第3話 衝撃! うどんの寿命……。
うどん転生、3日目。
……まあ、会社をずっと欠勤してるってことは置いといて。
あと、うどんも寝るらしいよ? 夜になったら意識がなくなって、朝、気づくことがあるから。たぶん、寝てるはず。
ま、そういう、動けるうどんの生態はともかくとして。
今はとにかく、小説の書き溜めにオレは動いていた。
WEB小説プラットホーム、ライリーは、書いたからといって、一挙に投稿するのはうまくないサイトなのだ。
このあたりのことをきちんと理解しているかどうかは命運を分ける可能性がある。
ライリーのライバルサイトにして、WEB小説プラットホームで最大のユーザーを抱えている『小説家の野郎』では、一挙投稿が有利だ。
ただし、どれだけPVを稼ごうが、どれだけポイントを稼ごうが、『小説家の野郎』だと1円にもならないけど。
うどんになった今、『小説家の野郎』では、オレは生きていけない。
あのサイトだとお金にならない。
どこかで編集者の目にとまって、その小説が書籍化されたら話は別だけど……でも、うどんだからなぁ。
編集者とのやりとりとか、対人関係はかなり厳しいと思う。うどんのままで対応できるとは思えない。
そもそも、編集者とのそういうやりとりは、ライリーセカンドでの話があった時くらいしか経験がないし。
話を戻そう。
一挙投稿がうまくないライリーの場合は、スタートで2話か、3話くらいの更新にしておいて、あとは毎日更新で1話ずつがベターだと考えられる。
これまでの作品でのPVの動きから考えると、どう考えてもそっちが安定してPVを稼げる。つまり、お金を稼げる。
少なくとも光熱費を稼がないと。ノパソが動かなくなったらオレは死ぬしかない。
WEB小説プラットホームによる攻略方法のちがい。これは、主にトップページの読者動線のちがいが原因だ。
トップページに「更新された連載小説」が20作品、取り上げられるのが『小説家の野郎』だ。
この場合は、朝から夕方まで、読まれやすい時間を狙って複数話更新をすると、トップページでの露出のチャンスを掴みやすい。
だから、一挙更新が通用する。
一方、ライリーのトップページでは、8作品しか、新着が紹介されない。『小説家の野郎』の3分の1といったところだ。
だから、一挙更新をしたからといって、『小説家の野郎』のように、たくさん露出できるチャンスがある訳じゃない。
それどころか、ライリーの新着はトップページの下の方なので、ほとんど露出がないと考えられる。
そういう理由で、ライリーでは、一挙更新はうまくないのだ。
ライリーの場合は、トップページの上の方にある、「注目の作品」にピックアップされるかどうか、がその小説の命運を分ける。
ここに載る可能性があるのは、前日にポイントとなる☆をゲットしたかどうか。
そして、☆を入れられるのは、その小説の表紙となるページの下の方か、最新話を読み終えた下のところの、どちらかしかない。
だから、1日でたくさん更新するよりも、毎日、着実に更新した方がいい。
話数がたくさんになると、☆を入れられる最新話までなかなかたどり着かないからなぁ。
スタートダッシュで、2話か、3話で、そこで何個か☆をもらって、運良くトップページの「注目の作品」に入ること。
これが重要だ。
だから、慌てて公開するのではなく、とりあえずは書き溜めを優先している……んだが……。
むむむ……なんか、キータッチが少し、遅くなったような気が……?
……って、え? ぱらぱらと白い何かが落ちて……って、これ、小麦っぽくないか? いや、小麦粉っぽいのか? ちょっと固まりだけど?
え?
オレの身体……身体といっていいのか、分からんけど……なんか、ぱりぱりになってきてるような?
しかも、はがれ落ちてる感じ?
マジか⁉ ヤバくないか⁉
うどんの身体から、水分が、失われて……いる……?
そう気づいたオレは、とっさに仕事机から飛び降りた。そのまま、床にうどんを伸ばして全体を引きずり、キッチンへと移動する。
そして、シンクへとのぼっていって、蛇口をひねり、水を出す。
水量の調節は、微妙な感じにしないと、身体が……というか、うどんが、ばらばらにされてしまう可能性がある。
うどんの身体、かなり不便だな⁉ 当たり前だけど⁉
ぽつん、ぽつん、と落ちてくる水滴の下に、うどんを伸ばす。
一滴の水がふわんと、うどんの身体に満ちていく。それとともに、うどんとしての柔らかさも取り戻していく。生き返った気がする。
……どうやら、正解だったらしい。あのままだと、水分不足で、ぱりぱりになって動けなくなるところだった。
だが、気になる。
……うどんって、寿命、どれくらいなんだ?
まさかの賞味期限までしか生きられないとか地獄だろ、おい⁉
……いや、賞味期限は「味」の問題だから、それよりは長いとしても。
いつかは、腐り落ちて、この身体が失われていく未来が見えてしまった……。
今も、ノパソのキーボードの白い汚れとか、床にもあまり表現したくない誤解されそうな白い汚れとかで、うどんの身体の一部が着実に減少していると考えられる。
……どうにかしないと。マズいぞ、これは。
最初にオレが中に入っていた袋を持ち上げ、軽く濡らした半身を袋の中に入れて、残りの半身のうどん触手で、袋の上からうどんを叩く。
どうにかして、このうどんの身体を保たないと……。
……確実に、人間として生きるよりも、寿命は短いと想像できる。
穀物のままなら数年は生きられたのかもしれない。だが、オレはもはやうどんになってしまっている。もう何を言ってるのか、自分でも分からんけどさ。
……まだ、小説家としての夢を叶えてないんだよ。あきらめたくない。
子どもの頃に、いろいろな本を読んで、書きたいと思った。
書くうちに小説家になりたいと考えるようになった。
ネットで小説を公開できるような世の中になって、その中から大ヒットするような作品も出てきて。
オレもネットで小説を書き始めた。
それが『おコゲ転生』でついにバズって、その結果、ライリーセカンドから声がかかって……。
……たぶん、書籍化へと少しずつ、近づいている。夢を叶えるまで、もう少し。そのはずなんだ。
今は、まだ、死にたくない! 転生だったら一度死んだのかもしれないけど!
たとえ、うどんだったとしても、どうにかして生きていたい。
水分補給の間に、いろいろと考えをまとめた。
とにかく、執筆の合間に、水分を吸収するための休憩をはさむ。
そして、それ以外の時間は、ひたすら、執筆に打ち込む。
キッチンのシンクは吸い込み口にフタをして、うっすらとシンクに水を溜めた状態にしておく。水が大量すぎると、それはそれで、身体が溶けそうで怖い。うどんだから。
書籍化の夢を叶えるまでは……。
死んでたまるか。
絶対に生きてやる。
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