第2話 うどんの生きる道を求めて。
なんで目がないのに見えてるんだ、とか、不思議なことはいろいろあるんだけど、そこはもう気にしないことにした。
そんで、とりあえず、割と自由に動けるようになった。
意外とすごいな、うどん力。
うどんとしてどう生きるか、みたいな話は、考え続けると大変だから、とりあえず、できることをやっていく。そこは深く考えたらダメな感じもする。
まずは、うどん力を駆使して、仕事机にえっちらおっちらとのぼって、ノパソを開く。で、ノパソを起動する。
机の足にうどんをからめて上る姿は、客観的にはどう見えるんだろうか。かなり不気味な感じではないかと思う。
意外と、うどんなのに力はあるらしい。
謎だらけだ、マジで。実はチートとか? 身体強化スキル? いや、どこが身体? 全部うどんなんだが?
……いや、うどんな時点でどんなチートもゴミかもしれん。
ノパソが起動したら、パス入れて、メールで、会社に休みをお願いする。とりあえず大病っぽいってことで。
そしたら、心配するメールじゃなくて、休むことに対する罵倒みたいなメールがきた。いや、基本、休みは権利だろ? そもそも、うどんじゃ通勤できん。うん。
……大病、ウソだって思われてるな、これは。
まあ、ウソなんだけど。
病気じゃなくて、うどんになっただけだ。
……いっそ、うどんになったって、メールに書いてやろうか?
いや。ダメだ。
もっと、ふざけてると思われて、マイナスでしかない。たぶん。
ま、あの会社がそーゆー感じなのは今さらだ。特にこの上司――原力也はずっとこんな感じで部下を見下し、ひたすら理不尽な命令を出してくるタイプだ。
まあ、会社のことはどうしようもない。それよりも、こっちが重要になる。
ライリー――WEB小説プラットホームのひとつで、国内トップクラスの大手出版社KUDOYAMAがバックにいるサイトだ。英語のライト、あんど、リードの略で、ライリーという名がつけられたらしい。
ここで最近まで『おコゲ転生』って、中華料理のおコゲに転生して、それでもスキルチートで異世界を生き抜いていく話を書いてた。
まさかWEB小説で人外転生を書いてたら自分が人外転生してしまうとは思ってなかったけど……。
まあ、『おコゲ転生』の話に戻そう。なんか、ありえない感じの転生ネタが不思議と読者にウケたらしい。
予想外だったけど、かなりの高評価を頂き……そこで注目を浴びたからなのか、なんと、ライリーが新たなWEB小説のステージを用意するとかなんとか、そういう動きがあるらしい。そして、そこで――ライリーセカンドで新作を執筆しないか、とライリー運営から誘われてしまったのだ。おそらく、コメディ枠で。
オレの夢は小説家。だから、ついつい、その話を引き受けてしまった。本業となる会社の仕事との兼業で、なかなか大変になるとは思う。だけど、つい嬉しくなってしまって……。
だが、今となっては、そこがオレの生きる、唯一の道になる可能性が高い。あの時のオレを誉めてあげたい。
このまま、うどんのままで生きていくとして……。
どうにかして家賃とかもろもろ、お金を稼ぐ必要がある。
実は、ライリーには、WEB小説のPVによって、ライリーに入ってくる広告収入の一部を分配してくれるという仕組みがある。
実にありがたい仕組みだ、マジで。
それに、新たに開設されるライリーセカンドでの新作には原稿料も出る。
この前までの『おコゲ転生』は驚きの650万PVだったのだ。それで、なんと、合計すると、インセンティブは約20万円くらいの分配になっていた。連載期間のおよそ4カ月での20万円だから、月額だと5万円くらいだけどさ。
もちろん、普通に会社からもらえる給料の方がいいのは間違いない。だけど、この先、うどんのままだと会社には行けない。絶対に。どう考えても無理だ。
……そもそも、動くうどんとか、見つかったら、どうなるか。
恐怖しかないかも。いや、これ、考えたらダメだな、マジで。ヤバいだろ。
まさかと思うけど、『おコゲ転生』なんて書いてたから、神様がうどんに転生させた、とかじゃないよな、これ?
神様ってWEB小説、読むのか?
そもそも読者様は神様です、みたいな感覚はあるけどさ。
小説で書くのって作者の願望とか言われることは多い。
だけど、おコゲになりたいワケじゃなくて、小説家になりたいんだからな。神様のそういう勘違いだったとしたら、この転生は悲しすぎる……。
どうせなら偉大な小説家……いや。稼げる小説家に転生させてくれい……。書籍化とか、コミカライズとか、アニメ化とかの……。
そんなことを思いながら、パソコンに文字を打ち込んでいると、ふと、気づいてしまった。
……うどんって、キータッチ、なんか速くない?
なんか、頭で思いついたのとほぼ同じペースで文字になってる気がする。
ふと、視線を落としてみると、何本ものうどんの先端がうにょうにょとキーボードの上で踊っていた。正直、自分の身体なのに不気味すぎる。
……なるほど。納得。これが原因か。
無数の触手を操る究極のキータッチ。
誰よりもハイペースに執筆が可能という奇跡。
確かに、小説家をめざすのであれば憧れるチート!
なんて素晴らしいんだ⁉
………………んなワケあるかあぁぁぁぁっっっっっ!!!
気持ちが落ち着くまで、少し時間が必要だった。
とはいえ、このチートは、今なら、役立つのも事実。
思いついたまま、オレの頭の中にあっても、時間がないからと放置していた話を書けるんじゃないか、と思う。
どうせ会社には行けないんだから、時間だけはある。それなら、このチートを使って、多作なWEB小説家を目指すしかない。だって、PVを集めないと稼げないし。
ライリーセカンドの執筆のこともある。
今、このうどんの姿の間は、とにかくネット小説で稼ぐしか、ない。
オレはキーボードがなんだか少しずつベトついて、白くなっていくことに気づいてしまった。しかし、そこはスルーしつつ、今まで頭の中で蓄えていた物語をとにかく書き出すことにした。
うどんに転生したオレは、WEB小説家として、生きていく。
どう生きるか、ではなく。
今はそれしか、ないのだった。
……まあ、うどんだしね。うどんだけに。だし。
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