第10話「夢から覚める時」

「リリアナ!エリオット!目を覚まして!」


洞窟から吹っ飛ばされて数時間が経過して先にマイクとベラが起きていた。2人は洞窟の惨状とキマイラの姿がないことから、キマイラが自分たちを庇ったんだと実感していた。辺り一面が荒野になっていて周りにあった岩場や木など全てが吹き飛んだりしていた。


「ダメだ、全然起きねぇ...」


2人は頬を軽く叩いたりしていたが反応が全くないことから最悪の展開までもを予想していたが互いに脈や心臓の鼓動を確認したところ動いていたため、まずは生きていることに安堵したがいつ起きるかわからないためしばらくは少しずつ帰還しながら交代で2人の様子を見ていくことにした。


「おれたち情けなかったな。あっけなくやられてしまって...あげくキマイラのことを見殺ししてしまった感じにしてしまった。」


「そうね...私たちが気絶している間にこの子達に押し付けてしまった。勇者として失格よ。」


2人は大人としてまだ子供のリリアナとエリオットに戦闘やらキマイラのことなど気絶している間に全てが終わっているとは思っていなかったと感じて落ち着けなかったのだ。本来は自分たちが命をかけて守る責任があるのだから。


エーベの街に戻るまでに大体2日はかかるため、それまでに目を覚ますことを願いながら馬車の中で2人を寝かしつけてマイクとベラは今後について話すことにした。


「なぁベラ、これからどうすりゃいいんだ?あんなやつらと戦い続けたらおれたちはもちろん世界はおわるぞ。特にあの古代兵器、何もかもが規格外すぎる。あれと戦う以上おれたちも何かしらの大きい力や技、魔法とかを覚える必要が出てくる。」


「確かにね、ただでさえあのリアーレとかいうやつは何考えてんのか正直わからないしあの古代兵器も対策しなくちゃね。でもこのことはリリアナやエリオットは巻き込めないわ。この子達は勇敢だけど、まだ子供だもの。」


互いに意見を交換し、否定的な意見も中にはあったがリリアナやエリオットを巻き込まないという点では共感をした。大人として守らなければならない責任を感じていたからだ。


「まぁとりあえずもう日が暮れる、今日はここで野営をしよう。ベラは何が食いたい?」


「今日は...なんか食べる気分じゃないや。」


「そういうなって、食わなきゃ強くなれないぜ。とりあえず昨日釣った魚にしよう、魚好きなんだろ?」


ベラは少し恥ずかしながらも頷いた。マイクはさっそく調理器具を用意して料理の準備を始めた。ベラはその間にテントを張り始めた。


       ーーーーーー


      

「お父さん...お母さん...どこにいるの...?」


一方リリアナはある夢を見ていた。夢というより過去に起きたある出来事を。

空が覆われるほど大きい飛行船、それが無数に飛んでおり主砲や空爆で街を次々と燃やしていく。通っていた学校、よく友達と遊びに行った裏山、優しくしてくれた雑貨屋、落書きやイタズラをよくしていた街の広場、そして自分の家が。


すべて、すべて燃やされてしまった。たった1日で。母から渡されたペンダントを手にうずくまっている小さいリリアナは何もできないままただ見ているしかなかった。自分から全てを奪ったあのマークが記されている国によって...


その日、人々は平和という夢から叩き起こされてしまった。そしてリリアナは復讐という現実に引っ掻き回されることになった。


「許さない...いつか絶対お前らの国を滅ぼしてやる...」


小さい少女がその時、世界に混沌をもたらそうとする国に宣戦布告を誓った日であった。



       ーーーーーー


リリアナは目が覚めると馬車の中にいた。ベラとマイクがここまで運んでくれていた。隣にはエリオットがまだ寝ている。リリアナは起き上がるとエリオットに布団を掛け直した。


