第11話「待ち望んだ報告」
一行は次の日の朝から再び歩き出し、夕方にはエーベの街に戻ることができた。途中で何度かモンスターに出くわしたりマイクが泥沼に転んだりするアクシデントはあったにせよ無事に戻れてホッとする一行だった。
「やっと戻れたね、なんか一気に疲れがドッときた感じ〜」
「まぁベラは隠れて酒飲んでたからだるくなったんだろ?w」
「んなっ!?マイクそれは言わない約束じゃんか!」
ベラとマイクは夫婦漫才のようなじゃれあいをする様子を2人は笑って楽しんでいた。今この瞬間のひと時を一行は楽しみ、旅の思い出として残せるようにエリオットはそのじゃれあいを絵に描いていく。
「ほーほーw
やっぱりエリオットくんは絵が上手いですなーw」
ベラはニヤニヤしながらエリオットの絵を見てからかっていた。
「ベラ!?まだ完成してないから見ないでよー!!」
「あははは!」
その絵には、みんなでボロボロになりつつも笑顔で街の中を歩く姿が描かれている。エリオットにとって、この旅の最初の思い出の絵として。
像が置いてある噴水広場まで戻っていくと、依頼主である少女が後ろを振り向いて気づいた。その横には一時的とはいえ回復をした母親の姿もある。
「あっ、みんな!!」
「あ、いたいた!おーい!」
この中で年長組のベラは年甲斐もなく小さな子供と同じくらいの元気な声で少女に呼びかけ手をブンブンと振っている。そしてみんなで少女の元に走り寄っていく。
「皆様、この度は私のためにキマイラの元に行って頂きありがとうございました。」
母親は深々とお辞儀をして出迎えていた。
「いえ、元気になってなによりです!お母さんが元気になってよかったです!」
「みなさん、私からも母を救って頂きありがとうございます。勇者猫様、本当にありがとうございます。」
「い、いやーそれほどでもー///」
「いや本当にそれほどだろー?w」
「そ、それは今目の前で言っちゃダメなんだって!」
「「あはははは!」」
複雑な心境になりつつも、一行はまず母親の身の安全が確認できたことに安堵した。
ーーーーーー
その後、2人の家に招待をされて夕ご飯が振舞われた。家は街の中でもそれなりに大きく地主として代々受け継がれていると聞いた。そして今回の一件を簡単に母親に伝えると母親も不思議なことを一行に語ることに。
「なるほど、そうだったのですね...
キマイラが実は私の命を守るためにわざと呪いを上書きしてるとは思いませんでした。遠出できるようになりましたらキマイラのためにお墓を設立するつもりです。」
「うん、そうしてあげて。キマイラも元気になったお母さんのことを喜んでくれると思うから。」
リリアナは精一杯の笑顔で母親にそう伝える。すると母親も一行に何か思うことがあるのかあるものを取りに行った。
「いやーお母さんの料理美味しいねー!」
「でしよ!自慢の母なんです!」
いつのまにか少女はとびきりの笑顔を一行に見せていくため、マイクは少し見惚れている。
「「ロリコンめ」」
「誰がロリコンだ!?」
女性陣2人がマイクに辛辣な言葉で場を盛り上げる。賑やかな食卓で楽しいひとときを過ごす一行。
「では今回のお礼をしなくてはなりませんね。」
「いやいや!いいですよそんな!困った時はお互い様じゃないですか!」
エリオットは報告しにいったことでお礼を強要してしまったと思い、咄嗟に突っぱねたが母親も意思は固かった。
「それでは私たちの気持ちを無下にしてしまいますよ?
