第7話

鍋底が焦げないように交代で回しながら煮込んで行く。片付けを終える頃には丁度良い感じになっていた。

「よーし、そろそろかな。じゃあカレーお皿に盛り付けして貰っていい?」

「はーい。」

お茶、コップ、スプーン、箸、サラダ、そしてメインのカレー。夕日で橙色に染まっている。

 リビングをバックに白川が配膳している。まるでドラマのワンカットを切り抜いたような綺麗な光景だ。


そんな事を考えていると母親の声で思考の中から引き戻される。

「おおー良い匂いしてきたねぇ。2人とも、ありがとさん。」

「ほんの少しですけど、私も手伝えたので良かったです。」

にしても白川はさっきまであんなだったのに、なんか順応が早いなぁ。散々からかわれたのに、さっき作る前ちょっと喋ったらもう普通に喋ってるし。

「…まぁいいか。」

『ん?なに?』

何でそこでハモる…。


「よし、それなら食べようか」

では

【いただきます!】

うん、まぁ好みに味付けしてるから自分や家族は好きだが、どうだろう。母はカレーは俺に作らせるくらい気に入ってるんだが…。

「うわ、美味しい!」

驚いた顔をするくらい気に召してくれたらしい。

「そりゃ良かった。」

「美味しいし、普通のと違うね。やっぱりルーの香りっていうのかな。何か香りいいねー。」

それなりに気に入ってくれたんだろう。作った甲斐があった。家族以外に料理を食べさせる機会はそうそうないし、なんだか気恥ずかしい。

「ありがと。スパイス少し足してるし、多少は違ってくるかもね。」

「まぁー食材買っとけば料理任せても何かしら作るし、忙しい時便利だよ。」

人を便利屋かなんかと勘違いしてないかこの母親。


「やっぱそうですよねぇ、何かと機転効きますしこの人。私も見習わなきゃ。」

「コイツ捕まえれば、その必要ないけどねぇ?」

あーまた油断してれば…

「あーもうこらこら」

案の定だ顔が熟れトマトである

「つ、付き合ってませんし、学生なので、そのあの。そういうのは。」

「あら?捕まえるとしか言ってないわよ?ねぇ?」

「はぁ、白川は冗談あんま通じないから、真に受けるからそう言うこと言っちゃダメ。白川も冗談だから真に受けすぎない。」

というか捕まえるに他意はあるのか?まぁパシリという扱いもできなくはないか。

面白そうに笑う母を尻目に俺はため息を付いた。

「わ、悪かったね。」

白川は少し不服そうにカレーを黙々と食べ進めて行った。


【ごちそうさま】

カレーは我ながら中々の出来だったと思う。といっても、俺も最初の頃は焦がしたり、今でもたまにやってしまうが、味付け薄かったりと失敗したもんだ。そう思うと俺もそれなりに様にはなったなと思う。

「後片付けはやっとくから。もう遅いし、あんた送ってやり?」

確かにもうそれなりに暗くなっている。普段の帰る時レベルの暗さだが、まぁ最初からそのつもりだったが、そろそろ送るか。

「はいはい、最初からそのつもり。」

「うん、じゃあお言葉に甘えて送ってもらおうかな。」

「じゃあ忘れもんとか無いか確認してくるのと、スマホ取ってくるから。少し待ってて。」


俺の部屋には数学のノート、教科書が積んであった。思えば半日とは言え早かったものだ。

「…俺は前に進めてるかな。」

暗い部屋、自分に問いかける目線の先には、本棚の上に伏せてある埃の積もった写真立て。過去に浸食されかけたそのとき、白川の声がリビングから聞こえ引き戻される。

「あぁ、そうだ。忘れものないよな。」

忘れ物が無いか確認し終え、リビングへと戻ると、すっかり母と白川は仲良くなっていた。

「また随分とお楽しみで。」

「あら、長かったね。それじゃ白川さん、また来てね。」

「は、はいお母さん」

母はニヤリとする。

「やっぱり今のは[お義母さん]の方なのかしらっ!?」

いや違うだろ。飛躍し過ぎだし早過ぎだ。

「んなわけあるかい。」

「お、お母さんからそう言ってと…」

まったくこの人は油断も隙もない。

「はいはい白川さん行くよー」

どもる白川を引っ張りながらリビングを出る。

「う、うん、すみませんお邪魔しました。また来ます。」

「はいはい気をつけてね」

と、通りの良い声が聞こえた。

そうして我が家一旦後にした訳だが、中々充実した日だった。


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