第10話
『国のために、最後まで勇敢に戦った者を侮辱するな』
自室に戻った
そういう上の事情を、
なにより後ろめたいのは、カミカゼによって遺族に入る金のために、自分がそれを行ったことだ。敵が受ける打撃など、どうでも良かった。カミカゼをしたという事実が欲しかったのだ。
『
部屋の通信機から、上官の声がした。カミカゼの功績を讃えられるのだろうか。……真っ先にそう思う自分が悔しかった。結局、自分も賭博に支配されているということだ。
部屋を出て、長方形の簡易施設が並ぶ通路を進み、軍事本部へと向かう。通路はうめき声に溢れていた。凄まじい血の臭いが鼻につく。それらから逃れようと、
「第七中隊
銀色の部屋には、上級軍人が絵巻を囲って座っていた。それを見ただけで激情が込み上げた。絵巻は、賭博が行われていたことを意味する。
男たちの視線は冷ややかだった。なんだ?
「佐了は、貴様の部下であったな」
懐かしい名前に、どっと胸が跳ねた。
「そうですが……佐了が何か」
負傷し、本土に戻ったかつての部下だ。今は
「
「……っ!」
佐了は無事なんですか。そう聞きたいのを堪え、「かつての部下の不始末、責任は私にあります。申し訳ありません」と小首を下げた。
「わかっているならよい。顔をあげよ」
心臓が激しく波打っていた。あの賢くて冷静な男が、どうしてそんな凶行を……
開帳の痕跡を見るだけでも、こんなに腹立たしいのだ。佐了は
(俺のせいだ……俺がカミカゼを止めたから……)
九人も華族を殺めたのだ。佐了は楽に死ねないだろう。……あの時カミカゼを許していれば、佐了の母親は恵まれた生活を送ることができていた。彼らの人生を潰したのは自分だ。
「佐了は行方不明だ」
放たれた言葉に驚き、ほんの少し、安堵する。
「見つけ出せ。さすれば貴様の階級を二つ上げよう。親族の生活も向こう十年保障する。カミカゼと同じ待遇だ」
眉根を寄せる。
「お言葉を返すようですが……先の大戦で、私はカミカゼを遂行しました」
戦線の描かれた絵巻が敷かれている。こいつらは見ていたはずだ。
「敵の母艦飛鳥を沈没させました。戦果として、正当な評価を賜りたく存じます」
男たちは顔を見合わせ、笑った。
何か、おかしなことを言っただろうか。しかし実際に、母艦飛鳥は沈んだのだ。十年と言わず、三十年面倒を見てくれたって良いはずだ。それだけの功績を自分は上げた。
(いや、俺は馬鹿か……そうじゃない)
愚かな勘違いに気付き、ハッとした。功績など関係ないのだ。この戦争は賭博なのだから。
重要なのは戦果ではなく、カミカゼの成立条件。自分はそれを満たしていないのだ。
「何を抜かす。貴様は生きているではないか。カミカゼは、死なねば認めん」
握り締めた拳がブルブルと震えた。
「貴様にカミカゼを賭けていた
「佐了に救われたな」
「まことに」
男たちの会話に、はらわたが煮えくり返った。
(佐了、お前は間違っていない)
「佐了は宮廷内にいるはずだ。貴様が行けば、姿を見せるだろう。見つけ、生け取りにしろ」
「承知しました」
憤怒を見抜かれないよう、深々と。
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