第8話

「坪井君、今日はお疲れ様、あと晩御飯ありがとう。美味しかった。」

「ここ最近数学教えて貰ったお礼。講師代にしては安いもんだけどね。あと、数学頑張ります。」

そういや、もうテストも近い。

「カレーホントに美味しかった。またテスト終わったらまた何か作ってよ。交換条件って事で。」

テスト終わったら何作るかな、次はもう少し手伝ってもらって、大掛かりなものでもいいかもな。親父もいるだろうし。

「うん、喜んで。またご飯作ろう。」

テストの事を考えると憂鬱になってきた。寝る前に少しだけでも復習しておこう。

「どうした?テスト近くて胃が痛い?」

「大丈夫、白川がしっかり教えてくれてるから。むしろ越されないかヒヤヒヤしとき。」

最寄り駅に着き、楽しい時間はすぐに終わる。

何故なのだろうか。

調べたら出てくるだろうし、問いを探している訳ではないけれど。

「じゃあね。大丈夫と思うけど電車降りてから気をつけて。」

「うん、楽しかったよ。また学校で、あとで着いたらLINEするよ。」

そうして白川との勉強会、兼夕食は幕を閉じた。


家に帰ると母さんがテレビを見ていた。

「お疲れさん、さ、風呂でも入って寝な。」

「へいへい、言われなくとも。」

「で?その前にどこまで行ったのかくらいは教えなさいよ。」

出たそういうの、こういうセリフ来ると思ったけども。

「いやいや、付き合ってるとかじゃないしさ。俺じゃ釣り合わないよ。」

服を脱ぎながら答える俺にそうかしら?と首をかしげる

「あ、服洗濯機入れときなさいよ。んーあんた達お似合いだと思うわよ?別にあんたイケメンな方だとは思うし、変じゃないでしょ。」

「顔に関しては身内贔屓。色々総合して考えても”無くはない”くらい。」


実際に俺は得意なものはあっても、1番な事はない。

例えばムードメーカーという意味であれば、池上が秀でている。

勉学ではそれこそ白川。

運動では黒川さんはレベルの低くないバスケ部で既に戦力に、対して自分は成績は平均、運動神経は良い方だが、所詮その程度で収まる程度だ。

要するに器用貧乏が当てはまる。必ずしも一番に拘る必要はないということは重々理解しているつもりだが、他より特別秀でているものが自分にはない。


「…ほら、そゆところ。成績とかに関して立つ瀬が無いのは事実なんだろうけど。」

「おい、そこは言うな。てか風呂入りたい。」

俺もう半裸なんすけど、寒いんすけど。

「まぁまぁまぁ、ちょっと聞きなさいって。」

はぁ、まぁ服着ますよそんなら。よいしょ。はい、どぞ。」

脱ぎかけた服をそのまま着なおす。

「あんたが忘れ物確認してるときね?アホだから勉強教えるの苦労したでしょ?ありがとうって言ったのよ。」

アホは余計だけどな

「…まぁはい。」

「で、そしたらね、私が空気読めないから助けて貰ったり助かってるって。まぁ冗談真に受けてるあたり想像つきやすいけどね。」

まぁ俺は冗談通じないのは最早、愛嬌といったところと思っているんだけども。

「白川にしてもちゃんと勉強もできるし常識もあるし。多分もう皆も気にしてないけどな。」

正直そんなことは気にするまでの事は無いと思う。よくいる無神経だったりアホな連中よりはよっぽどマシだと思う。

「なんとなく、良い感じと思うわよ?てっきり緑さん一筋かと思ってたわよ。まぁ風呂行っておいで」

「緑さんはそういうんじゃない。しかも4つ上よ?とりま風呂いってくる。」

俺が良くとも緑さんに失礼だ。


携帯が防水なのでタオルと一緒に持っていって、風呂の端にある掃除用具棚に立て掛けて音楽を流す。

と、いっても流すのは温泉の音でポップスではない、温泉が好きなのだが最近は行けていない事もありハマっている。体と頭を洗い風呂につかる

「あー極楽…」

「ズー」

風呂の棚のプラスチックが振動し妙な音を立てる、白川からのメールだろうな。上がったらチェックするか。

上がろうとするとスマホが軽快な音を立て出す。画面には(緑さん)とある。噂をすれば影?通話なので影は無いがそういうやつか。


「はい、もしもし俺っす。」

「新手のオレオレ詐欺か。てか今風呂?」

なんだこの人。掛けてきたの先輩でしょ、普通こっちが詐欺られてるわ。

あ、だから新手なのか

「まぁそうっすね。風呂入ってますけど。」

「いやん変態。」

「別に俺は脱皮しませんよ。」

「…」

「で、どうかしましたか?」

こんな時間に緑さんが電話をかけてくるなんて珍しい。

「あーそれなんだけど、こないだ履修登録手伝ってもらったろ。お礼に何か奢るから今度の日曜日空けときな。あれマジで助かった、ありがと。」

「大学生になったけど履修登録が分らん」と言い出していたので、取り敢えず必修と言われるやつと合わせて適当に取らせたな。

「はいはい、それくらいなら全然。日曜日っすね。おkっす空けときますね。」

「んじゃよろしく~。」


風呂から出て、好物の炭酸水を呷りながらL○NEをチェックする。俺に連絡する物好きは限られるし、今日も今日だし白川からのLINEだろうな。

「今日はありがとう、テストまであと1週間と少しだから気を抜かないようにね。また月曜日から頑張ろう🤛」

と送られてきた。何だこの拳、俺は使ったこと無いな。これあるかな、スクロールしていくともう片方の拳が見つかった


「折角教えてくれているんだから、それなりには点数取って見せるよ。頑張ります🤜」と拳返しを送った。


5月末 蛙葉の時期に

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