そうだ、私の部屋のドレッサーからあの鏡を持ってきて欲しいの。」
「わかった!」
少女は2階に上がっていった。そして少し時間が経つと下に降りてきた。その手には縁が藍色の手鏡を持っている。
「みなさまにはこれを...」
一行が手鏡を見る。一見するとなんの変哲もないただの手鏡だが、続けて母親は説明をしていく。
「これは私たちが代々受け継いできた『ミーネの手鏡』になります。この手鏡には特殊な魔力がこめられてあり、例えば幻影の中から本体を見つけたり、相手の心の隙間に入り込み鏡越しから真実を見ることができます。他にもいろいろと活用できるかと。」
「そんな大事なものを頂いても大丈夫なんですか?」
マイクは恐る恐る聞いていく。
「はい、私にとってはこの子が1番大切なので。またこうしてこの子と楽しく話すことができて嬉しいです。それにもう何代も受け継ぐだけで使用していない代物になるので。
これがお礼と言うのもおこがましいですが、旅にいつか役立つはずです。」
母親は少女に優しく微笑みながら一行にその旨を話した。まさしく今この瞬間が幸せだと顔だけでわかるくらいに。
「わかりました。ありがとうございます。いつかこの手鏡が役立ちましたら必ず手紙でご報告します。」
マイクはそう言って手鏡を自身のバッグに大切につめていく。鏡が割れないようにタオルでくるんで。
「皆様は明日旅立つのですよね?」
「はい、まずは東にある港街のリアナ街に行こうかと。サイミン城下街行きの船に乗るつもりです。」
「そうなのですね、ではお一つ情報がございます。私が眠りに着く前にどうやら今、リアナ街近郊にてとてもずる賢い海のモンスターがいるようです。それにはお気をつけください。」
「いろいろと何から何までありがとうございます。」
こうして食事を終えた一行は一度分かれて宿屋へと戻って行った。
「お母さん、本当によかった...」
「心配かけさせてほんとにごめんね...」
2人は互いに優しく包み包まれるように抱きしめていた。
ーーーーーー
「さて、エーベとはこれで一度お別れだな。」
「だね、なんだかんだこの街の問題を解決できてよかったよ。」
年長組は朝早くから起きて支度をしていた。朝ごはんの準備をマイクがしているとエリオットが下に降りてきた。
「おはよ2人とも...」
「おはよー!」
「おう、おはよ。エリオットは偉いな早起きで。」
「んーまたリリアナは寝坊?」
「かもね、ちょっと誰か起こしに行って...」
そうマイクが言いかけようとした時だった。
「いやぁぁー!!」
下にいる3人がすぐ気づくくらいな大声の悲鳴を聞いた。すぐに3人は階段を上りリリアナの部屋の前まで急いで行く。
「どうしたのリリアナ、大丈夫!?」
ベラがドアをトントンしながら話しかけるも応答がない。仕方なくベラはドアを開けるとリリアナはうずくまってビクビクと怯えていた。
「「「リリアナ!!」」」
3人は一斉に叫んだ。一体何があったのか不安や恐怖が3人を覆っていく。
「おいリリアナ!しっかりしろ!」
「リリアナ!リリアナ!?」
「リリアナ、しっかりして!」
リリアナに問いかけながらベラは体を優しくさすって落ち着かせる。
「はぁはぁ...みんな...おはよ」
「おい、どうしたんだよリリアナ。何かあった?」
「大丈夫、怖い夢を見ていただけだから...」
少し考えた後、ベラはある提案をした。
「ほら、男たちは出ていきな!ここからは女の聖域だぞーw」
「ってベラなんでにやけてんだよー」
「はいはい2人とも出てった出てった!」
そうしてベラはエリオットとマイクを追い出して鍵をかける。
「じゃあおれらは先にメシ食ってるから、落ち着かせたら下来させて」
「わかったよー!」
足音は徐々に聞こえなくなったことでベラはほっとした。そしてリリアナに問いかけていく。
「ほんとにどうしたのリリアナ?そういえば気になってたんだけど、野営してる時夜ふと目を覚ますとリリアナがいない時があったからどうしたのかなって。」
「い、いやほんとに大丈夫だって...」
「ほんとに大丈夫なら私の目をちゃんと見て...」
ベラは静かにリリアナの目を見て話そうとするがリリアナはベラの目を合わせるのをためらっていた。少しの間沈黙が部屋を包み込みそしてリリアナは観念したのか、ようやく理由を話し始めた。
「ほんとに夢を見ただけなの、悪夢って感じだった。小さい時からずっと見てた夢、毎日うなされるようにね。」
「理由は話せる?」
リリアナは静かに首を横に振った。
「ごめんベラ、正直に言うとあまり話したくないことなの...」
「そっか...」
また少しの間沈黙の時間が2人を包んだがベラは頬をあげて笑顔をリリアナに見せて
「わかった!リリアナにも事情があるもんね。話したくなった時にちゃんと話してくれればよし!だから、今日は静かにまず泣いていいからね?」
「うん、ありがとベラ...」
リリアナはベラの胸の中で声を押し殺しながら静かに泣いていた。リリアナにとってはこの時からやっとできたお姉さん的存在になりえると感じていた。
月の下で夢を見て 希塔司 @abclovers0104
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