第5話 はじまる冒険者生活


二人でサイラスの町の北門まで歩いて移動して、門番の兵士さんに冒険者ギルドカードを提示しチェックを受けた後に門をくぐる。


兵士のお兄さんは、


「おっ、新人冒険者か?気をつけて行ってこい…

でも、日暮れ前までには必ず戻ってこいよ。」


と言って送り出してくれた。


大概の街や村では入場料の様なお金を払う事になるのだが、その料金は街の規模により様々であり、このサイラスの町では小銀貨二枚…(約二千円)を一人あたま取られるので二人分だとかなりキツイ金額となるのだ。


幌馬車で北門くぐった際は馬車の代金に含まれていたので払わなくても入れたが、今回はそうもいかない…

しかし、毎回住民が出入りする度に小銀貨二枚は痛すぎるので、一時外出の場合は門で手続きさえすれば、その身分や資格に応じて許される外出時間が決まり、一般の住人やGやFの低ランク冒険者は夕暮れまでなら門で名前を控える手続きのみで無料となる。


しかし、日が暮れた後は名簿は無効となり容赦なく入場料が発生してしまう。


またEランク冒険者になれば翌日の夕暮れ迄になり、Dランクでは一週間後の夕暮れ迄と一気に長くなり、Cランクの冒険者は一週間という期間は変わらないが全ての街や村の入場料が半額になる。


そして、Bランク以上の冒険者は手続きのみで国境などの関所も含め町や村の入場料は無料となる。


俺達のような貧乏冒険者には魅力的ではあるが魔法適性が無ければハイクラス冒険者など無理な話なので、まぁ、せめて1泊の狩りキャンプぐらいは出来るEランク冒険者に早めにはなりたいものだ。


しかし今、俺とナッツに許された時間は無論、夕暮れまでの数時間…


『野宿は仕方ないにしても、晩飯ぐらいはまともな物を食べたい!』


などと思いながらナッツと二人で移動してきた北門から出た街道沿いに広がる草原には、数名の冒険者ライバルが、既に採集を初めていた。


「よしナッツ、俺達も採集クエストを頑張ろう!!」


と、ナッツに声をかけると、


「そうですねキース様。」


と、笑顔で答えたその手には、既に2株の薬草が握られていた…


「えっ?!いつの間に…」


と思わず声を出した俺に、ナッツは、


「キース様、早くしないと〈ザクッ〉時間になっちゃいますよ〈ザクッ〉」


と、俺と会話しながらも相棒はナイフを片手に次から次へと薬草を見つけては刈り取っている。


『あんなにすぐに見つかるモノなのか?…薬草って…』


と思いながら俺も足元を見るが…緑…ただただ緑なのである。


「マジか…この緑一色の草むらからナッツはあのスピードで…」


と俺は呟きながらもう一度ナッツを見ると、やはり、


「おっ、有った…」


などと言いながらザック、ザックっと軽快に刈り取っている。


採集というかあれはもう収穫の勢い…


『栽培してはりますの?』


と、思える程だ。


しかし、俺だって負けてはいられないと再び草むらに目を落として採集に集中する。


「薬草、薬草…」


と、ブツブツお経の様に唱えつつ歩き回るっていると、ようやく目が馴れてきたのかナッツ程ではないが、ポツリポツリと薬草を刈り取る事が出来る様になった。


しかも、屋敷にての軟禁生活が役に立ち各種の薬草類の形や採集方法の知識を持っている俺は薬草は勿論、毒消し草や虫魔物除けに使う虫除け草などバラエティーに富んだ物を採集したのだが、ナッツはその間に俺の全ての採取物の三倍程の薬草のみの入った麻袋を担いでいた。


