第15話 冒険者たち
シエラとシャーロットは、アーキッシュの案内でウッズベルトの中心にある大きな屋敷へとやって来た。
立派な門を武装した人たちが次々と潜っていく。今回の
シエラたちもそれに続いて門を潜ると、立派な噴水のある庭が目に入った。
「ここがアルフレッド男爵の屋敷ですな。このウッズベルトを治める王国の一貴族。爵位は低いですが経済力はあるとかなんとか」
「貴族、ね」
チラリとシャーロットを見る。
シャーロットも貴族の生まれだ。父が貴族だったこともあり、苦手意識を抱いているのではないかと思う。
だが、そのシャーロットは噴水や冒険者に意識を向けていた。気にもしていないようだった。
「過保護ね、私も」
「え?」
「なんでもない」
景色を眺めながら歩いていく。
しばらく進むと、突然大きな斧を背中に担いだ戦士風の男が立ち塞がった。威圧感を発しながらシャーロットの行く手を阻む。
「なんでしょうか」
「嬢ちゃん何しに来たんだ? ここは嬢ちゃんが来るような場所じゃねぇ。さっさと帰りな」
「私たちも戦いに来たんです。道を空けてくれませんか?」
「悪いな。冗談に付き合うほど暇じゃないんだ。ほら、帰れ」
なんとも強情だとシエラがため息を吐いた。彼我の実力差も理解できないのかと呆れてしまう。
シャーロットも食い下がらない。挑発するように指に雷を灯し、手招きするようにして笑う。
「なら、私とここで勝負しますか? そうすれば私のことを認めてくれるでしょう?」
「はっ。おもしれぇ……やってやんよ」
男が斧を手にして腰を低くした。
周囲の冒険者が集まってくる。中には顔を青ざめさせる者もいて、誰が止めに入るか相談する声も聞こえてくる。
端から見ると小柄な少女と大柄の男が戦おうとしているように見えるのだ。それは不安に思うだろう。シャーロットが勝つなど誰も思わない。
男が強く地面を踏み込み、一気に加速した。
「おらぁ! くらいやがれ!!」
全力の一撃に女性冒険者の悲鳴が聞こえる。
シャーロットはしっかり刃の軌道を見極め、魔法で防ごうとして――防御魔法の発動前に男の手首が何者かに掴まれ、攻撃は届かなかった。
男が驚き横を見ると、顔立ちのよく似た男が慌てたような表情で制止している。
「兄貴!?」
「そこまでだこの馬鹿! 何をしてる!」
「離してくれよ兄貴! 俺は今からこいつに……」
「本当に馬鹿だな。お前ではこの子には勝てん。怒らせるようなことをするな」
へぇ、とシエラが声を漏らす。シャーロットの実力をきちんと理解できる者もいるのかと感心したのだ。
男の兄はシャーロットとシエラを交互に見やり、わずかに口元を引きつらせた。
「弟が申し訳ない。お嬢さんもすごいが、それよりも……お姉さんは何者だ? あなただけ力の次元が違うように感じる」
「分かるんだ。すごいわね」
「私の先生です! 世界一の魔法使いなんですよ!」
「……そうか。味方で心強いと本心で思うよ」
男の兄は、頭を下げて男を引きずり去っていった。
冒険者たちから歓声が上がる。
「すげぇぞあの子! ビィン兄弟の兄に認められたぞ!」
「あのお姉さんもすごいな! 先生とか言われていたが……」
称賛と興味の声が聞こえてくる中、シャーロットがシエラに向かって頭を下げた。
「ごめんなさい先生! ちょっと挑発しちゃって」
「くふふっ……いやなに、面白かったよシャル。貴女はそれでいい」
「あ、ありがとうございます!」
アーキッシュが若干引いたように見ていることなど気にもせず、シエラがシャーロットの頭を撫でてやった。
そんな一悶着の後、屋敷の扉が開いた。いかにも貴族といった感じの男が出てくる。
巻かれた金色の髪。体格も良く、顔には立派なしわが刻まれていた。筋肉もしっかりしており武芸の腕にも覚えがありそうだった。
邪神の眷属戦の時に滅びた旧帝国で見た貴族はでっぷりと肥えており、同じ貴族でこんなにも違うのかとシエラが苦笑した。
「よく来てくれた冒険者諸君! 私がルンゼル=アルフレッド! 冒険者ギルドに依頼を出した依頼主だ!」
しっかりと響き渡る強い声。
エルフの貴族、というより王族のアーキッシュには出せそうにないカリスマかとシエラが考えた。
「さて、時間もないため早速話を進めよう! 現在、このウッズベルトはスタンピードの脅威に晒されている! 私個人が所有する兵力ではこの事態に対処できないと考え、冒険者の諸君に協力を要請させてもらった!」
冒険者たちが威勢のいい雄叫びを上げる。
「報告によると、魔獣たちは第一波と魔物を含んだ第二波の二つの群れに分かれているそうだ! そして、間もなく第一波が町の近くまで押し寄せてくる!」
「……片方を見落としたみたい。失態ね」
「皆、奮闘して町を守ってくれ! 見事この脅威を乗り越えた暁には、報酬に色をつけることを約束しよう!!」
「「「おぉーッ!!!」」」
歓喜の雄叫びと共に冒険者たちが降魔の森へと繋がる門へと駆けだしていく。
「じゃあ、行こうかシャル。修行の成果を見せてやりなさい」
「はい!」
「わしもシャーロット殿の実力は気になりますな。とくと見せていただきましょう」
シエラたちも、冒険者たちから少し遅れて門へと移動していく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます