第9話「現実を知らない子供」
エリオットたちはリアーレに臨戦体勢をとった。いつどこでまた古代兵器を使っていくかわからない以上あまり動くことができない。威力も絶大で中級の冒険者が手も足も出ないキマイラを完封するくらいの実力はある。一撃でも食らえば即終了となってしまう中、最初に動いたのはベラだった。
「みんな伏せてて!
レインフォーリンググングニル!!」
ベラの放った光の槍はおそらく今までよりも遥かに多く、そして今までよりもずっと速い速度で降り注ぐ。だがリアーレはいとも簡単にそれを避け切っていく。彼が着けている古代兵器の一つ、粒子プラズマ炉により速度を大幅に向上させているためだ。
「なんだ、勇者猫もこの程度なんだw
なら僕はこれを使おうかな。」
リアーレが用意したのは『アンバランスキャノン』。対象の位置を捕捉した後不規則に爆裂弾丸を放つ。辺りを爆散させて敵を撹乱させて注意を引くためだ。
「くそ、どこよ全く!」
弾丸自体は交わしたものの辺り一面爆煙で曇ってしまい視界が遮られてしまう。次の瞬間...
「ぐわぁー!!」
マイクから声が発せられた。何かが煙の中を飛んでいる、でかい虫のようなものが。そして今度はそいつらがベラに向かって襲いかかる。ベラは飛んで交わしたがその虫のようなものが目からビームを数発ずつ放ちベラは被弾してしまった。
「ぐっ!」
被弾もある程度で済んだが片腕を怪我してしまい力が入らなくなってしまった。腕を抑えながらもなんとか逃げようとするが追撃をくらいベラも気を失ってしまった。程なくして煙ははけて視界が澄んでいく。すると虫のようなものはなんと古代文明の機械だった。
「驚いたでしょ?旧時代ではこのビットが一般的な兵器だったんだよ。視界が悪くても敵を捕捉して撃っていくんだよ。今の時代の人には理解できないか。」
リアーレはにやけながらエリオットたち今の時代がいかに文明レベルが落ちたのかを説明していった。機械による戦争をしていた時代と武器や魔法で戦う今の時代ではまるで恐竜とアリほどの戦力差の違いにエリオットたちは恐怖していく。
「それでも、私は戦う!あなたのようなイカれた人に世界を好き勝手にはさせない!」
「なぜだい、なぜ勝ち目のない戦いを好んで進めるんだか。」
「私には夢がある!夢を叶えるまで死ねるものか!!」
リリアナは魔力を高めながらリアーレが理想とする世界を否定していく。笑いながらリアーレも反応していく。
「あはははは!なるほど、確かに魔法は僕の時代にはなかったからね。そう、必要ないからね。」
古代兵器の一つ、『ミスアンコール』を取り出した。リモコンのようなものでボタンをポチっと押すとゴゴゴゴっと鈍い振動音が洞窟の中で響いていく。リリアナは上を見上げると、魔力を高めていた手を降ろした。その光景は正にリリアナにとって絶望感を味合わせるものだった。
「旧時代の人間はこの地上だけじゃ飽き足らず宇宙にまで進出したんだ。
あれはその名残、名前は確かコロニーだったかな。あそこに人が移り住んでいたんだよ、今は残骸でほんの一部だけだけどそれでもここら一体の地域を殲滅できるだけの威力はありそうだ。」
「そんな...こんなことって...」
「夢は覚めるものだ、いつだって一時の気休めでしかない。さぁ、起きる時だよ。」
ほんの少しが落下するだけでもリリアナたちをはじめ甚大な被害をもたらしてしまうコロニー落しという反則じみた技に乾いた笑いが起きてしまう。
「リリアナ早く逃げよう!ここは危険だ!」
「残念だけど君たちの足じゃあの落下の衝撃には間に合わないさ。これでキマイラにもトドメをさせるし、僕はこれで失礼するよ。君たちがここまで弱いのは想定外だったからね。それじゃあ地獄で会おう。」
