第6話 魔法の口づけ
私は、何を見ていたのだろう。こんなにも、レオン王子は私に似ていたのに。
私がフランシス王子を見ていたように、この人は私を見てくれていた。
ずっと……。
私の想いは叶わなかったけれど、私はこの人の想いを叶えることができるかもしれない。
片想いのつらさを知っているこの人ならば……。
私のことを見守ってくれていた人ならば……。
いつか好きになることができるかもしれない。
人魚姫の心には、そんな予感めいた暖かな想いが湧いてきた。
「…… 口づけを許してくれるか?」
人魚姫はレオンの言葉にゆっくりと頷いた。
彼の大きな手が人魚姫の
「愛してる。ずっとそばにいてくれ」
愛の言葉と共に、口づけが降る。
そっと重ねられた唇は、熱くそして微かに震えていた。
あれだけ自信ありげに言っていたレオンが震えていたことに人魚姫の心に火がともる。
この口づけひとつで、彼女の運命が決まることをレオンは分かっていた。
分っていながら、逃げなかった。
人魚姫が消えても、彼のせいではない。
しかし、それすら背負おうとしていることを人魚姫は感じていた。
こんなに身近にやさしい人がそばにいたのに気づかなかったなんて、と人魚姫は浜辺でほころぶ白い花のようにふっと微笑んだ。
レオンは、その笑顔が夜明けとともに消えるかも知れないと考えるだけで、堪えきれずに再び口づけを与える。
誰にも渡さない。死神などに渡してたまるものかと強い想いを込めて。
それは、次第に熱をおび、息を交換するような深いものに変わっていった。
足があれば人間だというのではない。
心が伴って、人間になる。
人間の魂が彼女に吹き込まれているのかもしれない。
人魚姫から切ない吐息が漏れた。
レオンの熱い想いと強い願いがない交ぜになり自分の中で逆巻くのを感じる。
それをどう受けとめればよいかわからずに、思わず空に手を伸ばすとレオンがその手をしっかりと握りしめた。
すると、人魚姫の金糸のような波打つ髪がふわりと逆立ちその身から淡く光を放つ。
愛という名の根源的な魔法が彼女を包み、体と魂を縛る忌まわしい古い魔法を打消していく。
海の心に、陸の体。
バラバラだったものが、ひとりの『自分』として再び成される心地よい感覚に身をゆだねると、人魚姫は意識を失った
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