第3話

体育は退屈なスポーツテストを終え、今週はバレーをするようだ。

「おい、坪井聞いたぞー?お前バレー上手いんだろ?しくじんなよ!」後ろから池上のいつもの底なしの明るい声がする。同じチームかまだ決まってないのに、何でそのテンションなんだ。

「バレー経験者居たら勝ち確よ。」。

(どうせ自分が活躍できなかったら裏でしょうもない文句垂れるだろ。)

「授業だし勝ち負けより楽しんでよ。勿論、勝つつもりで行くけどね」

と、軽くお得意の笑顔を張り付けて答えながら緩くやろうと心に誓った。中々上手いかわし方を出来ているのではないだろうか。自分もバレーは楽しいと思う。皆に楽しんで欲しいのも本心だから、噓でもないんだけれど。


担当のやせマッチョ先生が体育館に来て体操を済ませホワイトボードにベシベシと謎の竹刀の様なものを叩きつけている。

「今日はバレーだけど流石に硬球だと危ないし難しいのでソフトバレーな~…ってなわけでチームはこんな感じで組んでね。接触競技ではないから男女混合6人チームになってます。精々女子に良いところ見せろよ男子。危ないから経験者以外は無理なプレーは避けるように、女子も同じチームだから!以上!」

そもそも高校生の体育は男女別では、とも思ったが実際に混合バレーもあるし、特におかしくも無いのか。

チーム5人の内には白川も入っている。アイツは運動とは少し縁が遠そうだ。


「同じチームだね白川、そういや運動は苦手?」

「坪井君が思っている以上に運動できるんだからね。こないだ聞いたけどバレーの経験者みたいだけど、頼っちゃって良いんだよ?それこそ坪井君がミスしないようにね 。」

澄まし顔だが、いつになく凄いやる気だ。…そんな煽る必要ある?

「なんか凄いやる気だな。」

白川はふーんと試すように俺を見て

「噂の経験者は大丈夫なのかな?」などと抜かしている

当たり前だ、誰かの自己紹介みたいに悪目立ちするのはごめんだ!

「定期的に坪井君から失礼な心の声が聞こえてる気がするんだけど?」

なんでコイツこういうときだけ勘が鋭いんだ。

「気のせい気のせい。よ、よし、 そろそろかなぁ。(ったく今に見とけよ…あんにゃろう。同じチームだけど)」


相手からのサーブがくる。クラブでのポジションはセッターなこともあり、セッターを買って出たが、そもそもサーブカットできるのか。楽しみにしとけと言い出した手前だけど、果たして俺の役目はあるんだろうか。とりあえずセッターポジションにボールが来るか分からないな…

さて、いけるか。その白川のサーブレシーブだが、そのボールは低すぎず高過ぎず綺麗にセッターポジションに返る。いくら緩い球でもこれだけ綺麗なレシーブをされれば流石に分かる(これ白川バレーやってたな!)

「上げるぞ!」多分やってたならこれだけで通じるだろう。レフトに癖のない大きめトスを上げる。

白川は綺麗なジャンプは一瞬スローに見え、目を離せなくなった。体が白川の方を向いていたからでも、目を引く跳躍力があったわけでもない。何となく、だが自分の視線を奪うのには十分な何かがあった様な気がする。

そのスパイクはしっかりと相手コートに突き刺さり得点になる。

「ナイストスありがとう。中学でやってたから。結構やるでしょ?」と歓声が湧くなか戻って白川は自慢気だ。

「あ、あぁ、うまいな。流石に予想外だった。」

白川の言葉で我に返ったが、凄く不思議な感覚だった。

実際にはスローなわけがないし、トスを上げたのだから、見えるのは当たり前と言えば当たり前なのだが、何だったのだろう。

「え!白川さんうま!」

チームメイトも驚いているし、俺もまさかバレー経験者とは思わなかった。

「え!てか、白川さん絶対バレーやってたろ!そっちのチームせこ!?」

相手チームだった池上が声を上げている。知らなかったとは言え、確かに経験者2人はセコい。

「自称だけじゃないってことね。…ちょっと私怨入ってたろ。」

「まさか普段イラつかされてるからなんてね?ほらサーブ打ってきてよ。」

まだ始まって1本目なのに白川の顔が清々しいのは気のせいだろう。


適当にサーブを下から優しく打つ。相手のコートに入るが、あまり上手く返せず返球は高く上がりこっちのコートに戻ってくる。ボテボテの返球の所在は、あまり運動が得意そうでない子で、慌ててアンダーを振って明後日の方に上がるが、ある程度予測できていた。幸い腕を振っていたお陰で、高さがありまだ間に合う。ボールの落下地点まで走りバックトスで自陣コートに戻す。まだボールは落ちていない。もう一人のチームメイトが戻してくれたお陰で繋がり、最後はあっけなく相手のミスでこちらの得点になった。


こっちのフォローもしとかないとな。彼の体操服のワッペンには仁川と書いてある。

「仁川君、上げてくれたから何とかなった、ありがとう。」

「あ、ありがとう。坪井君すごいね。」

「大丈夫よ、勝てる勝てる。頑張ろう。」

「流石セッターだね、やるじゃん。」白川も満足そうな表情で

「ありがとさん。」


その後はバレー未経験者にもそれなりに華を持たせることもでき、危な気なく勝つことができた。コミュニケーションも少し取れたし、いい感じなのではなかろうか。

「坪井、バレーはいつから?」

白川から~君が抜けた?仲良くなれたってことでいいのかな。

「あー小学生のときはクラブとかでしてたけど、今は大人と混じって週2回くらいだけ練習してる。」

「それ先に言ってよ。おかげで上手い人の前で豪語して赤っ恥かいたじゃん。」

苦笑いしてる彼女を尻目に、部活をしてないのにこれだけ動ければうちの女バレは特段強いわけでもないし、かなり戦力になるだろうな。


「俺がバレーしてたのは知ってたんでしょ?そんな赤っ恥かくほどでも」

「そりゃあんだけ大きな声で言ってれば知ってはいたよ。でも初心者が居て返球が安定しない中で、あの精度で上げてくれるのはセッター歴それなりに長いでしょ。 」

「俺は自分から進んで大きな声で言ってないけどね?中1からだから3~4年くらいかな。」

「まぁそこはいいとして、そりゃ上手くもなるかぁ。」

「よくはないけどな。」

「細かいなー。あ、これだけ難しいことができるんだから、数学の方も期待して良さそうだね?」

「それとこれとは関係無いだろ!」

その後は他のチームメンバーも込みで談笑していた。

今日は回りが悪く1ゲームしか無かったが、なんだかとても楽しい時間だった。


五月末 蛙は跳ぶ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る