第4話 うどん触手の力はある意味最強です。
うどん転生、17日目。
なんだか、サイズ感が、小さくなった気もする。だけど、もともと、どのくらいのサイズだったのか、記憶もあやふやなので、考えないことにする。それについて考えると怖くなる、というのも、ある。
3日前、アパートの玄関のドアをガンガンとノックされた。
まあ、ガン無視した。
おそらく職場から上司の原力也が来たんじゃないかと思う。人を威圧してくるあの声、間違いないはず。
うどんの姿で上司と会えるはずがない。うん。
とりあえず、無事であること、探さないでほしいこと、など、メールで送っておいた。
また、罵倒のメールがくるんじゃないかと思っていたら、割と丁寧な感じの、人事部からのメールがやってきた。どうしたことか、ハラスメント対策委員への相談を勧められたんだけど、さて?
……上司の原力也はどうなったんだろう?
一応、こういう経験はありますよー、って、この前の罵倒メールをコピペして、送っておいた。他にもいろんなスクショがなくはないんだけど……。
できればこのままそっとしておいてほしいことと、有給消化後は退職したいこと、などをメールで返信しておいた。
いきなり辞めて来なくなる若者もいたことがあったし、オレのこの対応なら、丁寧な方じゃないか?
……でも、人事からメールが入って、ハラスメント対策委員なんて話が出たってことは、少しくらいは辞めて欲しくないと思ってもらえたのか。それとも、ハラスメントで訴えられることが面倒だったのか。
どっちもありそう。だから、穏便に、って感じの返信にしといた。
まあ、どっちでもいい。もはや、うどんになってしまったオレには、どうにもできないことだ。
そんなことより、執筆である。
ほぼ半月。
たまに水分の補給……補給? いや、なんだろう? 回復かな? ま、いい。水分を回復させながら、使える時間は全て、WEB小説の執筆に充てた。
確実にお金になるはずのライリーセカンドの執筆を最優先にしている。そして、こちらは編集部の指示通りに予約投稿も済ませている。これでしばらくは安心だ。金銭面は。
この新たなWEB小説の舞台となるライリーセカンドは、実に、コスパのいいシステムだ。紙の本を印刷するコストをかけずに、お金になる小説を量産できる可能性がある。
しかも、作者がライリーでの投稿と同じように、ライリーセカンド用の作品を登録するだけというのもいい。
新たな技能を求められないので、作者にも、編集部にも優しいシステムになっていると思う。
……読者には金銭的な負担を求めるんだけどさ。ま、そこは許してほしいところ。その分、少しでも面白いと思ってもらえる小説を書かないとな。
おそらく、ライリーセカンドでヒットした小説は、さらに紙の本として印刷して、販売されるんじゃないだろうか? そういう期待も、少し、あったりする。
ネット上のサブスクだから、その時点でお金を払って読んでいる。それでも、紙の本になったら、表紙絵や挿絵も入るし、そういった他の魅力もある。
週刊少年漫画雑誌で毎週のように連載漫画を追っかけていたとしても、コミックスを買うのと同じだ。それが小説でも、そこにお金を出してくれる人はいるはずだ。
出版業界は小さなパイの奪い合いになっているはず。活字離れ、とか、出版不況、とか、もうずっと言われ続けている。
その中でKUDOYAMAがこういうサブスクを仕掛けていくことに意義があるんだろうと思う。
ライリーセカンドの新作を最優先したのは、これが原稿料の発生する、正式な契約だという部分が大きい。
ライリーのネット小説は、PV次第で広告収入からの分配を受けられるんだけど、あくまでもPV次第ってのが怖い。
……読まれなかったら、1円にもならないんだから。それは怖い。
ライリーセカンドはその点、原稿料という最低保証がある。ここを優先するのは、仕事なんだから当然だ。
ライリーセカンドの新作以外は、2つ、10万字の作品を用意した。
10万字というのは、だいたい文庫本で1冊分だから、2冊分、ということになる。
ライリーのシステムは、業界最大手……という言い方は少しズレてる気もするけど、とにかく業界最大手の『小説家の野郎』との差別化を意識している。
それで、『小説家の野郎』とは違う形で、ランキングをはじめとする読者動線――公開したWEB小説に読者を呼び込む仕組み、が工夫されている。
これが『小説家の野郎』なら、10万字どころか、100万字くらいは書いて、そこから一挙投稿で1週間、更新された小説の欄に作品名を露出させていけばいい。
そこで稼いだポイントでランキングの上位を狙って、今度は作品名をランキングに露出させていけば、より大きくPVを稼げる。
ただし、インセンティブの仕組みがない『小説家の野郎』ではどれだけPVを稼いだとしてもお金にはならないので、そういう意味では空しいだけかもしれない。
うどんになったオレにとっては、ネット小説で稼ぐしかないのだ。外で働くというのはもはや不可能なのだから。
当然、投稿先は、PVがお金に変わる可能性があるライリー、一択である。
ただ、今はまだ、オレがうどんになる前の連載作品が予約投稿された状態なので、それが完結するまでは慌てて投稿するべきじゃない。
書けたら、すぐに出す。
そう考えているWEB小説家は多い。だけど、それは悪手でもある。
とにかく読んでもらえるまで、数撃ちゃ当たるの精神は必要かもしれない。だが、WEB小説というものは基本的に読んでもらえないということを忘れてはならない。
今、うどんチートな触手的キータッチで、執筆ペースは非常識な状態だと思う。これはオレの唯一の武器だ。
作品は確保できている。それなら、どうやってそれを出していくか、が大事になる。
オレの考えでは、ひとつの作品が完結を迎える、前日か前々日に新作のスタート、というイメージだ。
そして、最終回を迎えた前作に、あとがきとして1話を翌日、書き加えて、そのあとがきの中で新作を紹介していく。
新作はまだ、4話か5話で、連載を追いかけるなら、ちょうど読みやすいところだ。
可能な限り、今までの読者を呼び込むことで、新作にスタートダッシュをかける。これしかない。
……実際、『おコゲ』で大ヒットしたのに、次回作のタイミングがズレたことで、読者を逃がしたんだよなぁ。
オレはあの時の、苦い記憶を振り返る。
自信作である『おコゲ転生』では650万PV、1日の最大が10万PVというアクセス数だったのだ。
それなのに、『おコゲ』の完結後、1週間で出した新作は、全然読んでもらえなかった。タイミングを失っていたとも言える。
今でこそ、じわじわと伸びてきたPV、星、フォローで、ある程度の読者がついているけど、最初はひたすら落ち込んだのだ。
……同じ失敗を繰り返す訳にはいかない。もう、うどんのオレには、これしかないんだから。
オレはそう、気合を入れ――。
ぴーーーーん、ぽーーーーん。
――不意に、ドアベルが鳴った。どうやら、誰かが来たらしい。
運命の17日目は、まだ終わらない……。
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