第9話 オレは、夏実に、何かしたい。



 うどん転生40日目。


 現在、三日前に、ひとつ連載が終了し、それと少しだけ重ねながら、3作品の同時連載をスタートさせた。


 ……まあ、予約投稿で1か月間は3作品とも毎日更新だから、問題はない。一応、完結という形までは書き上げているし、予約投稿の状況を確認しながら新作を書き続ける。


 三日前に完結した小説の最後に「あとがき」のページを加えて、3本の新連載をURLとともに紹介した。ついでに過去作も紹介しておいた。


 やはり、こういうやり方がPVをコツコツと稼げるのは間違いない。


 そして、その3作品だが、そのうちのふたつはだいたい1日あたり3000PVで、予想通り。

 しかし、もうひとつの作品で現代ファンタジージャンルの『ダンジョン配信でうっかりカメラを忘れたらとんでもない映像が映っててバズった⁉』が、4500から5000PVくらいで、プチバズりの状態だった。タイトルにバズと入れたのが良かったのか?

 3つ合わせれば1日1万PVで、過去作も含めて、1万2千くらいのPVを確保できているのはいい感じだ。


 このままいけば、月に30万から40万PVくらいになるので、インセンティブは1万円前後には届くはず。


 ……まあ、家賃3万円まではあと2万円足りない。水道光熱費まで考えると、目標は5万円だろう。


 だからといってPVを3倍にするのに9作品同時並行で連載するなどというのはさすがにうどん触手の力をもってしても難しい。ネタの消費が早すぎる。


 ……そうすると、どうにかしてどこかから読者を引っ張ってくるしか、ない。


「あれ? ケイちゃん、なんかいつもとちがうヤツじゃない、それ?」


 ノパソの画面をのぞきこんだ夏実がそう言った。


『ああ、これは、『小説家の野郎』といって、いつも使ってるライリーのライバルサイトなんだ』


 オレは『小説家の野郎』のマイホームを開いた。元々、アカウントは持っているし、やり方も理解している。WEB小説家のたしなみ、というヤツだ。


 そもそも『小説家の野郎』でも活動していたので、そこそこそっちにも読者はいるのだ。


「え? じゃあ、いつものサイトを裏切るの?」

『いや。そうじゃない。どうにかしてこっちの……『小説家の野郎』から、ライリーの方へ読者を引っ張ってくるんだ』


「読者を引っ張る? どういうこと?」

『まあ、解説するとだな……』


 ライリーと『小説家の野郎』には、大きな違いがある。

 それは、『小説家の野郎』だと複数話の一挙投稿が有効で、ライリーでは地道な毎日更新の方が有効だという違いである。


 だから、まずはライリーで地道に更新を続けて、ライリーでの読者を獲得していく。

 そして、ライリーで10話とか、20話とかの更新が進んだところで、『小説家の野郎』で同じ小説の一挙更新をする。

 一挙更新で『小説家の野郎』のランキングに載れば、ぐいぐいと読者が集まる。そもそもユーザー数は『小説家の野郎』の方が多いのだ。


 そうやって『小説家の野郎』で釣った読者を、絶妙に続きが気になるヒキが入ったタイミングでうまくライリーへと誘導する。

 まあ、そのタイミングの『小説家の野郎』の方のあとがきに「この物語はライリー先行で公開しています」って書き込むだけなんだけどさ。

 この時、あくまでも「先行している」ことだけしか、書かないことが大事だ。「ライリーまで読みにきてね」って書いたら、規約に違反する恐れがあるからな。


 読者の中には意外とどちらのサイトのアカウントも持っている、という人がいる。うまくやれば圧倒的に多い『小説家の野郎』の読者をライリーに誘導できるはずだ。


「えー、そんなこと、本当にできるの? ケイちゃん?」

『……まあ、少しでも効果があればありがたい、というのもあるけどな。あとは、大きな効果が出るかどうかはその小説の面白さにかかってる』


「あー。結局は実力勝負ってことだね?」

『まあ、そういうことだ。面白くなければ読者は移動してこないからな』


「なるほどねー。夏実、一瞬だけ卑怯なやり方だなー、なんて思っちゃった。ごめんね、ケイちゃん」


 ……う。卑怯か、卑怯じゃないか、と言われたら困る。とってもグレーゾーンなのだ。


 だが、そもそも広告収入のためにライリーと『小説家の野郎』はしのぎを削っているのだ。

 オレがひとつの作戦として『小説家の野郎』から読者を引っ張ろうとするのは間違いとも言えまい。などと、言い訳しておく。


 それぞれのサイトの特色を分析して、自分にできることを考える。そうでもしないとほとんど読んでもらえないのがWEB小説なんだ。読まれるための努力を卑怯だと言われたくはない。


 ……あとは、投稿する曜日を考えなければならないだろう。


 土日で『小説家の野郎』の日間ランキングを駆け上がった作品が、ポイントを落としてくるタイミングを狙う。

 だから水曜か、木曜だな。そこから1日3話の、朝、昼、夕の更新で、土日の時間があるタイミングに絶妙のヒキを重ねて……。

 いや。ヒキがいいタイミングから逆算するべきだな。うん。

 月曜か、火曜に、プロローグ的な短編を投稿するって手もあるな。『小説家の野郎』はライリーと違って短編がよく読まれるから……。


 オレはライリーでの予約投稿を確認しながら、『小説家の野郎』の方でもいい感じで投稿できるように予約をしていった。

 小説そのものはコピペなので、書く手間はかからない。ただし、ルビに関してはサイトによって扱いが異なるので、そこだけはきっちりと修正しなければならない。


 ……卑怯なのかもしれない。でも、オレは一生懸命、うどんになったオレを支えてくれる夏実にお小遣いをあげたいんだ! まだ、全然そこまで届いてないけど!


 こうして、『小説家の野郎』からライリーに読者を誘導してPVを増やそう作戦は実行された。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る