第7話 夏実に守られるオレ。でも、オレも夏実を守りたい。



 うどん転生30日目。


 夏実のサポートを受けながら、執筆を続ける日々。


 現在は、新連載を公開中である。そして、その新連載は思っていたほどPVは伸びていない。実に甘い見通しだった。


 1日のPVがだいたい3000くらいで、少しずつ、減っている。いわゆる、離脱、と呼ばれる現象だろう。


 投稿した各話ごとのPVを確認して、1話と2話、2話と3話などで、どのくらいPVが減少しているかを確認すると、その作品の離脱率は計算できる。


 離脱率をあまり気にし過ぎると、小説を書けなくなってしまう。だが、書き手としては重要なポイントではある。


 読み続ける読者と、ブラバ――ブラウザバックして読まなくなる読者。

 どの話で読者が離れているのかを見極め、どういう内容が読者から嫌がられるのかを分析する必要はあるのだ。


 だからといってそこばかりを見ていると、書きたいものを書くという、小説家としての本質的な部分が薄くなっていってしまうから、難しい。


 テンプレと呼ばれる物語の定番を積み重ねて、ひとつの小説を書き上げる『職人』のような小説家を目指すのなら、そういう地道な研究こそがカギになるのだと思うけど……。


 テンプレはうまく活用する道具として使うべきで、そこだけで物語を量産しても、ただネット上で消費されて終わるんじゃないか、とも思う。目標が書籍化なら、その上を目指さなければならないだろう。


 ……現状、うどんとして引き籠ったままでお金を稼ぐためには、それも必要なのかもしれないけどさ。


 この離脱という現象については、どこかである程度、一定数のPVに落ち着き、それがだいたい最後まで続くようになる。


 オレの場合は、だいたい10万字でひとつの物語をまとめるように心掛けている。これは文庫本1冊分の文字数がそれくらいだから、というのもある。

 また、ライリーではランキングが基本的に週間ランキングでトップページに紹介されているので、1か月間でバズらなければ、おそらくその話は先につながらないと考えられるのだ。

 1話あたりだいたい3千字で、30話から35話、それで完結する。というか、完結させる。


 もちろん、完結させたその続きを書くだけのネタは用意している。だが、一度、そこで物語を終えるようにまとめておくことが大事だと思ってる。

 もし、バズったら、そこから続きを書いて、できるだけ長く、ライリー上で連載を続けるのが正解になる。そうすることでPVの稼ぎ頭となる作品になるのだ。

 これはPVだけの問題ではない。書籍化される可能性も考えたら、そうする必要があると思う。


 WEB小説でヒット作を連発するのはなかなか難しい。それを実現させている人もいるけど、ほとんどは1発当てて、それを継続させる形でやってる。


 そこには、ある法則が影響しているらしい。


『紙の本では読者は作者につく。しかし、ネットでは読者は作品につく』


 そう言われているのだ。


 つまり、1度バズったとしても、ネットの場合、次の作品も同じように広く読まれるかというと、そうでもないのが現実だったりする。実際、今のオレはそういう感じだ。


 バズった時は、最高で1日のPVが10万くらいの日もあった。それが今は1日3000くらいのPVなのだ。この法則は、目の前の現実として信じざるを得ない。


 1日あたり3000PVで、これが少しずつ減っていて、おそらく2000PV前後で落ち着くだろう。そうすると、1か月のPVは6万から8万くらいになる。

 ライリーでは、だいたいPVの3%くらいが広告収入の分配としてもらえる。つまり、6万PVなら、1800円だ。

 月収1800円では、どうあがいても家賃は払えない。


 とりあえず貯金があるうちはいいんだが、貯金を食い潰す前に、この状況をどうにかしないと……。


「大丈夫! 夏実も、バイト、はじめたからね! 任せて、ケイちゃん!」

『いや……夏実に甘えすぎるのはダメだろ……』


 ……なんて優しい姪っ子なんだ。もう泣けるわ。うどんだから涙出ないけどな。


 夏実は平日の月曜から金曜までは、2回か3回、顔を出してくれる。そして、ビニール袋に小麦粉、塩、水を入れて、もんで、叩いて、うどんを作ってくれる。

 そのお陰でオレは少し体が大きくなった。新しいうどんの部分もちゃんと同じように動かせるから、これでオレの寿命は延びたはずだ。


 土日になると、夏実はオレの部屋に泊まっていく。これは、姉さん……夏実の母親から自由になる時間がほしい、という部分もあるんだろうと思う。


 ……いや、いくらオレがうどんになったとはいえ、オレの部屋で下着姿ってのはどうかと思うぞ、夏実。


 まあ、それはともかく、だ。

 父親代わりのおじさんで、オレが夏実を守るんだって思ってたけどさ。今は、夏実に守られるだけの存在になってしまった。うどんだし。


 ……月収1800円だと、夏実にお小遣いをあげられないだろっ⁉ お年玉だって怪しいよな! 頑張らないと!


 とりあえず、退職金もある程度は入ったから、すぐに貯金が尽きることはないはずだ。


 だから……。


 ……やはり、ここは並行連載か。


 ひとつだけだと3000PVでも、3つならおよそ1万PVにできる。月30万PVなら、9千円から1万円だ。それでも家賃にはまだ届かないけど……。


 このうどんの身体でできることは、ウルトラスーパー触手的キータッチだけなんだ。


 ……とにかく多作。これしかない。アイデアを思いついたら、ひたすら書いていくしかない。そして、ひとつでもバズればそこに集中して打ち込む。


 まあ、それとは別に。


 夏実に守られるだけじゃなくて、いろいろな意味で、うどんの身体でも夏実を守れるように考えておかないとな。


 オレはそんなことを考えていた。





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