第19話  レベルアップ、した!

 瞬と菫の日課に、武術の鍛錬が加わった。

 瞬は狩りを早めに切り上げて、クラマ、デク、ジンと剣の稽古をした。

 菫の能力だと、稽古の相手が吹き飛ばされるので、菫は人形を相手にした。


 クラマもデクもジンも強かった。

 稽古に真剣を使うわけにはいかないので、木で出来た武器で戦う。

 木で出来ているとはいえ、まともにくらうと大怪我をしてしまう。

 まあ、その時は、姫の回復魔法があるのだが。


 瞬は1対1でも、3対1でも苦戦を強いられた。

 だが、僕は自分を追い込まなければならない。

 2日で、僕に異変が起こった。


 ピロリロリロリロリン!

 “瞬のレベルが上がった”


 どこからともなく聞こえてくる音と声。


「瞬、今のはなんや?」

「多分、レベルが上がったんです」

「ほな、新しい技を見せてくれや」

「はい。火炎剣!」


 僕は木刀を振った。木刀は炎に包まれていた。

 僕の木刀は焼け焦げた。だが、真剣なら焼け焦げることもない。成功だった。


「他には、なんか無いんか?」

「かまいたち」


 疾風が吹き荒れた。


「この風に触れた者はズタズタに引き裂かれます」

「攻撃力がアップしたな」

「はい」

「心強い。もっとレベルアップしてくれ」


 デクも嬉しそうだった。


「特訓をした甲斐があったな。俺も嬉しいぞ」


 珍しく、ジンの口からも言葉が出た。


「菫、レベルアップしたぞ!」

「え? そうなの?」

「やっぱり、この世界でもレベルアップ出来るんだ!」

「じゃあ、私も負けていられないわね」

「勝ち負けの問題じゃないだろう?」

「勝ち負けの問題なの。私がお兄ちゃんより劣っているなんて嫌なの」

「やっぱり人形相手だとレベルアップしにくいのかな?」

「だって、私の魔法は敵を吹き飛ばす魔法だから…しょうがないじゃない」

「相手をしてやろうか?」


 桜が近寄ってきた。


「何よ、あなた」

「相手をしてやろうと言っている」

「あなたの助けなんていらないわよ」

「菫、そう言うな。手伝ってもらえ」

「ここら辺に立っていれば良いのか?」


 桜が人形の横に並ぶ。


「どうなっても知らないわよ」

「どうにもならないから心配するな」

「言ったわね! 行くわよ……破!」


 ものすごい突風が吹いた。

 だが、桜は同じ位置に立ったままだ。


「どうして吹き飛ばないの?」

「雑魚ゾンビと同じにするな」

「破! 破! 破-!」


 術の3連発。

 桜は微動だにしなかった。


「なんで?」

「風に吹かれた程度にしか感じないぞ」

「強がってるんじゃないわよ!」

「強がっているわけじゃない」

「私の攻撃が通じないわけないもん」

「魔力の差だ。魔力の少ない者は、魔力の多い者に敵わない」

「うるさい、うるさい、うるさーい!」


 菫が術を連発する。

 どうやら、良い訓練相手になりそうだ。


「やった…」


 陽が沈む頃、菫の笑顔が見れた。

 菫もレベルアップしたのだった。


「菫さんは、どんな魔法を使えるようになったの?」

「広範囲のシールドと、スポットシールドです」

「スポットシールド?」

「離れている味方1人にシールドを発動できます」

「素晴らしいわ」

「やって見せてくれ」

「いいわよ」


 菫は嬉しそうに魔法を披露した。

 桜は馬車の中で眠っていた。

 瞬は馬車の上に上がった。


「桜」

「なんじゃ、瞬か?」

「今日は、ありがとう」

「何がじゃ?」

「妹の特訓相手になってくれて」

「気まぐれでしたことじゃ。気にするな」

「それで、お願いがあるんだ」

「何じゃ?」

「これからも、菫の相手をしてやってくれないか?」

「面倒臭い」

「頼むよ」

「わかった。気が向いたらな」

「ありがとう」

「しかし…」

「どうした?」

「瞬達がこの調子でレベルアップするなら、私はいずれ不要になるな」

「どういうことだ?」

「私は、これ以上成長しない」

「充分、強いじゃないか」

「それでも、遅かれ早かれ、お前達は私を追い越す」

「その時は」

「その時は?」

「僕が桜を守るよ」

「?」

「だから、皆とずっと一緒に暮らそう」

「……」

「痛っ」



 瞬は桜に腕をかじられた。

 桜の目に浮かんだ涙には、瞬は気が付かなかった。







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