋敷…いや、素人には解らないが多分修理待ちの素材や、素材取り用の予備のガラクタがところ狭しと積み上がり店と作業場が渾然一体となった何とも入り難い雰囲気の店だった。
ナッツが、
「キース様、このゴミ置き場の様な場所でしょうか?…」
と、渋い顔で俺に聞くが渡されたメモの通りで有れば間違えなく目的の店である。
俺はメモを片手にキョロキョロしながら目印を再度確認した後に、
「やっぱり間違え無いみたいだよ。」
というとナッツの掃除系のスキルの性なのか、元々の性分なのか相棒はあのゴミの山を整理整頓したくてウズウズしている様子であった。
俺が、
「駆け出し冒険者の御用達の中古ショップの割には入るのに勇気の要る店構えだな…」
と、店先で二の足を踏んでいると建物の中から小汚ない革のエプロンをした爺さんが現れ、
「おっ、見ない坊主だな…二人とも駆け出しか?」
と気さくに話しかけてくれて、ガラクタの山からヒョイと壊れた弓を拾い上げると、
「今、作業中だから中で話を聞くからちょっと待ってくれや。」
というと、爺さんは入り口のゴミ…いや多分商品をギュッと端に避けて、「さぁ」と俺達を中へと招き入れる。
ナッツと言われるがままに店内に入ると、そこは外ほど酷い状態ではくて、かなりゴチャゴチャしているが乱雑に置かれた商品は修理されたらしい小綺麗な装備品や武器が並んでいた。
爺さんは折れた弓から手際良く部品を外して、作業台の上にある修繕中の別の弓に取り付けながら俺達に、
「坊主達は何が必要なんだ?」
と聞いてくる。
俺が、
「俺達、冒険者になったばかりで装備も何も無い状態でして、広場で野宿するにもテントも無いので冒険者ギルドのクレアママさんに相談したらここを紹介してもらいまして…」
というと、爺さんは作業をする手をピタリと止めて、
「クレアちゃんからの紹介か、ならば先にそれを言わんか」
と言ってこちらを向くと、俺とナッツを見ながら、
「クレアママなんていう冒険者は久しぶりだな…クレアちゃん喜んでいただろう」
と、ニカッと笑う爺さんにクレアママさんからの紹介状を渡しながら俺は、
「キースと言います。こっちは相棒の…」
というとナッツも、
「ナッツと申します。」
と頭を下げる。
すると爺さんはクレアママさんからの手紙に目を通しながら、
「キースと、ナッツだな…ワシはクレアちゃんから聞いとると思うがドルツだ。
おぉ、クレアちゃんにかなり気に入られたようだな…オマケしてやれと書いてある。」
と楽しそうに笑っている。
それからドルツ爺さんにナイフ一本でこのサイラスの町まで来た事を伝えて、今日の稼ぎで買える装備やテントの値段を調べてお金を貯めようと考えている話をしたのだが、店の商品の値段を見た上で俺達の装備も財布の中身もあまりにも足りない物だらけな状況に流石に今日の稼ぎだけではどうにもならない事を理解した。
一週間ほど頑張ればテントは買えるがナッツが使う武器やモヤシっ子の俺を守る装備も買い揃えたい…
悩む俺の心を理解したのか相棒のナッツが、
「ドルツさん、私達にこのお店の掃除を依頼してみませんか?」
と提案する。
ドルツ爺さんは、店を見回しながら、
「う~ん、確かにチョイとばかり汚いか…」
と呟いた後に、
「よし、依頼料はテントと…そうだな鍋や毛皮の敷物も付けてやろう!…どうだ?」
と聞いてくるが、こちらとしては願っても無い提案であり、
「よろしくお願いします」
と、俺もナッツもその提案に飛びついたのだった。
しかし、ここでもナッツのコミュニケーション能力に助けられる形となり自分の能力の低さを恥ずかしく思う事しか出来なかった。
翌日から俺達は、朝一番に薬草採集に向かい、昼には町に戻ってドルツ爺さんの店の片付け作業を夕方までする生活を繰り返したのだが、やはり薬草採集でも店の掃除でもナッツにおんぶに抱っこ状態の自分に嫌気がさす。
毎日俺の三倍ほど薬草を採集して、片付け作業もナッツの掃除上手スキルのおかげなのかドルツ爺さんの指示で資材と商品をテキパキ仕分けして、ついでに乱雑に並んだ商品も綺麗に陳列していく…
