何故?と少年は困惑した。
少年・
とりあえずクラスの連中には嫌われてはない、悪い印象は無い様だと安心はしたが初日から目論見からは外れてしまっていた。
一目置かれる格好いい奴、孤高の存在。
そう思われるようにビシッと決めてきたはずなのに何か違う。
男女問わず近くの席の人からは話しかけられ、無難に相槌を打つを繰り返しているが話はイマイチ面白くない。
でもそれは仕方のない事だ、出会ってばかりで自分語りする訳にもいかないし、相手がどんな人かわからないのだからそもそも話題が少ない。
当たり障りのない内容は当然だし、切っ掛けとなる自己紹介で玲音は一言しか喋ってない。
何故かうっかり呟いてしまった女子の方はなんだか盛り上がっているのでちょっと気になるが呟かれてしまった本人として近くに行くのは躊躇ってしまう。
そんな中、となりに座っていた男子がずっとこちらを見ていた。
自己紹介の時に名乗った名前は
パッと見た感じは穏やか、マッシュショートな髪型で高身長のさわやか系男子、天然かもしれない、喋っている時はゆっくりな口調で同学年なのにちょっと年上のような印象がある。
「……石井だっけ、なに?」
「ちょっとこれ見て」
慣れない相手に玲音はぶっきらぼうになりがちだった。
しかし天馬は物怖じせず、人差し指をゆっくり下から上げてちょっと近づけてきた。
「……、は?」
玲音は困惑しているが、天馬は動じない。
どこか既視感があるなと、玲音は人差し指を見つめる。
(こういうのどっかで……)
「悪い石井、なにしてんのかわかんない」
「挨拶だよ」
「挨拶?」
人差し指、挨拶、その単語を連想する先は、猫である。
ハッと気づいて天馬を顔を見ると満面の笑顔だった。
「石井、さては喧嘩売ってるな?」
「おっと、やっぱ最初は威嚇されるね、これからよろしくー」
「よろしく……、とはならねーよ! なんだ急に……」
「見てたら実家の猫を思い出しちゃって、ごめんね? レオンって呼んでいい?」
「なんか距離感おかしくない?」
「いいの? ありがとー」
「待て! なんも言ってない!」
天馬に対しどこで隙を見せてしまったのか、妙な詰められ方でうっかり玲音も素が出ていた。
天馬が馬鹿をやって玲音がツッコミを入れる、そんなやり取りをしたせいでクラスの中ではすっかり『
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気づけば放課後、学校生活序盤は玲音にとって微妙な結果だった。
「じゃあレオン、また明日ー」
「はいはい」
何か用事があるのか、放課後になった途端に天馬はさっさと出て行ってしまった。
天馬は穏やかで爽やかな男子ではなく、足の遅い台風のようなマイペースの暴力だと気づくのに時間は掛からなかった。
悪い奴ではないが良い奴かと言われると悩む。
そんな天馬のせいでクラス馴染んでしまった、『天馬のおかげで』とは言いたくない。
距離感の壁を殴ってくる奴が隣に居たとは予想出来ない、クール路線は無理だなと高校デビュー計画は最初から破綻したんだと確信した。
席を立ち、歩きながら「そっけない」「不愛想」と検索し、なんとかキャラを決めて
(いいや、挫けてはいけない、クールな奴になるんだ……!)
なるんだと考えている時点でなにか間違っているのでは?とツッコミをいれる人格は玲音の中にはいない。
心の中で決めた事が表情や仕草にも出ており、無言で表情やリアクションしている玲音は天馬に揶揄われていた事に気づくのは少し先の話である。
周りに誰も居なくなった階段の踊り場で深呼吸を一回。
気分を切り替え、どうすればいいのか考える。
クールで恰好いい、そんなイメージの源流は父だ。
歩きながら父の事を思い出すと同時にコーヒーの匂いも思い出す。
玲音は小学生だった時、父にコーヒーを飲んでみたいと強請った際に「まだ早い」と言われ、なんだかんだと今まで飲まずにいた。
それはカフェインの影響の話で胃が荒れる等の原因になるから「まだ早い」という事だが玲音は気づいていない、単純に似合わないからだと勘違いしていた。
通学路の途中にある有名なコーヒーチェーン店、お洒落な印象で近寄りがたいイメージがあったが高校生になった今なら制服という武器がある。
制服は高校生になった証でもありながら、着こなすだけで周り溶け込む風景の一つになれる。
浮かない、これだけでも心強いのに容姿の良さという点では玲音は無駄に自信があった、鬼に金棒、玲音に制服である。
高校デビューという階段を上るのは大人に近づく事でもある、それならば憧れたコーヒーを飲んでみるのも面白そうだとワクワクしながら店内へと入っていった。
知らない場所に行くのは冒険のようなモノで、外から見るだけだった場所に実際に入るだけでも少し緊張感がある、この時点で内心がクールとはかけ離れている事は気づいていないし本人もテンションのせいで忘れていた。
「ご注文は?」
「……アメリカーノ、アイスで、サイズはコレで」
カウンターで予習した通りに注文し、メニューを指さしながらスムーズに受け答えし、支払いを済ませてアメリカーノを受け取る。
ガムシロップ等はコンディメントバーにあると教えてもらったが、ブラックで飲みたい気分だったので玲音はそのまま席へと向かった。
カウンターのある一階から見晴らしの良い二階へ。
人生初コーヒー、お洒落な店内で。
思い出したかのようにクールを意識し、心の中でいただきますと一口。
「……」
え、苦い、え、なにこれ?
なんか間違えてる?
美味しいんじゃないの?
風味? わかんない!
「……………………、ぇ?」
何故?と、
父はコレを美味しいといった。
慌てないように辺りを見渡せば皆談笑しながら、落ち着きながら、仕事をしながら、珈琲を飲んでいた。
割とギブアップしたい気持ちでいっぱいの玲音は外に視線を向け、入ってきた時のワクワク感や緊張感よりもこれどうしよう?って気持ちになりながら天を仰ぐ。
憧れたアメリカーノは、天を仰がなければならない味なのかと頭を抱えだす。
飲み残しを捨てる場所はある、でもそれはいけない。
あまりにもダサすぎる。
意を決して二口目、涙目。
(ああ、これが、まだ早いという事なのか……)
何が美味しいなのかわからない、塩味や甘味とは圧倒的に違う苦さ。
正面が窓で、二階で良かった。
こんな顔は周りには見られたくない。
でもこれホントにどうしよう?
そうやって考えを巡らせていると、近くに誰か座った。
「あれ、もしかして……れおん…?君だっけ、名前」
「ッ!?」
思わず振り向くと、席は離れているがクラスメートの女子が居た。
背伸びは靴だけにしよう、そんな学びを得た日だと玲音は一瞬で現実逃避した。
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