第8話

 敵を逃した都室とむろは投獄された。敵との繋がりを疑われ、毎日拷問を受けている。「吐け!」と言われても、話すことは何もない。都室とむろの父親が日本人であったことは、自分と母しか知らないのだ。

(父上を救わなければ……)

 父が黄亜の兵士として戦っていると考えただけで、都室とむろは胸が引き裂かれるような心地がした。栄養はちゃんと摂れているだろうか。睡眠は? 都室とむろ自身も、この十日間はろくに眠っていない。意識は混濁とし、時折激しい眩暈に襲われる。

 都室とむろは後ろ手に両手を縛られ、硬い石の床に正座している。軍服は原型を留めていない。鞭によって破れたのだ。

 睡魔に抗えず、カクリと頭が落ちれば、背後から鋭い鞭が都室とむろを襲った。前のめりに倒れた都室とむろの髪を、正面にいる霍親于かくしんうがグイッと持ち上げる。

「貴様の処遇が決まったぞ」

 五十を過ぎているはずだが、全く年齢を感じさせない。猛禽類のような鋭い目で、霍親于かくしんう都室とむろを睨む。

「貴様は使えるからな。殺しはしない。だが飛鳥を失った責任は取ってもらう」

 いつの間にか、飛鳥の沈没も、都室とむろの失態に転化されていた。

「使者として黄亜へ行け。和約の交渉だ。奴らはなかなかしぶとい。三年で決着がつくはずが十年だ。ここらで、消耗戦を終わらせようじゃないか」

 黄亜へ行ける。願ってもない話だった。

「相手は黄亜だ。捕らえられ、これより酷い目に遭う可能性は十分にある。だが、誰かがいかなければならん。黄亜の兵力と内政も知りたい」

「……承知、いたしました」

 カラカラに渇いた口で答えると、十日ぶりに荒縄が解かれた。くったりとその場に伏せると、どろりと深い眠気に襲われ、プツンと意識が切れた。


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