俺が出来るのは、ドルツ爺さんから工具を借りて前世で趣味だったDIYの知識を使い陳列棚を修理したり追加で壊れた荷車の板材をドルツ爺さんからもらって、新たな陳列棚等を組み立てたりしてナッツをサポートする程度であった。
ドルツ爺さんからは俺の木工技術も誉めてもらったが、それが霞むほどナッツの掃除技術が凄いのである。
一週間でゴミ屋敷…いやドルツ爺さんの店は工房の方はまだ少しゴチャゴチャしてはいるが、店舗スペースは見違えるほどスッキリして駆け出し冒険者用の格安コーナーから、少し良いリサイクル装備のコーナーに、ドルツ爺さんがリペアした鍋等が並ぶ雑貨コーナーと何とも入りやすくて商品を探しやすい店へと様変わりしたのだった。
そして、一週間休みなく朝から薬草採集を続けた結果、俺とナッツはFランク冒険者へと昇格して、ドルツ爺さんからの店の片付け依頼の終了に合わせてFランク昇格の報告もドルツ爺さんに出来る事になった。
連日店に来ては片付けをしていた俺とナッツはドルツ爺さんの店の近所のオバチャンにも顔を覚えてもらい、小綺麗になったドルツ爺さんの店はお客さんも増えており様子を連日見に来ていたオバチャンからは、
「ドルツさんは散らかす一方だからこれを機に誰か掃除担当で雇ったらは?」
などと茶化されていた。
ナッツがオバチャンに、
「連日うるさくしてスミマセンでした。」
というとオバチャンは、
「ナッツ君、気にしないの。
ドルツさんが毎日ガンガン鎧やら何やら叩いて直しているから大工仕事の金槌の音なんて子守唄さね。
それより、キース君もナッツ君もこれだけ頑張ったんだからドルツさんからお駄賃をしっかり貰うのよ。」
と言った後で、ドルツ爺さんに、
「ドルツさん、二人ともFランクに上がったらしいから、お祝いも兼ねてお駄賃をはずんでやんなよ!」
と言ってから帰っていったのだった。
ドルツ爺さんは少し嫌そうな顔をしながら、「解っとるよ」と言ってオバチャンを見送った後で、
「マーガレットのヤツあれでもう少し可愛い言い方が出来たら…」
と何やらブツブツ言っている。
『もう、ドルツ爺さんはあのマーガレットオバチャンを雇うとかどうとかすれば良いのに…あんなに爺さんの事を気に掛けてくれてるみたいだし…多分爺さんのこと好きだよ…』
と思わなくもないが、爺さんの恋路に首を突っ込むのは野暮なので黙っておく事にしたのだが、ナッツはそうでは無いらしくドルツ爺さんに何やら鍋を渡して説明している。
するとドルツ爺さんは、
「そうか…マーガレットのヤツは鍋が壊れて持って来たのか…夕食の煮炊きに間に合う様に直して持って行くから、すまんがナッツもキースも店番頼めるか?その分、依頼料に上乗せするから!」
と言って鍋を片手に工房にイソイソと向かうドルツ爺さんを眺めて、
『爺さんもまんざらではないのか?』
などと思いながらも、やはりナッツの性能の良さを痛感して、
『俺は、あんな気遣い出来ないな…』
と少しブルーになる俺だったのだが、店番として接客してドルツ爺さんの店の売上げをのばしている俺にナッツが、
「キース様…どうやってあんなに早く計算をされているのですか?」
と聞いてくるので俺は少し驚きながらも、
「さっきのお客さんは小銀貨七枚の槍に木製の盾が小銀貨四枚だから、大銀貨一枚と小銀貨一枚だろ…だから、大銀貨二枚渡されたらお釣が小銀貨九枚だろ?」
と言うとナッツは紙に何やら書き始め、
「本当だ…合っています。」
と驚く…
『いやいや、そのぐらい…』
と思う俺だったが、もしかしたらこの世界ではこの程度の計算が出来れば賢いチームの仲間入りが出来るのか?!と理解して、
『これはこの計算力を使い商売を始めるか?』
と一瞬考えたが、それよりもナッツに計算を教えなければこれからの冒険者生活で困る事になるかも知れないとの結論に至った。
ドルツ爺さんが直した鍋を持ってマーガレットさんの家に小走りで向かうのを横目に、
『Fランク冒険者として装備も整えながら、勉強かな?』
と、次なる目標を立てるのだった。
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