第八話

 沙耶香side

 私は秋原沙耶香。歳は隆貴と同じで、モデルの仕事をしている。母が日本人で父がイギリス人のハーフ。日本文化が大好きで、隆貴のことが大好きな女の子。急にいなくなった隆貴が三年ぶりに帰ってきたと聞いて、私は大はしゃぎした。直ぐに隆貴に会いに行った。隆貴は少し嫌そうにしてたけど私は気にせず接した。


 その翌日に隆貴との結婚話を聞かされて私は満更でもなかった。さっきも言ったけど私は隆貴が大好き。詳しい理由は今は置いといて、お婆さんからの公認を貰った時、私は多少強引にでも隆貴と結婚しようと考えていた。でも、隆貴はお婆さんに対して凄く怒っていた。あんなに怒った隆貴は初めて見た。隆貴からもの凄い圧を感じた。近くにいた隆貴の両親と兄、そして遅れてお爺さんが気絶していた。お婆さんが隆貴に謝罪すると、隆貴は突然気絶するように倒れた。


 「た、隆貴‼︎」


 驚いて隆貴を抱き止めた私に対して、お婆さんは大丈夫と言った。


 「大丈夫よ。この子は寝ているだけ。沙耶香さん、ごめんなさい。こんなことになってしまって。」


 私は慌ててお婆さんに質問した。


 「何が起きたんですか?あんなに怒った隆貴、初めて見ました。」


 お婆さんは悩ましそうにし、意を決した顔で話し始めた。私はそれを黙って聞いた。


 「知ってると思うけど、隆貴は家族に冷遇されてた。今は違うけど子供の時の隆貴は普通の子だった。突出した才能はなかったの。それが気に入らなかった家族は、隆貴を冷遇した。」


 私も前にお爺さんに教えてもらった。


 「でも、私は仕事を理由に隆貴から目を逸らしていた。今は、凄く後悔してるの。・・・隆貴が変わったのは、九歳の時だったわ。隆貴が家族と森にキャンプをしに行った時、飢えた熊と出会ってしまった。隆貴は家族の誰かに吹き飛ばされて一人逃げ遅れ、熊は隆貴を食おうと迫った。その瞬間に隆貴の中にあった狂気染みた何かが、隆貴の歪んだ精神と一つになった。その結果、隆貴は一人で熊をなぶり殺した。でも、おかしいと思わない。いくら隆貴が歪んだ狂気を持ったとしても九歳の子供が熊を一方的に殴り殺すことなど出来ない。」


 確かに、熊が相手なのだからただの精神論でどうにかなるものじゃない。


 「隆貴は魔力を使ったの、私も含めた魔術師と比べても異常な程の密度の魔力を。」

 「えっ⁉︎魔力って、あの魔力ですか⁉︎」


 私は咄嗟にお婆さんに魔力について聞いた。まさかゲームとかで出てくるあの魔力の事⁉︎


 「えぇ。私が駆けつけた時には隆貴は熊を殺していた。そして、すぐに駆けつけた私に襲いかかって来たわ。なんとか隆貴をさっきのように眠らせた私は、隆貴の魔力と精神の一部を封印した。そのせいか、隆貴はさっきのようにたまに情緒が不安定になるの。」


 お婆さんは後悔に溢れた声で説明を終えた。


 「それって、どうにかならないんですか?」


 隆貴が今どんな状態かよく分からないけどお婆さんの話から良くないということは分かった。


 「それは、隆貴次第よ。隆貴がそれを受け止められるかは、私でも分からない。それに、封印はもう、ちょっとした切っ掛けで解ける程弱まってる。だから、貴方には隆貴を側で支えて欲しいの。」


 私は即答した。


 「もちろんです。だって私・・・隆貴のこと、友達としても異性としても大好きだから。」

 「ありがとう。・・・隆貴にはこの事は黙っていて頂戴。本当にありがとう・・・あの子を好きになってくれて。」

 「はい。」


 お婆さんは泣きながら私に礼をしてきた。それに私は大きな声で返事をした。そして私は、隆貴と初めて会った日を思い出した。


———————————————————


 あれは私が13歳の時だった。その時は今みたいに明るくなく、少し内気な性格だった。それでも自分から変わろうと思い、持ち前の容姿を生かしてモデルの仕事をしていた。それで成功したせいか、私は調子に乗っていた。


