自分の気持ちに正直に
タンチョウ族討伐に向け、本格的な兵站作りが始まった。広大な砂漠での戦いだ。砂漠に複数拠点を作る必要があった。
「んっ……裕翔っ……」
この日も佐了は裕翔に胸を吸われていた。飛燕は決して兎斗を会わせようとはしなかった。裕翔との逢い引きは飛燕の屋敷ではなく、兵站に仮設された上級軍人用の幕舎になった。ただの兵士が近づくことはできないし、周囲には常に見張りが立っている。だから飛燕の手引きがなければ、裕翔も、兎斗も、ここへ辿り着くことはできない。
「ごめんね」
と裕翔は言う。自分でごめんね。本当は兎斗に会いたいだろう?
正直、兎斗と会うのはまだ怖い。受け止められる自信がないから、このまま裕翔が乗っ取ってくれたらいいのに、とすら思う。
「裕翔……」
お前が好きだ。労るような優しい指先も、声も、眼差しも、全部好きだ。タンチョウ族の男にはない、どこか抜けたような表情も、暴力とは無縁の拳も。
全部見てたんだよ。全部ね……
好きだ、と言えないのは、この中に兎斗がいるからだ。
本音を言えない代わりに、佐了は裕翔がくれる快感に正直に喘いだ。これは不可抗力だから、自分の意思ではないから、兎斗もわかってくれるはず……
「あっ、裕翔……」
歯痒い。好きだと言いたい。正当な理由はないだろうか。この体は兎斗のもの。裕翔を怒らせたら兎斗を傷つけられると思った。だから裕翔を懐柔しようと甘い言葉をかけたのだ。決して本心などではない。兎斗に問い詰められたら、そう説明するのだ。
なぜ。兎斗への言い訳を考えているうちに、腹の底が煮えてきた。
なぜ自分を犯した男のために悩まないといけないのか。
「裕翔、好きだ……ずっと、ここにいてくれ……」
言った瞬間、視界が開け、滞っていた血液が巡り、正気を取り戻したような感覚を覚えた。
「佐了……」
そんなこと言っていいのか、という困惑の表情に、おかしさが込み上げた。
何を我慢する必要があったんだろう。我慢なら、砂漠で一生分やった。
「裕翔、戦うことを知らないお前が好きだ。優しいお前の手が好きだ。……裕翔、この体が永遠にお前のものになればいいのに」
裕翔の頬に手を添え、佐了は自ら唇を重ねた。
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