第三十六話
高登兄は黒島家の次男で、爺さんに兄弟の中で俺の次に気に入られている。高登兄は良い人だ。それも俺が多少敬意を払うくらいには良い。
だが、高登兄は俺に会うと人目を憚らずハグをしてくるから厄介だ。俺がガキの頃からそんな感じで、今でもしてくるので会うのは少し遠慮したい。それと、高登兄は長男を筆頭に一部兄弟姉妹を毛嫌いしている。
そして今、俺は高登兄に全力でハグされていた。まさか部屋の前に朝から待機してるとは思わなかった。
「久しぶりだな隆貴‼︎こんなにもデカくなって。お兄ちゃん感激だ‼︎」
「そういうの良いから早く離してくれんか。ちょっと苦しい。」
高登兄は誰とでも仲良くなれ、暗い人ですら自然と明るくなる凄い人だ。その証拠に高登兄の奥さんは、大学時代もの凄い陰キャオタクだったらしいが、高登兄のおかげか今では明るく人付き合いも上手くなっていた。それと、なんでも最初に惚れ込んだのは高登兄だとか。今、それについて何度も聞かされている。
ハグされながら惚気話を聞かされるのは流石に精神的に色々と来るものがある。引き剥がそうにも、高登兄のハグには特殊な力でもあるのか捕まると体から力が抜けるのだ。今でもその原理が分からん。
「高登。隆貴君が苦しそうだよ。嬉しいのは分かるけどほどほどにね。」
「ん?あぁ。済まんな隆貴。ありがとうな蓮香。」
「どういたしまして。」
やっと高登兄のハグから解放された。蓮香さんの一言で助かった。蓮香さんは先程説明した高登兄の奥さんだ。俺がさん付けするのは、この人のおかげで高登兄のハグが昔よりマシになったからだ。昔は普通に一時間以上ハグされ続け、何度も頭がおかしくなりそうになった。
「そういえば、隆貴。お前、四宮グループのボンボンに喧嘩を売られたんだってな。大丈夫か?」
「大丈夫に決まってるだろう。あの阿呆に負けると思ってんのかよ。」
高登兄の言葉に少し馬鹿にされた気分になった。それを察したのか、高登兄は慌てて弁明する。
「ち、違うぞ‼︎お兄ちゃんは隆貴が怪我をしないか心配なだけだ‼︎」
「なら余計に心配いらねぇよ。俺の強さは高登兄だって知ってるだろ。」
俺の言葉に高登兄は黙り込んだ。戦場で俺がどんな呼ばれ方してたかは、高登兄だって知っている。例えば、時に無表情、時に笑いながら敵を殺す様を、畏怖を込めて殺戮兵器なんて呼ばれ方をされている。何の捻りもないが俺本来の戦い方は実際にそんな感じなので、俺自身は納得している。
高登兄を置いて、俺は部屋に戻った。部屋の中には昨日の黒装束の奴が待っていた。頼んだ四宮グループについて調べた資料を渡されて、ソイツはすぐに去って行った。
資料には、四宮グループの表の顔から裏の顔まで詳細に書かれていた。ヤクザや海外のマフィアと結構関係を持ってるんだな。それに、昨日の奴らも四宮グループが関わってるのか。
海外マフィアは面倒だが、ヤクザに関しては問題にすらならない。ガキの頃に周辺のヤクザを潰して回ったせいか、今もなおヤクザから恐れられているので余程の馬鹿じゃない限り、介入はして来ないだろう。
それにしても、麻薬や金類の密輸や海外スパイの国内侵入の手引きだったりと色々やってんな。よく婆様も放置したな。まぁ、大した被害は出てないし、いつでも潰せるしな。今回はコレを使ってあの阿呆を叩き潰す。俺は売られた喧嘩は買う主義だからな。
さ〜て。どうやってアイツを潰そうかな〜。二度と俺に喧嘩売れないようにしたいが、良い方法がパッと思い付かないな〜。武力で叩き潰すだけじゃ心を折るには足りないし、沙耶香に協力してもらうか?断られそうだよな〜。沙耶香は優しいし。
魔力の修練を続けながらアレでもないコレでもないと考え、やっと良いのが思い付いた。アイツの心の支えを奪い尽くす。まず、アイツの後ろ盾になっている四宮グループを陥れて、黒島財閥で買収又は隷属化させる。その後、国内のマフィアやスパイを片付け、周辺のヤクザを久しぶりに殴り飛ばして頼れる場所を全て潰す。
そして、奴を誘導して沙耶香にぶつけて心を完全に折る。まぁ、俺だって優しいからな。沙耶香に変な事しなきゃ、心は完全に折れないはずだ。殺す気はない。誰に喧嘩売ったのか思い知らせるだけだ。
ついでに掃除も出来るんだから一石二鳥だな。婆様が現時点で何も言ってこない時点で、この件で何をしようとお咎めは無いはずだ。それでも、やり過ぎないように気を付けないとな。
そうと決まれば行動あるのみ。マフィアとスパイは既に諜報部隊の連中が片付けているので、ヤクザとグループ乗っ取りだけだ。大して時間は掛からんだろう。
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