第11話 下級魔法使いへの試験
「急にごめんねシャル。二つ、伝えたいことがあって」
応接室にやって来たシャーロットとデューテに、シエラがそう切り出す。
大切な話だと察したシャーロットがシエラの前にある椅子に座った。
「まず一つ目。シャルが知りたがっていた貴女の魔力属性が分かったわ。調べるのが遅くなってごめんね」
「いえ。それで、私は……」
「シャルの属性は私と同じ闇属性よ。よかった……のかな? シャルは攻撃魔法を使いたがっていたし、適した魔力属性で」
「そうですね。嬉しいです」
はにかむシャーロットを見ていると、シエラもなんだか嬉しくなってくる。
そして、すぐに次の話に移った。
「二つ目ね。いよいよシャルに試験を課すわ。これに合格したら下級魔法使いよ」
「試験……ついにですか……!」
「もうそんな頃合いなのですね」
シャーロットが緊張したように息を呑み、デューテがポンと手を打つ。
「シャルはゴーレムを覚えてるよね?」
「初日に的にしたあれですよね?」
「そう。試験ではあんなゴーレムとの戦闘を見せてもらうから。今回は攻撃もしてくるから気をつけてね」
「はい。でも、心配しないでください。絶対に勝ちます!」
「油断は禁物だよ」
魔法使いの世界で
獅子は兎を狩るにも全力を出すという言葉があるが、シエラはこの言葉を独自に解釈しており、相手が兎と確定できるまで全力を出す必要があると思っている。弱者を装った強者などごまんといる。
この解釈は当然シャーロットにも伝えており、彼女なら余裕だとは思うが、やけに自信のある言葉に少し不安を抱いたのだった。
だが、なぜかデューテも一緒になって自慢げな顔をしている。
「心配には及びませんわ。シャーロット様の力であればゴーレム程度は敵じゃありません」
「……シャルに一体何を吹き込んだ?」
「それは当日のお楽しみということで」
そう言ってシャーロットとデューテが顔を見合わせて悪戯っぽい笑みを浮かべる。
不安しか残らない。何か危険なことをしていなければ良いのだが。
最悪、危ないことになれば手を貸してやるかと甘いことを思いながら、シエラは試験の日を伝える。
◆◆◆◆◆
そして迎えた当日。
シエラとシャーロット、デューテの三人が庭に集まっていた。
シエラの隣には大型のゴーレムが鎮座している。これが今回試験用にとシエラが用意したものだ。
緊張した様子の、否、普段通り落ち着いたシャーロットを見てシエラが微笑む。
「本当に余裕そうね。期待してる」
「そうでもないです。上手くいくかどうか、不安ですよ」
「そうは見えないけどね。……さて、と。そろそろ始める?」
シエラの問いに、シャーロットが力強く頷く。
素早く距離を取り、いつでも魔法を撃てるように左手を構えた。深く息を吸って体内に巡る魔力の純度を高め、洗練された一撃で試験に臨めるように用意した。
「いつでもいいです! お願いします!」
「では。〈目覚めよカラクリ〉。始め!」
シエラの呪文によりゴーレムが起動した。
目を光らせて立ちあがると、眼前のシャーロットに向けて腕を伸ばしながら突進していく。
ぶつかれば骨折で済むとは思えない。それだけの質量がある。
だが、構えていたシャーロットは動じない。起動と同時に詠唱を開始していた。
「〈法則は傾く・我が望む天秤は・右舷に傾く秤なり〉!」
魔法が発動した。
ゴーレムの足元に光が現れ、動きを鈍らせていく。
「へぇ……【グラビティ・コントロール】を教えたのね」
「ええ。コツを教えるとすぐに発動できたのでわたくしも驚きました」
第五階級魔法の【グラビティ・コントロール】。相手の足元に重力場を形成し、相手を重くして押し潰したり、軽くして動きを加速させたりする魔法だ。
まだ不慣れなため、押し潰すとまではいかなくてもゴーレムの動きを鈍らせることはできている。それだけの重力場を形成するなど、ゴーレムの強さにもよるが今回シエラが用意したものだと求められる技量は三級、もしくは二級魔法使いに匹敵する。
試験用のゴーレムとは言え、魔法を覚えたてにも等しいシャーロットの技量は頭一つ飛び出ていた。
シエラはこれがサプライズかと思ったが、そうではなかった。
デューテのにやけ顔は止まらない。まだ何か隠していると楽しみに思いながら観察を続ける。
「余裕ができた! 今ならやれる!」
「余裕ができた、ね。さては長い詠唱を必要とする魔法を教えたわね?」
「その通りですわ」
「ふぅ……〈金色の雷獣よ・大地に咆哮轟かせ・王の爪牙で威を示せ・汝の前に倒れるは・刃向かい敗れた骸なり〉! “スパーキング・エッジボルト”!!」
ゴーレムの足元に展開された魔法陣にシエラが感心の声を漏らした。
第六階級魔法【スパーキング・エッジボルト】。足元に展開した魔法陣から無数の雷撃を浴びせて相手を消し炭にしてしまう魔法だ。
第六階級魔法の中では比較的発動しやすい魔法。だが、それはあくまで他の第六階級魔法と比べたらの話だ。そもそも第六階級魔法を発動させるなど、一級魔法使いどころか特級魔法使いにもできない者がいる。
この時点でシャーロットは世界有数の実力を持つ魔法使いの仲間入りが確定した形だ。
直撃を受けたゴーレムが大きくのけぞった。
両腕は粉々になり、顔は半分ほどが砕けている。全身にも亀裂が入り歩行の振動で崩壊するほどボロボロになっているが、まだシャーロットを攻撃しようとしていた。
放置して逃げるだけで自滅する。だが、そんな勝ち方ではシエラは認めてくれないだろうし何より自分自身が気に入らない。
そう思い、シャーロットはゴーレムの胸部へ指を向けた。
「〈穿て雷槍〉!」
「……【プラズマランス】の省略詠唱まで。文句なしの合格ね」
シャーロットの魔法によりトドメを刺され、崩壊するゴーレムを見ながらシエラが笑った。
満面の笑みを浮かべて駆けてくるシャーロットをデューテがにこやかに迎え入れる。
シエラも可愛い弟子の笑顔に頬を緩ませ、抱きついてくるシャーロットの頭を撫でてやるのだった。
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