第三十七話
沙耶香side
私は今、もの凄い量の仕事に追われている。隆貴との旅行の為に仕事を数日間溜め込んだのが原因だ。だって、隆貴と二人きりで旅行しないかってお爺さんが聞いてきたから反射的に頷いちゃったんだもん。
写真集や雑誌の表紙に載せる写真の撮影やらテレビの出演、ドラマとかの撮影と本当に忙しい。普通なら、隆貴に会いに行く空き時間がいつもできるけど、忙しくてほぼ休む時間がなかった。
更に、アイドル紛いの握手会やらサイン会などもあるせいで、連日仕事漬けでメッッッチャ疲れた。数日掛けて、溜まっていた仕事と知らないところで増えていた仕事を片付け、隆貴に会えると思った時の時間は夜の11時。私は家のベッドで本当に泣きながら寝た。
朝起きて、私は大急ぎで身支度を整えて家を出た。普段は使わない車の自動運転を使って、道中変なところがないか何度も鏡とかで確認した。仕事の忙しさで精神が疲れて、余裕がなかった。早く隆貴の声を聞きたいという気持ちが私の心に溢れていた。
隆貴の家に向かっていると、車が突然止まった。私の中に沸々と怒りが込み上げてきた。乱暴に車の扉を開けると、そこには千澄とか言う男がいた。私は苛つきを必死に抑えて笑顔で相対した。
「沙耶香ちゃん。やっと会えた。実は頼みたい事が、」
「車の前から退いてもらえますか?急いでるんです。」
「い、いやぁ。そ、そう言わないでよ。僕を助けると思ってさ。」
気持ち悪い。本当に気持ち悪い。貼り付けたような笑みに下心の透けた視線。そのどれもが吐きたくなるほどに不快だ。私は自分で言うのもなんだが、かなりの美人だ。そのせいで、度々下卑た視線に晒されることは沢山あった。それでもここまで不快になった事はない。
彼と会った時から気持ち悪さはあった。最初の頃はまだ耐えられるくらいだったけど、会う度に気持ち悪く感じるようになった。高校二年生の時に助けたことがきっかけで知り合ったが、今では関わらなきゃ良かったと後悔すらしている。
彼の事はどんなことがあっても好きになれない。俗に言う、生理的に無理。これが一番当て嵌まるだろう。彼が何か言っているが内容はなに一つ入って来ない。いつまで経っても退かない彼に私は苛立ちを抑えられず、気づけば彼に拳を握り締めて近付いていた。
「・・・だからさ、沙耶香ちゃんの家にとめガハ‼︎」
「ふ、ふざけんなよ‼︎どれだけ私の邪魔すれば気が済むのよ‼︎本当に気持ち悪い‼︎アンタの声を聞くたびに吐き気がするし、寒気がするのよ‼︎本当に貴方何なの?・・・・・私の邪魔をするなら、本当に殺すわよ。地獄に行くよりも辛い地獄を味合わせてやる。分かった?」
「え、あ・・・。」
「二度と私の視界に入らないで。そして、関わるな。」
私は男の顔を殴り飛ばして、生まれてから一度も言った事のないような罵詈雑言をこのゴミに浴びせた。呆けたゴミから視線を外し、私は乱暴に車に乗り込みその場を後にした。
隆貴のいる家に着いて、やっと心が落ち着いた。隆貴に会った時には仕事の疲れや変な奴の事は全て忘れ、荒んでいた心は潤い癒された。いつもより、隆貴が好意的に接してくれた気がするけど何かあったのかな?
隆貴と数日ぶりに会って癒された私は、隆貴に会ってすぐに寝てしまった。客間で寝かされていて、起きたのが夕方で家には夜に帰る事になった。翌日になると私の家の前に沢山の記者が集まっていて、私は酷く困惑した。身支度を整えて外に出ると、記者は私に群がって来た。
「秋原さん‼︎ストーカー被害を受けていたというのは本当でしょうか⁉︎」
「一人でストーカーを撃退したとか‼︎」
「え、えぇっと・・・。」
昨日の事かな?まさか、ここまでの騒ぎになるとは思っていなかった。うまい言葉が出て来ず、固まっていると一台の黒い車が私の家の前に止まった。そこからなんと、隆貴が出て来た。
「た、隆貴⁉︎な、なんで!!」
「送ってやろうと思ってな。乗れよ。」
「う、うん‼︎」
私は周りの記者達を押し退けて、隆貴の方へ進んだ。記者の人達は私の行動にかなり驚いていた。多分、明日の雑誌や新聞に私の熱愛報道が載るんだろうな〜。そう思いながら急いで私は、隆貴の車に乗って事務所に送ってもらった。それにしても、昨日から隆貴が優しくなったのは謎だ。けれど、私はとっても嬉しい。
いつも素っ気ない態度で、私の事をあまり見てくれていたかったけど、昨日から明らかに私をしっかり見てくれるようになった。そろそろゲームの大型アップデートも終わるし、ゲームでも隆貴に会いたいな。
でも、なんだろう?最近、何故か隆貴のことを見ていると不安になるんだよね。女の勘ってヤツかな?女の気配がするような。
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作者です。沙耶香が千澄を嫌う理由は彼女の過去が原因です。アイツに顔と雰囲気が似ていたんでしょうね。
誤字確認していたら間違って下書きに戻してしまいました。話の更新と勘違いした方はすみません。
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