第17話  狩り、2人!

「瞬、遅いぞ!」


 桜の動きは速い。

 ついていくのに必死だ。


「桜が速すぎるんだよ」

「私はまだ本気を出していないぞ」

「マジかよ」

「本当だ」

「こんなに木や草があって、道も無いのに」


 桜の動きは軽やかだ。


「瞬、猪がいるぞ」

「ゾンビ化してないか?」

「大丈夫だ。見ればスグにわかる」

「よし、任せろ」

「遅い!私の方が速いぞ」

「お前、武器も無いのに、やめろ」

「まあ、見ていろ」


 桜は猪の前に躍り出た。

 右手で猪の首のあたりを薙ぎ払う。

 猪は首から血を吹き出しながら吹き飛んだ。


 スゴイ! 


「どうやって倒したんだ?」

「今のは爪だ」

「爪!?」

「そうだ。獣ごときに剣は要らん」

「すげえな」

「私は並のゾンビじゃないからな」

「俺も並のゾンビよりは強いんだけどな」

「瞬か…。瞬の動きは、まだまだだな」

「まだまだか…」


 ちょっと、恥ずかしかった。

 そして悔しかった。

 だが、桜のあどけない顔を見ていたら、そんなことはどうでもよくなった。


「私は剣も使える。槍も使えるんだ」

「どこにあるんだ?」

「普段は消えている。私が呼び出せば現れる武器なんだ」

「なんだよ、その便利な武器は?」

「一応、宝刀と呼ばれる刀らしい」

「そんな立派な刀をどうやって手に入れたんだ?」

「神祖様からいただいた」

「神祖?」

「そうだ。私達はそう呼んでいる」

「誰だ?」

「始まりの御方だ」

「始まり? そいつから全てが始まったのか?」

「そうだ」

「その話、詳しく聞かせてくれ」

「瞬、無粋だぞ。今は狩りを楽しもう」

「そうか、そうだな」

「今日は勝負だ」

「勝負?」

「私と瞬、どちらが多く狩れるかだ」

「わかった」

「では、行くぞ」

「待て待て!」

「どうした?」

「この猪は誰が持ち運ぶんだ?」

「瞬は、女の子に荷物を持たせるのか?」

「こんなの背負ってたら狩りで勝てないじゃないか?」

「女の子に荷物を持たせるのか?」

「……わかった」


 その後も桜は絶好調だった。

 鹿を倒し、ウサギを獲った。


「瞬!」

「なんだ?」

「楽しいな」

「狩りが楽しい?」

「そうだ。私はこんなに楽しいのは随分久しぶりだ」

「そうか。それは良かった」

「瞬は楽しくないのか?」

「狩りは生活のためだ。楽しいと思ったことは無かった」

「今はどうだ?」

「今は…。そうだな、今は楽しい」


 瞬は、初めて狩りを楽しいと思った。

 結局、瞬は荷物持ちで終わった。

 大猟だった。


「桜、そろそろ帰ろう」

「もう帰るのか?私はまだ遊び足りないぞ」

「これ以上、持てないよ」

「そうか……」


 桜はガッカリしたようだった。


「また、明日も狩りに来れば良いじゃないか」

「そうだな。明日があるんだな」

「明日は釣りをしてもいいぞ。何匹とれるか勝負だ」

「わかった、明日が楽しみだ」


 桜が笑った。

 その姿は、ただただ美しかった。

 食事時。



「やっぱり信用出来へん」


 クラマが言った。


「何がですか?」 


 瞬が言った。


「ゾンビと一緒に旅をするのは危険やっていうてんねん」

「桜なら、僕が責任を持って面倒を見ます」

「どう責任をとるねん?何かあった時に責任をとれるのか?」

「クラマ、その話は終わったはずよ」

「姫……」

「味方でいてくれた方が心強いと私は思います」

「…姫がそういうなら」

「ところで、今日のご飯は誰が?」

「私と菫で用意しました」

「どう?お兄ちゃん」

「うん。美味しいよ」

「山菜も沢山採ったんだよ」

「そうか、偉いな、菫は」

「そうよ。私だって料理くらい出来るんだから」

「そうだったな」

「食材は俺達がとってくる。菫は料理を頑張ってくれ」

「言われなくてもわかっているわよ」

「おお、人間の食べ物も美味いのう」

「普段、何を食ってるんだ?」

「人を食っているが…元々が死人だから食べなくても生きてはいけるんだ」

「じゃあ…最近は?」

「そう言えば、しばらく何も食べていなかったな」

「それなら、より一層美味しいだろう?」

「ああ、美味い!」



 料理の名人はポックルだったのだが、

 誰もポックルのことには触れなかった。







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