リアーレは飛行ユニットにて飛び去ってしまった。エリオットは膝から崩れ落ち涙を流していた。自分の人生がこんなにあっさりと終わってしまうと思うと何も言葉にできず。リリアナはエリオットの様子を見て魔力を再び高めていく。
「何をしようとしてるの?」
「決まってるでしょ!あれを破壊するのよ!」
リリアナはなんとコロニーを破壊しようとしていた。ベラが気絶しているためあの技を放てない。だがエリオットの涙を見て自身が囮になろうと決意したのだった。
「私があれをなんとか破壊する!だからエリオットはみんなとキマイラを連れてここから逃げなさい!」
「そんなことしたらリリアナは!?嫌だよ置いてくなんて!」
「見くびらないでよ!本気をだせばあれを破壊するくらいの力はあるんだから!」
リリアナの言葉の圧にエリオットは悲しみを感じていた。ここで仲間を見殺しにする決断をしなければならないことに。するとキマイラが立ち上がり2人に語りかけた。
「我がやる。お前たちは2人を背負って逃げろ。」
「キマイラ何言ってんの!あなただって重傷を負ってるじゃない。そんな怪我であれを破壊したらあなたが死んじゃうわ。」
「人間たちよ、我を助けてくれたことに感謝する。だがもういいのだ、我は充分長生きした。我が死ねばあの母親の呪いは弱まる、だがあの男を倒さない限り次々と呪いの餌食になるだろう。お前たちはあの男を倒すんだ。たとえどんな悲しみがお前たちを襲ってもだ。
あの男はこの世界にかけられたある魔法を解くつもりだ、なんとしてでもそれを阻止してくれ...頼む。」
キマイラは口を開きエネルギーを貯めていく。本当に破壊をして皆を守ろうとしていたのだった。エリオットはすかさず疑問を聞いた。
「どうして、僕たちを...」
「もう一度、人間の夢を信じてみようと思ったのだ。かつて私たち虚構種が作られ人間の夢を守ってきたように。
ぐっ...まさか我がこんなことをする日が来るとはな。最後に、2人の夢を教えてくれないか?」
「私は...
私はいつか世界中の魔法を解き明かして教室を開きたい!教えた魔法で世界を暖かく包みたい!」
「僕は世界中を旅していろんな街や風景や思い出をこのキャンバスに描いていきたい!」
2人は初めて明確な夢を語った。敵であったはずのキマイラに。
「そうか、ならお前たちは生きなければな。
さぁ行け!いつかあの男を倒し夢を掴め人間たちよ!」
2人は自然と涙を流していた。夢は人間や魔物という垣根を超えて絆を結んでいくものだと2人は実感しながら気絶しているマイクとベラを肩に担いで。
「キマイラ...ありがとう!!」
2人は来た道を戻り始めたのだった。
キマイラは上空を見上げてコロニーを見た、そこはかつて旧時代の仲間や人間が住んでいた場所、自分もかつていたのだと思い出しながら。
「ネルソン、待たせたな。今そっちに行く。
いい土産話があるんだ、今度こそ...ゆっくりと話そうじゃないか...」
キマイラはエネルギーの光線をコロニーに向けて発射した。コロニーは上空で爆発をしたが爆風が迫り来る。キマイラは最後の力を使い辺り一帯を爆風から守るためにバリアを展開させ、被害を最小限に食い止めた。
一方リリアナたちにもその余波が迫っていた。すでに入り口手前まで戻ってきていたが
「きゃあ!このすごい揺れは!?」
「洞窟が崩壊するよ!!」
キマイラが貼ったバリアがあるとはいえ余波は凄まじかった。洞窟は落盤しかけている、リリアナは自分たちの後ろに爆発魔法を放ち、爆風によって一気に入り口を抜け出した。だがその反動により2人まで気絶してしまった。
〜続く〜
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