第8話「現実という呪い」

リアーレはどこかへそのまま行ってしまい、エリオットたちはさらに奥へと進むことにした。奥に進むたびに異様な匂いがしてくる。何かを燃やしているような焦げた匂いだ。


「なんだろう、焦げ臭い。」


「確かに、まさか虚構種が何か燃やしてたりするのかな?」


リリアナと話しながら歩いていくとふとあるものが落ちていた。何かの骨だ。マイクやベラがそれを確認すると、これは人の骨だと判明した。さらに周りには武器や防具や頭陀袋などが散乱してあるため、おそらくは討伐に向かった冒険者の亡骸だと推測した。


皆で手を合わせて祈りを捧げていく。死んだ者の魂がどうか安らかに天国へと昇れるように。


「グウォーン」


まるで警報のホルンが吹いたかのように洞窟の中で響き渡る。そして地鳴りが発生した。


「なんだ一体!?」


「わからない、もしかしたらあの虚構種の巣に来たんじゃないの私たち!」


そう話すのも束の間、上の崖にやつがいた。

コウモリの羽、牛のツノ、ライオンの立て髪、そして皮膚はまるでそこらへんに落ちている鉄鉱石のように黒光して鉱石と同じ硬度の皮膚。キマイラだ。


「汝らなぜ余の住処に入り込んだ...」


「え、喋った!?えっと、話せるんですか?」


「いかにも、余はキマイラ。かつて旧時代に人間どうしの戦争に駆り出された人造生物。

さぁ答えよ、なぜ我の住処に入り込んだ?」


なんとキマイラは人の言葉を話すことができたのだ。それも旧時代に人間との戦争にも参加したことがあるという。続けてマイクはその理由を話すことにした。


「おれたちは依頼を受けたんだ。お前がかけた呪いである1人の少女が悲しんでいる。お前がその母親を呪いにかけたんだろ?」


「いかにも我が呪いをかけた。だがあの時はやむを得ない状況だったのだ。そうでなければあの女はすでに死んでいたのだからな。」


「え、それって何があったんですか?」


「余たち虚構種を狙っているものがいる。その男はこの世界そのものを憎み、現実を統べると宣言したのだ。その男の呪いを偶然その母親がかかってしまったのだ。この世の現実の呪いを、それを上書きするために余は呪いをかけたのだ。


夢を見せるものだ。その夢の中で今その母親はなんとか現実から脱出しようとしている。」


キマイラがいう現実とは一体どういうことだろうか。そしてそれに相反する夢とは一体。そう皆は考えていた。


「その現実って一体なんなんですか?

それにあなたを付け狙っている人って。」


「それは...」


キマイラがその人物を言おうとした瞬間、何かの光の光線が無数にキマイラを撃ち抜いた。皆が後ろを振り向くと、リアーレがそこにいた。何か武器のようなもの、確認するとなんとかつて古代に使われた武装兵器をいくつか所持していたのだ。


「いやーみんなありがとね探し出してくれて。おかげさまで無事に始末することができたよ。たぶんこれで少女の母親はきっと起きるはずさ。


みんなご苦労様、あとのことは僕が引き受けるよ。」


「ぐぐ...貴様...」


血を吐きながら今にもリアーレに襲おうとするキマイラ、さらにリアーレは古代兵器であるシューターを用意して発射させる。無数の爆弾が着弾と共に起爆し、さらにキマイラを襲った。


「がぐっぐふっ!」


「あはははは、お前ら虚構種を作ったのは完全に失敗だったよ。お前らは結局旧時代でも、この時代でもいらない存在なんだよ!


さぁとどめだ!」


古代兵器の一つ、『オクターヴランチャー』を装着したリアーレは照準を合わせていく。ターゲットをロックして引き金を引こうとした時、ベラがあの技を放った。



「レインフォーリンググングニル!」


無数の光の槍がリアーレに向かって放たれる。それを難なく交わしていったリアーレは皆に問いただす。



「おかしいな、君たちはこいつを始末しに来たんじゃないのかな?少女から依頼を受けて...

僕を邪魔してなんの意味があるんだい?僕は君たちを手伝うために今やっているんだが。」


それを聞いたエリオットは咄嗟に答えた。


「確かに最初はキマイラを倒しにきました。けど今の話を聞いたら彼が呪いをかけたのはあなたのせいだと!」


「あぁ戯言をまた言ったのかキマイラ。

みんなあいつは嘘をついているぞ、僕に呪いをかける能力なんて...」


「あなたの言葉一つ一つ全部正しいのかもしれない、けど言葉は呪いと同じなんですよ!

あの子の母親に何を言ったんですか!?」


「なんだったっけなー。

もうすぐ大陸間で戦争が起きて君の子供含めてあの街もろとも吹っ飛ぶよって。

実際今ルヴァン帝国とサイミン王国は戦争の準備してるみたいだし、僕は高みの見物でいいかなって。」


リアーレの言っていたことは本当で、世界征服を目論んでいるルヴァン帝国が最初に目を付けたのがエリオットたちの第一目的地のサイミン王国だったのだ。支配下に置かれる最後通告を反対した王国とそれに激怒した帝国が正に戦争寸前までいっている。


軍事力では完全に劣っているサイミン王国軍はやがては負け続け、その影響でこの大陸にも侵攻してくる流れだ。その話を聞いてエリオットは黙ってしまった。


「ほらやっぱりそうだ、夢見がちな子供はこれだから困る!君たちが生きてるこの世界はいずれ自分たちの手で滅びの道を辿ることになる。そろそろ現実を知るときだ。僕は一度世界が滅んだのをこの目で見た。

滅びを迎える前に現実を知り、夢を見るのを失くせば自ずと解決策は見つかる。さぁそこの男の子、夢を見るのを諦め...」


リリアナは話の途中で遮るように炎の呪文を放った。怒りの表情でリアーレを見て



「夢を見て...

夢を見るのがそんなにいけないことなの!?

冗談じゃない、そんな死んだような世界は真っ平ごめんだよ!!

今ここでキマイラとお母さんを助けて、いずれは戦争も止めてみせる、あなたなんかの思い通りの現実にさせてたまるか!!」



「そうか、やはりこうなるか。

いいよ、そんなに信じられないなら僕が今相手になろう。そこの2人はどうする?大人な君たちなら理解できそうだけど。」


リアーレはマイクとベラに問いかけたがすぐに返答した。


「あいにく、おれは子供心を捨てきれなくてな!お前のその現実に縛られる鎖につながれたくないんでな!」


「そうね、一言で言えばマジもんのクソ野郎よ!」


2人は反対意見を武器を構えながら思いっきりぶつけていった。エリオットは何も返答できないまま。


「そうか、ならかかってきな。

旧時代の人間の意見がいかに偉大かどうかその目でしっかりと体感するんだね。」


こうして一行はリアーレと一戦交えることになった。




       〜続く〜

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