第三十三話

 ナキアside

 私が隆貴と出会ったのは二年くらい前、私がまだ十六歳の事だった。私は紛争地域出身で、両親は戦闘に巻き込まれて死んだ。両親が死んだ後、フラフラと戦場を彷徨っていた時、一人の女性に助けられた。隆貴とはそれで知り合った。当時の隆貴は私に一切関心がなく、ただ友人が連れて来た何か、程度としか思っていなさそうな感じだった。


 助けてくれた女性はかなり危なっかしいけど、とても優しい人だった。彼女はどうしてか、私を助けてくれた後も私に何度も会いに来た。名前は聞いても教えてくれず、いつもはぐらかされた。それから一ヶ月経った時だった。私がいた避難施設に軍人が突入して来た。軍人達は中にいた人達を殺した。私は彼女と一緒にいて、彼女は拳銃で軍人達と戦った。彼女はとても強く、十五人もいた軍人を一人で倒していた。


 でも、最後に残った軍人が私目掛けて手榴弾を投げてきた。彼女はそれを見て、怯えて動けなかった私に焦った様子で近づいて、勢いよく突き飛ばした。その瞬間、手榴弾が爆発して彼女は致命傷を負った。幸い、私は爆発で散った破片で体に小さい傷ができただけだった。


 私は吹き飛ばされた痛みを堪えながら立ち上がると、隆貴が彼女を抱き起こしている姿が映った。隆貴はいつも無表情で素っ気無い男だったが、今はとても酷い顔をしていた。隆貴と彼女の会話は聞こえなかったが、何か言葉を交わして彼女はすぐに死んだ。


 その後、隆貴に彼女と使っていたという拠点に連れて来られた。そこで、隆貴に日記帳のような物を渡された。その日記帳には彼女、リン•セーリカの事が書いてあった。


 リンは私の母の姉、つまり叔母に当たる人のようだった。日記によると、母や祖父母と喧嘩をして家を飛び出して色々な事があって傭兵になったそうだ。私が妹の娘と分かったのは、母が送っていた手紙と同封してあった写真があったからで、日記帳に大事そうに挟んであった。


 私はその場で一日中泣いた。隆貴は不機嫌そうだったが、黙って私が泣き止むのを待ってくれた。私が泣き止むと隆貴は私に今後どうするか聞いてきた。私は隆貴と一緒の傭兵になることにした。一人で暮らすのも、叔母さんの縁で隆貴に助けて貰い続けるのも、私は嫌だったからだ。


 そこから、私は隆貴に鍛えてもらいながら半年間戦場を走った。私はたったの半年だが、戦い方の基本を身につけ、最低限隆貴をサポートできるくらいには強くなった。


 そして、隆貴はとても強かった。刀一つで敵の小隊に突っ込んで、全滅させるくらいには強かった。だからだろうか、私は戦場で油断していた。油断する事は戦場で一番してはいけない事だったのに。


 突然のことだった。私はいつも通り隆貴を後ろからサポートしていた時、背中を撃ち抜かれた。隆貴が斬り倒した敵兵が生きていたのだ。一度だけじゃなく、何度も背中を撃たれた。私は大量の出血をしながら倒れて気絶した。最後に記憶に残っているのは、隆貴が私に何か叫んでいたことだ。


 私が目覚めたのは小さな診療所だった。流石に死んだと思っていた私は、目覚めた事自体に困惑していた。そこに、私を助けてくれたらしいお医者さんに私を見つけた経緯を教えてもらった。


 お医者さんが診療所周りを見回りをしている時に、大きな悲鳴が沢山聞こえたそうで、その声が聞こえた所に向かった時に私を見つけたんだとか。その時、私の近くには沢山の軍人の死体が刃物で斬り刻まれて山のように積んであったそうだ。


 私は診療所で二ヶ月間過ごした。怪我は当たり所が良かったのか、目立つ後遺症が残るようなモノはなかった。でも、心臓に銃弾が掠っていて激しい運動が出来ない体になった。


 診療所で過ごした二ヶ月は有意義なモノだった。診療所の子供達と一緒に話や遊んだりして自分も子供になった気分でとても楽しかった。子供達の中ではフォルアという子と特に仲良くなった。フォルアは少し変わった子だったが、とても優しく、妙に気遣いが上手かった。


 傷が治って、診療所を出る時はこれからどうすれば良いのか、何も分からなかった。今まで、誰かが私の隣、あるいは前にいたから自分で何かしたいという考えを持ったことがなかったからだ。


 それを見かねたのか診療所のお医者さんは、私にツテで国外のかなり安い部屋と仕事を紹介してくれた。とりあえず、働きながらこれからのことを考えようと診療所を出ようとしたら、何も知らないはずのフォルアに一緒に連れてってと泣きつかれた。


 困った私はお医者さんと相談して、フォルアを引き取った。フォルアが一緒に行きたいと言った時、私は期待していたんだと思う。誰かが私と一緒にいてくれることを。


 紹介された部屋は生活は最低限できるくらいは良い部屋だった。仕事もすぐに慣れ、フォルアはお利口にしてくれたおかげで生活は安定していた。贅沢はできなかったけど、とても幸せで楽しい暮らしだった。


 いつも通り仕事が終わり、帰りに買い物をして家に帰っている時、周りがいつもより静かなのに気づいた。私の前と後ろに黒服の男が三人ずつ現れて、私を襲った。抵抗はしたが、六人相手は厳しく捕まってしまった。連れてかれた場所にはフォルアもいて、フォルアは今にも泣きそうだった。


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 作者です。主人公の初恋の相手はリン•セーリカです。ちなみに主人公の初めても彼女です。出すタイミングが分からず、あとがきに書くことになりました。

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