『少数酒場』 中


 まあ、あまり、気にしてもしかたあるまい。結果良ければ、概ね良し、とすべきであろうと、たかをくくっていた。


 しかし、翌日から、不気味なことが起こり始めたのである。


 まず、相も変わらず寝られぬ夜の、深夜2時過ぎであった。


 付けっぱなしで、とくに見ていたわけでもなかったテレビさんである。


 テレビさんというものは、近年ほんとうに見るものがないのだ。


 いや、まあ、楽しみに見ている人は、あるだろうとは思いますがね、ぼくにはちっとも面白くないのである。


 これほど、山ほどのチャンネルや、番組がありながらだから、それはもう、ほとんど驚異的なのだ。


 しかも、戦争が近い、という危機感をやたら煽る政治家さまや、それを報道してくださる番組と、何もそんなことは感じていないような娯楽番組が、同じ放送事業者さまのなかで、みごとに並立しているのである。つまり、いまだ、平和だということだろうけれども、これは、ありがたいことと思うべきなのだろうか?


 それは、まあ、それとして、問題はコマーシャルにあった。


 いや、ほんとうに、突如として、それまでまったく見たことのないようなコマーシャルが、流れたのだ。


 

『こんばんわ☺️ 少数酒場やまんなか。今夜も、あなたさまのご来店をお待ちしております。小さいけれど、綺麗な店内。安心の衛生管理、リーゾナブルな料金。』


 『白井の森を越えてすぐの小さな丘の竹やぶの中にあります。』


 画面には、竹林が現れて、その小道を上がったところには、小綺麗な行灯があり、『やまんなか』と言う文字が見えている。そのドアを開けると、明るい店内が見える。あたりまえの居酒屋である。さっぱりした美人の女将さん。忙しそうに調理する大カッコいい大将さん。


 『かんぱーい。わ〰️〰️☺️』


 の声が上がり、客たちが杯を高くかかげる。


 『さーかずきをもーて〰️〰️〰️☺️』

 

 と歌い出すのだ。


 ちょっと、大学の合唱部の同窓会みたいだ。


 まあ、それは、それで、当たり前の風景………


 と、思ったら、ぼくは、その客のなかに、あの疲れた紳士が居るのを発見したのである。


 しかも、紳士は明らかにぼくを見つめて、手招きをして居る。


 ぼくは、テレビの番組表を確認  したが、たしかに、ここは『おしらせ』の時間帯である。


 でも、これは、全国放送の衛星テレビである。


 こんな、ローカルなコマーシャルをするわけがない。


 ぼくは、チャンネルを変えてみた。


 なんとお‼️


 同じコマーシャルをやってるではないかあ。


 どこも、ここも。


 そこまで来て、ぼくは、テレビを消した。


 そんなことを、小さな居酒屋さんができるとは思えない。


 テレビの回りにおかしな装置がないか確かめたが、ありそうもない。


 なんだか、ぞくぞくする。


 寝てしまおうとしたが、寝られなかった。




 しかし、それは、翌晩も続いたのであった。


 その、コマーシャルは、深夜番組の合間には、必ず入るのである。


 しかも、あの、疲れた紳士さんは、その都度違う姿勢やポーズを取っているのである。


 もう、テレビは、やめよう。


 ぼくは、スイッチを切った。


 枕らもとのLED灯だけは消さないで、空しい寝る努力をしたのである。


     🌔


 明け方前。


 窓を誰かが叩いた。


 無視。


 また、叩く。


 無視。


 しかし、さらに呼び鈴がなる。


 もう、怒った。


 ぼくは、カーテンを開けた。


 そこには、疲れた紳士の顔が張り付いていた。


 『わあ!』


 『あんさん。来てくださいよ。みんな、待ってるよー。』


 疲れた紳士さんは、にこやかに言って、消えた。


 

   😩😩😩😩😩😩


 これは、だめである。警察は、あまり相性がよくない。


 白井の森の入り口にある、『巌大寺』は、長く我が家とのお付き合いがある。


 前の和尚さんは、ある時に行方不明になってしまっていたが、実は、ぼくの、とある友人もそうだった。友人は、クラシック音楽狂というべきひとである。


 はっきりしないが、一緒に行動していて、いっしょにいなくなったのではないかと、思われていた。


 彼は、その時期、白井の森を越えた向こうの竹林の中に、レコード店ができたと言っていた。


 あきらかに、話しに、通じるところがある。


 ぼくは、『巌大寺』の新しい和尚さんに会いに行くことにしたのである。


      🚶‍♂️........


  

 

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