第4話 南の果ての町サイラス


さて、幌馬車に揺られてサイラスの町に到着したのだが王国の南の果ての町ということもあり、かなり…何というか…ド田舎…いや、のどかな町で、規模は千人余りの町である。


南に〈古の森〉という樹海が広がり、強い魔物が出やすい事やここまでの交通の便さえ目を瞑れば、肥沃な大地のおかげで作物の安定供給が出来て大型の農場や牧場を小型や中型の魔物から守るクエストも多く安定的に出され、そんな防衛系の中級クエストを支える為のポーション類の作成の為に低級冒険者への薬草採集クエストや、大型の牧場や農場の繁忙期のお手伝いクエストなども豊富であり、駆け出しから中級冒険者まで働きやすくまた住みやすい町である。


そして、この町の自慢は豊富な食材と古の森からの大型魔物を防ぐ為の町の規模にそぐわない立派な壁が町の南に配置してある事である。


なので、ベテランの中級・上級冒険者は南門周辺に集まり、駆け出しは北門周辺に集まる傾向にある。


つまり、ベテラン勢は古の森から町に来る魔物を倒したり、また狙った魔物を魔の森へと狩りに出かける生活をして、ルーキーは街道周辺や牧場の放牧地にて採集や放牧地の小型魔物駆除がメインとなるのだ。


勿論、俺とナッツも北門周辺で冒険者生活を始める事になるのだがひとつ困った事がある。


それはというと、小さな町と住みやすい土地が災いして手頃な冒険者宿は常に満室で、俺達が寝泊まりする場所が全く無かったのだ。


まぁ、お金がそんなに無いのもあるが…

ただ、温暖な気候で冒険者ギルドの近くの広場には野宿組の冒険者が何組も居て、サイラスの町に来たばかりの冒険者や、ある程度稼いで町に家を建てる土地を購入して建物が建つまでの期間無駄遣いしたくないという理由の冒険者が集まっている。


俺とナッツもしばらく野宿組としてやっていく事にしたのだが、困った事にテントすら無く雨が降れば一発で風邪をひいてしまいそうなのである。


しかし、テントを購入するお金も無いので、まずは冒険者ギルドで仕事を探して生活基盤を整える事からしなければならない。


野宿をしている広場からナッツと二人でサイラスの冒険者ギルドに行き、窓口にて相談することにしたのだが順番を待って案内されたカウンターには肝っ玉母ちゃんみたいな女性職員さんがドンと構えており、


「坊や、見ない顔だね…新人かい?」


と、聞いてくる。


なんだか迫力のある職員さんに少しビビりながらも、


「はい、冒険者になりたてホヤホヤのGランクです。」


と俺が答える。


ちなみにだが冒険者のランクは登録したてのGランクから始まり、幾つか仕事をこなせばすぐにFランクになれるらしい。


だけど、そこからEランクになるには薬草等の常時依頼を結構こなさなければ昇格出来ず、Dランクぐらいからやっとギルドにあるクエストボードの依頼を受けて冒険者としての本当の生活がはじまり、Cランクになってやっと報酬金やギルドポイントがオイシイ大規模クエストに参加出来る様になる。


そして、Bランクになれば指名依頼で高額な報酬を貰えたり、緊急クエストの場合に中心的な働きを求められるが、その代わり成果を上げた場合は勲章を貰えたり、もしかしたら騎士爵を賜り、晴れて最下層お貴族様の仲間入りする場合も有るのだそうだ。


『まぁ俺的には正直、全く魅力を感じないが…』


そして、Aランクともなれば実質的に貴族と同等の力を持つ…武力だけならば下手な下っぱ貴族より遥かにあり、領主様などから指名依頼で高額な依頼料をもらい戦地へと赴き、運良く敵将でも討ち取ればそれこそ領地付きの正式なお貴族様に出世する事だって夢ではないのである。


だけど、そのレベルになるには魔法適性が必須だろうから俺には関係のない世界の話であるのは自分でも理解している。


そんな感じのランキングの最下層、


「Gランクだよ。」


と肝っ玉母ちゃん風の職員さんに告げると、


「なんだい坊や達、もしかして薬草も納入した事ないのかい?!」


と驚き、机の下からデカい本を「よっこらせ!」と出してページを開けると、そこにある薬草の精密に描かれた絵を指差しながら、


「町の北門を出てすぐの草原か、北門の内側の放牧地にも生えているコイツ薬草を採集してきな。

いいかい、根っこはそのままにしておくんだよ…根っこが有ればまた生えるからね。

それと、放牧地は牛魔物との取り合いになるから北門の外の方が採集しやすいよ。

ただ、装備も無いみたいだから狼みたいな肉食の魔物を見つけたら尻尾巻いて逃げなよ!命有っての物種だからね。」


と、的確なアドバイスをくれる。


ただ、俺達があまりの勢いに押されてパクパクしていると、


「解ったのかい?解ったなら返事は!?」


と言われて、俺もナッツも、


「は、はい!」


と答えるのがやっとだった。


すると職員さんは、


「日暮れまで時間が有るから二人でしっかり稼いできな。

はい!急ぐ!!」


と、手をパンパンと叩き、俺達を薬草採集へと送り出す。


俺が、


「では、いってきます。

えーっと…何とお呼びしたら?」


と言うと、職員さんは一瞬キョトンとしたが、


「クレアだよ。立派な服を着てるから貴族様の出かい?…礼儀正しいね。

大概の冒険者は、ババァだの何だのと言って来るがね…」


と、笑っていた。


俺が、


「キースと申します。

これから宜しくお願いしますクレアママさん。」


と言うとナッツも、


「ナッツと申します。

私もキース様と同じく、この町で頑張りますので、ご指導よろしくお願い致します、クレアママさん。」


と、頭をさげる。


すると、ギルド職員の女性は、


「クレアママさんって、久しぶりに呼ばれたよ。キースとナッツだね…覚えたよ。

さぁ、気をつけて行っといで!早くしないと今日の稼ぎが減っちまうよ。」


と言って俺達を見送ってくれた。


俺もナッツも久しく母の雰囲気と触れておらず、凄い勢いに気圧されながらも、何故か少し嬉しい感情も溢れていた。


町の北門に向かいながら俺は、


「何か凄かったね…ナッツ…」


と言ってはみたが、ナッツもニコニコしながら、


「キース様、早く薬草を採集して戻らないとクレアママさんに叱られますよ」


と答えていた。


それから二人して、


「よし、クレアママさんを驚かせるほど薬草を採集するぞ!」


と意気込んで、初めての冒険者としての仕事に向かったのだった。

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