第二章

第二十一話

 街を出た俺達は今、森を歩いていた。何故かって?シアの精霊魔法で街までショートカットしているからだ。精霊魔法って便利だな。歩いて一週間掛かる道のりが一時間で済む。


 「ご主人様。そろそろカルシミアに着きます。」


 迷宮都市カルシミア。俺達の目指している街だ。名前の通り迷宮がある街なのだが、この街は名前に迷宮とつくだけあり迷宮の規模が凄いらしい。しばらくはここを拠点にしてレベル上げをする。聖王国の大会に出るには、聖王国からの招待状もしくはキャラレベル80以上という条件があり、大会はゲーム内時間で一年後なので早急にレベルを上げなければからない。


 「すぐに街道に移動するぞ。フードはしっかり被っておけよ。」


 シアは森を歩く時ですらメイド服姿だった。歩きづらそうなのだが、ハイエルフだからか森の中を汚れ一つ付けずに歩いている。俺は森は歩き慣れているので問題はなかった。街の門にはたくさんの人が列を成しており、入るのに二時間近くかかった。検問はシアの顔が綺麗なせいで門兵がアホなことをしようとしたので、俺がそいつの服を全て斬り刻んで上司らしき奴を問いただし、迷惑料として金を貰ったくらいで、特に何もなかった。公爵様からの短剣が早速役に立った。


 「ご主人様。流石にあれはやり過ぎだったのでは?」


 街に入るとシアがさっきの件で俺を責めるように言った。


 「あれくらいが丁度良いんだよ。舐められるよりはマシだ。それに相手を間違えたアイツが悪い。授業料にしては安いもんだ。」


 シアは呆れた様子で俺を見てきたが、無視して冒険者ギルドに向かった。迷宮の情報を手に入れるにはギルドが最適だと、ゴーラスから聞いたからだ。中にはプレイヤーらしき黒髪黒目の奴らがいたが気にせずに受付に向かった。一応顔はスキルで少しだが変えている。シアも同様だ。


 「カルシミア冒険者ギルド支部にようこそ。御用件は何でしょう?」

 「迷宮の情報が欲しい。これがギルドカード。」

 「はい。確かに・・・っ⁉︎」


 受付嬢は俺のギルドカードを受け取って確認すると驚いて言葉を失っていた。Aランク冒険者はそんなに珍しいのか?すぐに我に返った受付嬢から色々聞いて、酒場で一人座って待っていたシアの隣に座り酒を頼んだ。ここのギルドは酒場と併設しているようだ。


 「どうでしたか?」

 「大体予想通りだな。明日から迷宮に挑む。だから今日は休みだ。好きなように行動していいぞ。」

 「では、ご主人様と一緒にいます。私は従者ですので。」


 そう言うとシアは果実水を頼んだ。俺は酒を、シアは果実水を飲んでいると、先程見かけたプレイヤーらしき男がシアをジロジロ見ながら話しかけてきた。


 「なぁ、アンタ達。ここは初めてか?」

 「えっ。は、はい。」


 無視すれば良いのにシアは律儀に相手の質問に答えた。


 「なら俺と一緒に迷宮に潜ろうぜ。先輩が色々教えてやるよ。」

 「必要ない。失せろ。」

 「失礼ですよ。ご主人様。」


 あまつさえ、一緒に潜ろうと言い出してきて反射的に断っていた。見た限り完全に格下なので足手纏いにしかならない。それをシアに怒られ、男はヘラヘラ気味悪い笑みで言った。


 「俺はアンタに聞いてるんじゃなくてこの子に聞いてるの。」


 男はシアの肩に腕を回そうとしていた。俺は溜め息をついてシアに言った。


 「シア、お前は世間を知らな過ぎだ。こういう輩は丁重に断るのが大事なんだよ。こんなふうに。」


 俺はシアに触れようとした男の腕を掴み、骨ごと握り潰して後ろに投げ飛ばした。相手はそれを呆然と受け身も取らず受けた。痛覚設定をオフにしているのか、痛がる様子はなかった。シアは呆気に取られ、男は状況を理解したのか顔を真っ赤にして怒鳴るように言った。


 「な、何しやがる‼︎」

 「何って、面倒な雑魚を退かしただけだろ。なんでそんなに怒るんだ?」


 相手を煽るように言うと男は激昂しながら腰の剣を抜いた。マナーがなっていないな。


 「ギルド内で武器を抜いたな。これは明らかなギルドの規則違反だ。今ならまだ間に合うぞ。武器を仕舞え。」


 俺はニヤニヤしながら小馬鹿にするように言った。すると男はそのまま俺に斬りかかってきた。馬鹿だと思いながら俺は男の剣を素手で叩き折り、組み伏せた。そして丁度ギルド職員が来た。


 「どういう状況ですか?知っている方は説明を。」


 眼鏡をかけた男の職員は周りの冒険者に話を聞き、俺の所に来た。


 「状況は理解しました。彼が規約違反者ですか?」

 「そうだ。どこに連れてけば良い?」


 俺は職員に案内されて、ギルドの地下牢に男をぶち込み、詳しい事情を聞かれて解放された。男は数日の禁錮とランク降格の処罰が与えられた。冒険者ギルドは誰でも冒険者登録が出来る。だからこそ、ギルドは規則に厳しい。冒険者が馬鹿な事をすれば、ギルド側にも責任が問われる事が多々あるらしく、面倒を減らすためにあえて厳しくしているそうだ。ゴーラスが街を出る俺に対して面倒を起こすなと何度も言ってきた時に聞いた。


 俺はシアと宿を取り、街を軽く散策しながら魔術理論についてシアに聞いて一日を終えた。


———————————————————

 作者です。補足ですが、武器を抜かなければギルドは冒険者同志のいざこざには介入しません。主人公が少し悪い奴に感じるのは私だけでしょうか?

 投稿再開します。途中で、投稿が止まることがあると思います。面白いと思った方は★と応援お願いします。

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