外からはベラとマイクの声が聞こえてくる、2人は料理を作っており賑わっている。


「マイクもっと味を濃くしてよ〜!」


「濃くしたら2人が食えなくなるだろ、自分で塩やら追加しろよな。」


そしてリリアナは外に出て行った。


「あ、リリアナ!もう大丈夫なの?」


「リリアナ、大丈夫か?」


「うん、2人ともありがと...」


2人は優しく声をかけた。2人は途中から気絶をしていたため、リリアナに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「ごめんねリリアナ。私たちあんまり役に立てなくて、ほんとは勇者である私が2人を庇わなきゃいけなかったのに。」


「気にしないで!それより美味しそうな匂いがしてるね!魚料理だー!」


リリアナは2人に暗い表情や思いを隠すように大きい声で料理に喜んでいる。今見た内容を2人に悟られないためにだ。そしてその大きい声を聞いたエリオットも起きたのだった。


「みんなおはよー...」


「エリオットも起きたか、少ししたら料理できるからちょっと待ってな!」


マイクは親指を上に立てて笑顔を振りまきエリオットが起きたことを喜ぶ。エリオットはリリアナの隣に来て座り出した。


「負けちゃったね...」


「うん...キマイラを守れなかった...」


2人は負けた自分たちを責め続けた。会ったばかりの自分たちを信じ最後に世界を託していったキマイラを見殺しにしてしまったことに。マイクとベラはそんな2人の様子を観察してできるだけ明るく振る舞うことを決めていた。


「まぁ2人とも、まずは生き延びることができたことに感謝しよう。とりあえず飯ができたから冷めないうちに食おうぜ。」


「そうね、ひとまず食事を食べて元気を出そう!」


そうして輪になって2人が作った料理をリリアナ、エリオットのそれぞれが食す。


「美味い!やっぱりマイクの作った料理は格別だね!」


「だろ!魚料理が1番得意だったからな!」


ちなみに今日は小麦粉をまぶしたムニエル風の味付けになっている。ベラは塩を用意してさっそくたくさん振り撒いている。


「おいおいベラさんや、一口食べる前にもう塩を振り撒いてんのか?」


「味濃いのがいいのよ、それがまた酒に合うんだから!」


2人が言い争いをしている中、エリオットは考えていた。自分はもっと強くならなければならない。リアーレが世界に危機をもたらすのは間違いない以上、このままでは世界中を周る前に滅ぼされてしまうと思ったからだ。


「でも攻撃魔法を覚えられるかなー...

神官タイプに合う攻撃魔法ってーー」


「あるわよ。神官タイプでも使える魔法は。」


エリオットの独り言にベラが参加してきた。


「ほんとに?」


「うん!なんと言っても光魔法があるよ。勇者と同じように。」


エリオットの中で一つの目標ができた。いくら自分がサポート中心だとしても何か一つ相手に牽制代わりになるものが欲しいと考えていたエリオットは引き続き話を続けていく。


「それってどこで覚えられるの!?」


「私は聖教の街『シラソル』で学んだわ。とはいっても光魔法でもいろんな種類があるから覚えるのも一苦労よ?」


「うっ...でもみんなの役に立ちたいからがんばりたい...」


エリオットはつっかえていたものが取れたのか緊張していた顔が若干和らいだ。一方リリアナはそれを笑顔で聞いていた。


こうして一行は食事を楽しみ、あっという間に平らげた。




       ーーーーーー


食事が終わり皆が寝静まった深夜、リリアナは1人起きていた。散歩がてらに野原に向かい寝っ転がる。辺り一面に広がる星々と唯一地上に暖かく光を照らしている月の下で。


「また...また負けちゃったよ...

お父さん、お母さん、ごめんなさい...」


リリアナは涙を流しながら自分の無力さを嘆いていた。全てを失った時と同じようにキマイラを見捨ててしまった自分を。

泣き顔を誰にも見られないように腕で顔を隠し、皆が寝ている場所から少し離れたところで1人、朝が来るまで泣いていた。

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