第3話

 百貨店のチョコ売り場。

 今年も会社の皆さんに、

 お義理のチョコを準備する。

 売り場の隅のチョコレート、

 少し値段がお高いです。

 少しビターな大人味。


 頑張る新人トナカイくん。

 ビターなチョコは、お嫌いですか?


 頑張る新人トナカイくん。

 ひとり立ちのトナカイくん。

 お任せ、お仕事、自信を持って、

 挑んだはずが、失敗しました。


 教育係の私とふたり、

 先方謝罪の帰り道、

 あまりに落ち込むトナカイくんに、

 チョコを差し出し、

 伝えます。


「そう落ち込まない。反省しないのは論外だけど、仕事なんて失敗しないと成長しないのよ。出来る人は、このチョコみたいなものよ。どこかで苦い思いを経験しているの」


 しまった!

 本当は、トナカイくんへの想いを伝えるつもりだったのに……。

 私、偉そうに叱ってしまった。


 トナカイくん、

 大人の味が、今の僕の心には沁みます。

 なんて、言いながらパクパク。


 二人の仲は、平行線。


 寒くて、凍える私のお部屋、

 きれいにお掃除した昨日。

 夢見た明日は、訪れません……でした。


 それからひと月、あっという間に。

 まだまだ風は冷たいですが、季節は次の扉を開き始めます。


 トナカイくんから渡された毛糸の手袋。

 ホワイト・デーには、毛糸の手袋?


 春はすぐそこ、

 花の蕾も膨らんで、

 私の手には手袋が、

 ポカポカ温もり伝えます。

 季節も温もり運びます。

 

 花の弥生。

 季節を分ける風が吹いても、手袋はそっとバッグの底へ。


 そして春は、新人さんの季節。

 

 


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