第二十九話

 ガキの妄言に俺は硬直し、沙耶香は大騒ぎしていた。ガキは涙目で俺に抱きついて顔を埋めて泣いていた。


 「た、隆貴に子供‼︎何で‼︎いつから子供なんてこさえたの‼︎」

 「し、し・・・知るかー‼︎‼︎ふざけるんなよこのクソガキー‼︎‼︎」

 「い、いやぁーー‼︎」


 俺は沙耶香の言葉を全力で否定し、クソガキの首根っこ掴んでぶん投げようとした。だが、それを慌てて沙耶香が止めようとした。


 「駄目だよ隆貴‼︎投げるのはやり過ぎ‼︎」

 「放せ沙耶香‼︎このクソガキを投げなきゃ気が済まなねぇ‼︎」

 「やめてお父さん‼︎」

 「お父さんって呼ぶんじゃねえクソガキ‼︎」


 クソガキの言葉に更に怒りが込み上げた。投げるのを諦め地面に叩きつけようとして、突然鳴った小さな音にハッとした。反射的に隠し持っていた短剣をクソガキを持っている反対の手で抜き、飛んできたを斬り落とした。


 「ちっ‼︎」


 俺はクソガキを急いで肩に担ぎ、短剣を撃ってきた相手に投げた。その後すぐに沙耶香を抱き寄せて、別荘に向かって全力で走った。いくら日が沈んでたとしてもこんな街中、しかも人がかなりいる状態で銃を撃ってきやがった。


 「な、何が‼︎」

 「お父さん‼︎」

 「良いから黙ってろ!!舌を噛むぞ‼︎」


 騒ぐ沙耶香とクソガキを怒鳴りつけた。すぐに街中は騒ぎになり、お相手さん達は引くに引けないのか、それでも俺達に向けて発砲してきた。それをクソガキと沙耶香に当たらないよう躱したりして、丁度良く狭い壁を蹴って上まで昇り、屋根の上を走って逃げた。


 別荘にはあまり時間をかけずに着いた。相手にとってもこの状況になるのは予想外だったのだろう。裏社会の人間にしてはかなり動きが鈍かった。本業の奴らならこんな馬鹿みたいな行動もしない。十中八九、出来たばかりの新興組織だ。


 「う、うぅぅ。」


 別荘では、移動で酔った沙耶香が使用人連中に心配されながら介抱されていた。クソガキの方は、念の為別荘の地下室にかん・・・保護している。詳しい話を聞くつもりではあるが、先に騒ぎを収める必要があるためそちらを優先している。


 例のモノの回収は進めているが、今回の事件のせいであまり進歩していない。早くアレを回収したいのだがなぁ〜。


 鎮圧は意外とすぐに終わった。沙耶香は疲れが溜まっていたのか、鎮圧に奔走している間に寝てしまっていた。沙耶香を寝室に送らせ、俺はクソガキがいる地下室に向かった。中に入ると、クソガキが寝ていた。俺はそれを無言で叩き起こした。


 「う、お、おとう、お兄さん酷い。」


 またお父さんと言おうとしたので睨みつけて言い直させた。同行していた使用人を退出させ、クソガキと一対一で向かい合った。


 「お前、名前は。俺は隆貴黒島だ。」

 「えっと、フォルア•セーリカです。7歳です。」


 たどたどしいが会話はしっかりしてくれた。それにしても、セーリカか・・・どこかで聞いた事のある名だな。


 「お前は何故追われてる。それと俺をお父さんと呼ぶ理由は?」

 「お、お母さんが怖い人達から逃がしてくれて、そ、それをその、怖い人達に見つかって、必死に逃げてたの。それで、お父さんはお父さんなの。お母さんを助けてくれるから!!」


 クソガキ、フォルアの言葉に疑問は全然晴れなかった。説明が下手というより、フォルアの中で何か確信めいたモノがある感じだ。それが分からない。


 「俺がお前の母親を助けると思うか?」

 「うん‼︎私、。お父さんが助けてくれるの。」

 「見た?」


 よく分からんことを言いやがって。まだガキだから仕方ないが、もっと分かりやすく言って欲しいもんだ。それにさり気なくお父さんって呼びやがって、ふざけんな‼︎


 「お母さんを助けて、お父さん。」

 「はぁ〜。分かったよ。助けてやるからお前の母親の名前を教えろ。」

 「うん。お母さんの名前はナキア•セーリカ。お母さんはお父さんの話を沢山してくれたよ。」

 「は?・・・・・ナキア?ナキア•セーリカだと‼︎」


 俺はフォルアの言葉に驚愕した。到底信じられる話じゃない。


 (馬鹿な。アイツが生きてるだと?そんなことが。だって、アイツは俺のせいで・・・。)


 「お母さんはお父さんが助けてくれた時の話とか、守ってくれた時の話とかしてくれたよ。・・・あれ、お父さん大丈夫?」


 冷や汗が止まらなかった。あの日の記憶が呼び起こされる。とそして期待が込み上げてきた。


 「まさか、そのナキア•セーリカは茶髪の三つ編みで肝が座った女か?」

 「よく分かんないけど、綺麗な茶髪の三つ編みだよ。この三つ編みだってお母さんに編んで貰ったんだぁ。」


 フォリアは自分の髪を触って嬉しそうに微笑んだ。俺はいつの間にか笑っていた。心の底から安堵した。そうか、友の犠牲は無駄じゃ無かったのか。俺は立ち上がりフォルアの手を引っ張り、地下室を出た。


 「ガキ、お前の母親は必ず助けてやる。だからこの家で大人しく待ってろ。良いな。」

 「うん‼︎」


 俺は歓喜に満ちていた。アイツが、ナキアが生きている可能性があることに。早速俺は準備を始めた。


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 作者です。主人公は過去に何があったのでしょうか?

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