あまりの採集量の差に、


『完敗だ…俺はナッツのお荷物なのでは?…』


と、少し凹む俺に、


「キース様、日が暮れる前に戻りましょう。

下手したら入場料もかかるしクレアママさんも心配します。」


と、一仕事終えた良い笑顔で語りかけるナッツが眩しい…


「そ、そだね…」


とだけ答えて北門へと戻り入門手続きをするために列に並んでいると、見送ってくれた兵士さんが、


「おっ、無事に戻ったな。」


と、出迎えてくれてナッツの担ぐ袋を見て、


「おぉ、二人でそんなに採集したのか?」


と、驚いていた。


しかし俺が、


「あれは、相棒一人の分ですよ。」


と答えると、兵士のお兄さんは、俺に向かって、


「スゲーな、相棒は探索系スキル持ちか何かで、坊主はアイテムボックス持ちか何かかい?」


と言ってきたので、


俺は、こんもりと軽めに膨らんだ肩掛け鞄のフタをめくり、


「俺は、これだけッス…

相棒は草むらの薬草を掃除しただけの(お掃除上手)なのでしょう。」


と、寂しそうに答えた。


ナッツは、


「昔から得意なんですよ、ターゲットを探したりとするのは…」


と、ニコニコしている。


『いいなぁ…スキルとは別に得意な事も有るのかナッツさんは…』


と、更に寂しそうな目をしていたであろう俺に兵士のお兄さんは、


「坊主…坊主も馴れたらもっと採集できるだろうし、相棒と比べちゃ駄目だぜ…あれは才能だよ…」


と、励ましてくれる始末だった。


そんなこんながあった後に夕方の混み合う冒険者ギルドに到着した俺達を出迎えてくれたのはクレアママさんだった。


気のせいか若い女性職員さんの前の列が長い気がするが、クレアママさんの前は少し少ない気がする。


見比べている俺を見つけたクレアママさんは、


「アタシは仕事が早いから列が少ないんだよ!!」


と、少しキレ気味に教えてくれたのだが、


『流石に声には何も出していないのに…』


と、思いながら俺は、


「いや、先輩方々が並んで居るのに後から来た俺達が先に対応してもらって悪いな…と、思って見ていたのですが…」


と、遠回りに、


『若いお姉さんだから列が長いなんて思ってませんが?…』


との、アピールをしておいた。


まぁ、本当は少し思ってしまったが…しかし、そんな事実を知らない様で、


「あら、そうかい?!やだね、年を取るとヒガミっぽくなって…」


とクレアママさんは呟きながら俺達の薬草類の買い取り手続きをしてくれ、


「キースはエライね。

毒消し草は間違えやすいのに全部の薬草類の採集方法も正確だし…

あとは、量が有れば言うこと無しだけど…そのうち馴れてくるわよ。」


と誉めてくれた後に、


「はい、小銀貨4枚と大銅貨六枚ね。」


と言って報酬を渡してくれた。


続いてナッツだが、たぶん相棒に尻尾でもついていれば千切れる程に振っているのではと思える程に、誉めて誉めてオーラを出しながらドサリとクレアママさんに麻袋を提出していた。


クレアママさんはナッツの成果を確認しつつ、


「ナッツは凄い、なかなかこの量は探せないよ。

けど、採集の方法が少しだけ雑だね…急がなくて良いから丁寧に刈り取る事を意識してごらん。

焦らなくてもこんなに探せる冒険者はなかなか居ないから、少々数が減っても丁寧な仕事をする冒険者として他の職員にも良い印象を持ってもらった方が後々絶対に得だからね。」


と、的確なアドバイスをくれた。


雑と指摘されて一瞬だけシュンとなったナッツだったが、再び嬉しそうにクレアママさんの話を聞いている。


そして、最後にクレアママさんは、


「キースは、ナッツに薬草の見つけ方と、ナッツは、キースに綺麗な採集方法を習いな。」


とアドバイスをくれて、


「はい、ナッツの報酬だよ。」


と言ってクレアママさんから相棒は大銀貨一枚と少銀貨一枚を渡されていた。


『やはり、三倍近い差が生まれたな…』


と、思っているとナッツが、


「キース様、半分こにしましょう!」


と提案してきた。


しかし俺は、


「いや、当面は自分が稼いだ金額の半分を2人の共同財産として家か土地の購入を目指そう、残りの半分で自分の装備を整える事にして…」


と話しているとクレアママさんが、


「ならば商業ギルドで口座を作って半分は入金すれば良いし、商業ギルドで土地の斡旋もしているから。」


と、教えてくれたのだが、俺は野宿用のテントすら無い事を思いだしてクレアママさんに、


「家の購入の前にテントを買いたいのですがオススメのお店ありますか?」


と聞くとクレアママさんから裏通りのドルツ爺さんの店という、中古品取り扱いの店を教えてもらった。


そこは壊れた装備品や不要になった物を買い取り、修理や手入れをして販売しているお店で、駆け出し冒険者の御用達らしいのだが、ごく稀に掘り出し物も有るのでベテラン勢もたまに来る隠れた名店なのだそうだ。


肉を食べる為に狩りも行いたいから武器や防具も欲しいな…よし、今回は貯金は無しにしてレッツショッピングだな!

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