再会

 裕翔とかいう異常者に体を乗っ取られている間も、兎斗には意識があった。だからあの異常者が知布の乳を飲んだことも、とち狂って伊千佳を犯したことも知っている。その瞬間を、自分の目で見ていたのだ。でも体を操ることはできなかった。


 意識が残っていたおかげで、厩舎で生活している現状はすんなり受け入れることができた。異常者の行動を見ていなければ、きっと混乱して騒ぎ立てていただろう。


「知布っ!」


 また、あの異常者に体を乗っ取られるかもしれない。伊千佳の屋敷で知布と合流するなり、兎斗は名乗った。


「知布っ……僕だよ。兎斗だっ……」


 はじめ、知布は困惑していたが、胸の傷を見せるとハッと息をのみ、兎斗の言葉を信用した。


「でもなんで……」


「僕にもわからない。どうしてか体を乗っ取られた……ああ、知布っ……会いたかった……ずっと会いたかった!」


 ガバッと抱きつき、敷かれた布団に押し倒した。心の底から、自分を取り戻して良かったと思った。でなければ今日も知布はあの異常者に乳を飲まれていた。


「兎斗っ……苦しい」


「知布……どうしてあんな奴に飲ませたんだよ」


 自分の姿形をした「あんな奴」だ。まったくややこしくてイライラする。僕の体で、知布の体を味わうなんて。


「それは……」


 知布の瞳がジワリと潤む。


「兎斗に……似ていると思ったから」


「そりゃ僕だからね」


「……すまない。気づかなくて」


 整った知布の顔を愛でるように撫でながら、兎斗は「ううん」とかぶりを振った。


「あんな腑抜けが中にいたんだ。わからなくて当然だよ」


 知布の服をするすると脱がせた。


「……でもダメだよ。僕に似ているからって、タンチョウ族でもない男に乳を飲ませるなんて……」


 それに関しては伊千佳と同意見だ。でもだからって蛇まで使い、気を失う知布を何度も起こし、犯し続けるなんて狂ってる。やっぱりあいつは、知布をいたぶるために呼んだのだ。


 知布の六年間を思うと胸が捩れた。酷い目に遭ってきたに違いない。


「知布……僕がいるのに、人生を放棄したいなんて言わないで……」


「っ……」


 なぜそれを、という表情。


「全部見てたんだよ。全部ね……」


 ズボンを脱がせ、膝で股を開かせた。小さな穴に指を詰め込む。


「ひっ……」


「あんな奴好きになるなんてどうかしてる。あいつは伊千佳のことも抱いたんだよ。夢中になって腰振ってた」


「えっ……あっ!」


 ズボズボと激しく抜き差しした。


「知布に……僕の体だってバレることを恐れてた。……伊千佳はなんて言ったと思う? あいつっ……知布が傷つくから黙ってろって! 兎斗は、死んだって!」


「いっ……兎斗っ……少しっ……い、痛い……」


 兎斗は潔く指を抜いた。触らずとも硬くなったものを、知布のそこに押し当てる。


「ひぁっ……あっ、あっ」


 知布が激しく瞬きする。


「知布……ずっとこうしたかった。あいつが……僕に地獄を見せたあの日から……ずっと!」


 性に奔放な野蛮な民族でも、子供のうちからそういう行為を見せられるわけではない。中には興味本位で親の後をつけ、それに加わる者もいるが、基本的に、性の解禁は十五歳になってからだ。


 けれど兎斗は、九歳でそれを知った。……屈強な男たちに犯される知布を見た時の衝撃は、十年経った今でも忘れられない。


 伊千佳……あいつは鬼だ。


 あの男が自分に地獄を見せた。胸を斬るだけでは飽き足らず、「来い」と腕を引っ張って、大好きな兄が犯される光景を幼い目に焼き付けさせた。助けに行こうと踏み出せば、あの長い足で蹴飛ばされた。「あれはなんですか」と震える声で問えば、「できの悪い男が罰を受けているのだ」と、出鱈目を吹き込まれた。


「知布……知ってるか? あいつ……あの野郎……僕を散々いたぶって、知布のあんな姿まで見せつけてきたくせにっ……」


 グッと奥まで突き入れると、知布の体が軋んだ。


「ガキを匿ってるんだよ」


 知布は知らなかったらしい。大きく目を見開いた。


「気色悪い笑顔でさ、ガキを抱き抱えてた。信じられるかっ? あの鬼畜が父親気取りだっ!」


 だからって、ぶつなんてひどいな?


