第二十四話

 女悪魔キリシアside

 私は伯爵級悪魔のキリシアで、弟も伯爵級悪魔で名前はシエル。私はシエルが大好きだ。シエルは私よりも弱いけれど、可愛くて頑張り屋さんでとっても愛おしい子だ。シエルは私にとって、魔神様の次に大事なもの。


 今回シエルに頼んでいた死体は予想以上に多く、あと少しで魔神様を復活させられる。そして、シエルを連れて人間が主催する闇オークションで最後の贄を用意するだけ。それにしてもシエルの着替えが中々終わらない。久しぶりのお出掛けだから張り切っているのかしら?


 私はシエルを結構な時間待った。流石に長過ぎるので、シエルの様子を確かめようと扉に手を掛けようとした時、シエルが部屋に入ってきた。


 「心配したのよシエル。はしゃぐのは分かるけど程々にしてね。・・・ねぇ、シエル?大丈夫?」


 シエルは私の言葉に薄くしか反応しない。いつもなら素直に謝るか、私に抱きついて誤魔化すかするのに抑揚のない返事を返すだけ。


 「シエル‼︎しっかり返事して!!何か嫌な事でもあったの?」


 するとシエルはハッとして私を見て叫んだ。


 「姉さん逃げて‼︎ばけも、ギャァァァァ‼︎‼︎」

 「あちゃぁ。精神操作って意外とむずいな。次からもっと練習するか。」


 シエルが私に何か言おうすると体が黒い炎がシエルを襲った。それと同時にシエルの背後から男の声が聞こえた。


 「し、シエル⁉︎だ、誰‼︎私のシエルによくもっ⁉︎」


 声の主を全力で探すと、自分の背後から不自然な魔力の塊を感じた。部屋の出入り口は今、私の立っている場所しかない。私に気付かれずに入り込んだ。その事実にゾッとした。私は後ろに振り向くと間髪入れずに自分に使える魔法を全力で乱射した。


 「へぇ〜。容赦が全くないな。そういうの好きだぜ、俺。」


 シエルがいた場所から声が聞こえた。シエルがいる方向を見るとシエルの首に人間の男が剣を突き付けていた。


 「動くなよな。動いたら手がうっかり滑るかもしれないな〜。」

 「ね、姉さん。逃げて‼︎」

 「シエル‼︎」


 男は私の愛しいシエルをあろうことか人質に取った。激しい怒りが込み上げたが私はそれを抑え込んだ。今下手に動けばシエルに危害が加わる。それは出来るだけ避けたい。それにこの男はただの人間じゃない。


 「何のつもり?なんでこんなことを。」

 「何故って、お前らが悪魔で俺に見つかっちまったからだな。恨むなら不運にも俺に見つかった自分達を恨みな。」

 「・・・何をすれば良い?どうすれば弟を解放してくれる?」


 私がそう言うと男は愉快そうに口角を吊り上げて言った。


 「なら、何をしていたか話してもらおうか。このガキからは碌な話が聞けなかったからな。」

 「くっ・・・分かった。」


 私は男の要求通り魔神様復活など重要なところは言わず、全て話した。話が終わるとシエルがまた黒い炎に襲われた。


 「イギャァァァ‼︎ね、ねえ、さん、たす、けて。」

 「な、なんで‼︎全部話したでしょ‼︎」

 「肝心のところを言ってないよな〜。魔神復活とかさ。いや〜正直に全て話したら逃してやっても良かったのにな〜。ざんねんざんねん。」


 嘘だ。最初からこの男は私達を逃す気などなかった。そして、本能が、直感がこの男には勝てないと告げていた。私は本当に不本意だが、弟を見捨てることにした。魔神様のためだ。仕方ない。私は魔法で深い霧を発生させ、部屋の出口目掛けて走った。だが、


 「ギャァァァァァ‼︎‼︎う、腕がぁぁ‼︎」


 男は視界が悪い中、斬撃を飛ばして私の左腕を斬り飛ばした。激痛にうめきながらも私は走った。足場の悪い通路を必死に走っていると後ろからシエルの叫び声が聞こえ、私は片腕で耳を塞ぎながら走った。


 (ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい)


 私は心の中でシエルに謝りながら走り続けた。そんな時、足に突然痛みが走って動かなくなった。その足を見ると地面から生えた黒い棘に刺されていた。私は酷い混乱状態の中、黒い棘を魔法で無理矢理破壊してひたすら走った。


 (死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない)


 あと少しで通路を抜けられる。一筋の希望が目の前にあった。でも、それはすぐに絶望に変わった。


 「ぐっ。」


 出口の手前に硬い壁にぶつかったような衝撃が体を襲った。私は手を架空にかざすと見えない壁にあった。


 「ま、まさか、結界が、か、書き換え、られてる?・・・嘘よ。」


 私の中の何かが壊れたような感じがした。


 「嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ‼︎‼︎私はまだ死ねない‼︎死んで良いはずがないのよ‼︎あぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」


 私は結界に加減を一切せず、魔法を撃ちまくった。結界は破壊出来たが、魔力を全て使い果たし体が動かなくなった。カツ。カツ。カツ。静かな通路に足音が響いた。暗闇からさっきの男が出てきた。手には何かの首らしきものを持っている。


 「お姉さんも酷いね〜。弟さん、死ぬ最後まで、姉さん助けて〜って言ってたのにさ。まぁ、安心しろよ。すぐに弟さんに会わせてやるからさ〜。」


 私は動かない筈の体を必死に動かして、近づいてくる男から逃げようと地面を這った。


 「ま、だよ。わた、しは、あの子の、分まで生きな、ちゃいけ、ないの。だから、ま、じんさ、ま、わたしをたすけ・・・がは‼︎」


 男は逃げる私の心臓にある魔核を剣で貫いた。男は私に気味の悪い笑みを向けて最後に言った。


 「付き合わせて悪かったね。良いストレス発散になったよ。ありがとうね〜。」

 「うっぅぅ。こ、の、げ、どう、がぁぁ。しえ、るごめ、んな・・・・・」


 男は私の心臓から剣を抜き、私は絶命した。


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 作者です。これは自分で書いておいて言うのもなんですが、流石に主人公は容赦が無さすぎな気がします。元々主人公のイカれ具合を表現したかったのですが、こんな悪人みたいになるとは思いませんでした。ですが、これも主人公のあり方なので私は好きです。

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