 「ねぇ。私に用って何?友達待たせてるんだけど。」


 私は学校で良い意味でも悪い意味でも有名な金城祐希かなきゆうきに呼ばれていた。祐希は、わたしが通っている学校で一番のイケメンで街のボランティアに参加もしている爽やかで良い人だ。でも、裏では女子を脅したりしてるって噂が立っていた。私はただの噂だって信じていなかったけど、人気のない所に呼ばれた時に少しくらい警戒しとくべきだったと今でも後悔してる。


 「沙耶香ちゃんに少し相談があって。」

 「ふ〜ん。何かあったの?私が出来ることなら協力するけど。」


 祐希は嬉しそうにしていた。


 「実は、友達が好きな人にフラれたらしくてさ。慰めたくてね。」


 今でもこの事を思い出すとゾッとする。突然、周りから柄の悪そうな男が五人出て来て、その内の一人が私の腕を無理やり掴んできた。


 「えっ⁉︎は、離してよ‼︎祐希どいうこと‼︎」


 祐希は気持ちの悪い笑みをして言った。


 「言っただろ。友達を慰めたいって。協力してくれるんだろう。」


 すると私の腕を掴んでいる奴が下卑た笑みをしながら、


 「祐希さん、本当にヤっちゃって良いんすか⁉︎こんな上玉。」

 「後で他の奴にも貸せよな。俺は後でいい。」


 私はそんなやり取りを聞いて顔を青ざめた。


 「じゃあ、初物いただきまーす‼︎」


 腕を掴んでいた奴が私を押し倒して、犯そうとしてきた。私は怖くて声が出てこなく、されるがままだった。そんな時、


 「おい‼︎お前ら、人様の庭の近くで何やってるんだよ。やるなら他所でやれ‼︎」


 私と同じくらいの歳の木刀を持った男の子が私達に怒鳴っていた。それに対して、祐希の近くにいた大男がその男の子に近づいた。


 「餓鬼、さっさと帰りな。痛い目に会いたくなかったらな。」

 「へぇ〜。お前は俺を倒せるのかよ?見た目だけの雑魚がイキがってんじゃねぇよ。」


 男の子はあろう事か大男を煽った。男は憤慨して男の子を殴ろうとしていた。祐希が憂鬱そうに、


 「はぁ〜。後処理が増えるな。」


 誰から見ても男の子が勝てるとは思えなかった。でも、


 「グァー⁉︎」


 男が凄い勢いで吹き飛ばされた。更にわたしを押し倒した奴と他の奴らが、いつの間にか消えていた。


 「やっぱ雑魚だな。準備運動にもならん。」


 体を起こして声が聞こえた方を向くと祐希を含めた全員が倒れていた。意識が残っていた祐希が男の子に対して、


 「こ、こんな事してタダで済むと思うなよ。俺のパパは国会ぎっ⁉︎」


 脅そうとしていたが男の子に木刀で殴られた。男の子は笑いながら、


 「こりゃ怖いねぇ。政治家か。一つ言っとくが、俺の名前は黒川隆貴って言うんだがな。政治家が親なら聞いた事くらいあるだろ。」


 黒川隆貴、モデルの仕事をしている時に聞いたことがある。世界有数の巨大財閥、黒川財閥当主の孫の中で一番当主に気に入られている子らしい。その子は青い顔をした祐希を再度殴って気絶させて、私に近づいてきた。


 「おい、お前大丈夫か。襲われてたようだったが。」

 「う、うん。大丈夫。・・・あのなんで助けてくれたの?」


 私は隆貴につい助けた理由を聞いた。


 「ん、あぁ。たまたま見かけてな。修行にちょうど良かったからだな。まぁ、めっちゃ弱かったけど。」

 「そ、そうなんだ。・・・ありがとう。」


 私を助けようとしていた訳じゃなかった。でも、わたしの鼓動は収まらなかった。さっきから鼓動が激しくて、体が熱かった。それから、彼と一緒に過ごすようになって、恋を自覚するのに時間はさほど掛からなかった。


—————————————————

 作者です。今回は沙耶香ちゃん視点で書きました。主人公の秘密と沙耶香ちゃんの過去を書いたら少し長くなりました。

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