 なんだあれは。ふざけるな。今でも知布をいじめているくせに。


「あっ……う、ひっ、いっ、うあっ……」


 背中にしがみつく手に力がこもった。爪が食い込む。


「兎、斗っ……い、痛いっ……」


 痛い? 兎斗は首を傾げた。痛いのは当たり前じゃないか。


 知布は痛い痛いと泣き喚いた。でも兎斗はこのやり方しか知らないし、このやり方でも知布は極められることを知っている。そうやって乳を飲んできたから、痛いと言われても困る。


 でも……とふと思った。裕翔とかいう異常者は、胸の突起をいじるだけで知布を極めさせていた。


 兎斗は腰を止め、知布の胸に吸い付いた。舌先で突起を転がすと、それに呼応するように中が締まった。


「知布っ……」


 たまらなくなって、兎斗は抽挿を再開した。ガツガツと内壁を削っていく。


「あっ、はっ、う、ひっ……ひいっ……」


 突如、知布の体が強張り、痙攣を繰り返した。……達したのだ。


 兎斗は突起をキツく吸い上げた。びゅっと乳がほとばしる。その味を認識すると、脳が痺れるような興奮が駆け巡った。勝手に腰が動く。逃げようとした知布の脇腹をガッチリと捕らえ、そこが空っぽになるまで、兎斗は兄の体を貪った。


 なんて美味しい……もっと、もっと欲しい。


 けれどそれを味わっているうちに、腹の底からおかしさが込み上げた。クックと肩を揺らして笑う。


「兎斗?」


 知布が気味悪がるように言った。


「知布……すごくうまいよ」


 兎斗は顔を上げ、知布の唇にちゅっと軽い口付けをした。知布は解せないという表情。もう少しこの愛くるしい表情を見ていたかったが、兎斗はそれよりも、あのおかしい光景を知布に教えてやりたかった。


「伊千佳のやつ……乳吸われてさ、俺は出ない、自分の胸に価値はないって、泣きながら必死に拒んでたんだ……ふふ、笑えるだろ。あいつは無理矢理されたことがないから、拒めばやめてもらえると思ってる。……自分がそれでやめたことなんてないくせにね」


 知布はさらに困惑したようだ。まあ、無理もない。あの鬼畜がひんひん喘がされる姿など、それを見た自分ですら信じ難い。


 知布が寝た後も、兎斗は眠るまいと根性で起きていた。


 朝方、伊千佳が迎えにきた。


「いち」


 伊千佳は過去の名だ。慌てて「飛燕」と言い直す。


「眠ってないのか?」


 眠ったら体を乗っ取られるかもしれないからな。


「俺……胸の傷のこと……佐了に言ったんだ」


 用意してあった言葉を放つ。


「佐了……めちゃくちゃショック受けてた。あんたの言った通りになった」


「裕翔……」


 飛燕がやってきて、正面にしゃがんだ。


「……俺、期待してたんだ。兎斗の体でも、きっと佐了は受け入れてくれるって……」


「時間はかかるだろうな」


 優しい声音に、こめかみがチリチリと痛んだ。僕は兎斗だ。あんたに虫ケラのように痛めつけられてきた……そう言いたくなるのをグッと堪える。


「無理だ。佐了は兎斗を愛してる。昨日、確信したんだ。佐了の気持ちを聞いた。俺はっ……お呼びじゃないって……」


「裕翔、俺は……」


「飛燕……俺、今すごく辛い」


「……」


「俺をその体で慰めてくれよ。優しいあんたならできるだろ?」


 この体が僕のものであるうちに。


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