魔法高校編Ⅴ
「そうですか、ではまず」
透の質問が始まった。
「なぜ俺のことを名前で呼ばないんですか?」
「っ・・・・と、特に深い意味があるわけじゃない。もし神座が、髪座が透と呼んで欲しいというのなら私はそうする」
「そうですか、では透と読んでいただけますか?」
彼女の頬がさらに少し赤くなった。
「わかった」
「では次」
「まだあるのか!」
「はい。先ほども聞きましたがなぜ話すための場所がなぜ先生の自宅なんですか?今回はちゃんと答えてください」
透が少し顔を膝上の彼女に近づけた。
「最初は本当にたまたまだった、学校は門が閉まる時間もあるから他の場所と思ってつい私の家と・・・・」
「では今は?先生は今“最初は”と言われたので今は何か他に理由があるんですよね」
彼の膝に寝た真森はまた顔を彼からそらした、だがすぐに彼の手によってそれは直されてしまった。
「透と二人で話せる場所は家ぐらいかなと思った、から」
彼女は視線だけをずらした。
「最後の質問です、なぜ先程から顔を赤く染めて俺から視線をそらすんですか?」
「それは・・・・・・・・もうお前、わかっているんじゃないのか?」
透は黙ったまま問いに対する答えを待った。
すると彼女は体を起こして透に抱きついた。
「私もしっかりと自覚があるわけじゃない。でも多分私は透、お前のことが・・・・好き、なんだと思う」
「そうですか」
「ああ、私自身も驚いている。これまで好きだったのは魔法を使うことだけ、それが今日会ったばかりの、しかも生徒にこんな気持ちを持ってしまうなんて・・・・・・・・それで?返事はないのか、と言いたくなってしまう」
真森はリビングの壁にかかった時計を見た。
時刻は8時過ぎ。
「すまない、私のせいで色々と遅くなってしまった。今日はもう帰ったほうがいい、ほら」
彼女は膝の上から起き上がって立ち上がり、床に座った透に手を差し出した。
彼はそれにつかまり立ち上がる。
「それじゃあ、うわああああああ」
リビングから出るため扉を開こうとした真森を透が抱きしめた。
「ちょっ、いきなり何を」
慌てる彼女の頭を透が優しく撫でて落ち着かせる。
「先生は宮咲雫という生徒を知っていますか?」
「名前だけなら、一応教師である以上教える生徒の名前はな」
「俺は彼女との生活が守れれば他に何もいらない、何も必要ないと、そう思っています」
「・・・・付き合っているのか?」
「いえ」
「そうか、ならまだ私にもチャンスがあるな。今まで“人を好き”という気持ちを持つことがなかったら私にここまで気にさせたんだ、それなりに覚悟はしてもらうぞ」
「わかりました」
彼女は透に抱きついた。
「あっ、すまない。あまりこういうことはしない方がいいか?」
「そうではなく、妹さんが来たようなので」
透は支えるように抱きしめていた彼女の肩から手を離してリビングの部屋の扉を開いた。
「あれ、なんでいるの?」
言葉は驚いているが言い方からはその驚きさが全く感じられない口調で言ったのは真森雪だった。
「今日の授業の件で話を聞かれていたんだが時間がかかりそうで学校が閉まるまでに終わらなさそうだったから先生の家で話すことになったからだ」
「そうなんだ、そろそろ夕飯を作ろうと思ったんだけど透も食べてく?」
「誘いは嬉しいが今日はやめておく、それに少し用事がある」
「そう」
「ああ、食事はまたの機会に」
透は一瞬姉の真森直子に何かを伝えるように優しい目を向けた。
「じゃあ帰るよ。雪、また明日な、先生も」
「私玄関まで送ってくよ」
二人はリビングを出て行った。
直子は1人になると近くの椅子に座ってため息をついた。
「心臓が持たないかと思った・・・・最初はただ魔法破壊について聞くつもりだったのに、ああいう表情は反則だ」
転んで彼の膝の上に乗せられそこから見た彼の顔を彼女は思い出した。そして誰もいない部屋で一人静かに頬を染めた。
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外はすでに暗くなっていた。
透は静かな夜道を一人歩いていた。
真森直子、魔法高校で教員を勤めており真森雪の姉。幼い頃に両親を亡くして彼女は一人で妹の雪を育ててきた。
「水島さんからの情報、役に立ったな」
手に持ったデバイスを操作しながら透は言葉を漏らした。
そして彼はもらった情報を見ながら今日の出来事と照らし合わせるかのように思考し始めた。
親を無くした彼女は自身が気がつかないうちに自分を見て支えてくれる、もっと言えば愛してくれるような誰かを求めていた。
実技場で魔法を使って彼女を転ばせ、優しさをちらつかせる。
そして自宅というおそらく彼女が一番安心できる場所で会話の中に言葉を混ぜて彼女自身に自分の欲しているものを気がつかせる。
無意識のうちに長い期間抑えられた欲求は求めるものが目の前に現れると爆発的にその欲求を解放させる。
今日の授業で魔法破壊を使ったのも仕方なくではない、一年生にそぐわない力、そこに彼女の興味を引く最大のものである“魔法”。
これで真森直子には格段に近づきやすくなった。妹の雪の魔法の模様の件もある、それに俺と雫の生活を守るために必要になるかもしれない。
透は電話を始めた。
「水島さん、透です」
「あら、どうしたの?君から電話くれるなんて珍しい、何かあった?」
「いえ別に、ただもらっていた情報が役に立ったのでそのお礼をと」
通話中の彼の背後からナイフを持った腕が伸びてきた。
その腕から避けようと体をひねらせるととっさの動作に手から持っていたデバイスが抜け落ちた。
「どうしたの!ねえ透君⁈何があったか状況の報告を!」
地面に落ちたデバイスからは水島の声が微かに漏れている。
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