第16話  桜、マイペース!

「お風呂、上がったよ」


 菫に声をかけられた。


「お兄ちゃんが最後だよ」

「そうか、じゃあ、僕も入ろうかな」

「お兄ちゃん」

「なんだ?」

「良かったね」

「何が?」

「お風呂。だって、お兄ちゃん臭かったもんね」

「そんなに臭いか?」

「うん、かなり」

「行ってくる」


「待っておったぞ」 


 桜がいた。湯上がりの身体に姫の昔の服をまとっていた。かわいい度合いが増していた。だが、10年前に14~16歳なら、今頃は24~26歳。姫よりも、この一行の中の誰よりも年長なのだ。


「あれ?湯船にお湯が無いぞ」

「今、溜める」


 桜の魔法で浴槽が湯に満ちた。


「じゃあ、入らせてもらうよ」

「さあ、入れ、入れ」

「……」

「どうした? 入れ」

「俺、パンツ脱いだら裸なんだけど」

「そんなことは、わかっておる」

「じゃあ、外へ行ってくれるかな?」

「何故じゃ?」

「僕、全裸になるんだけど」

「そうじゃ」

「桜はどうするんだ?」

「特別に背中を流してやる」

「へ?」

「背中を流してやると言っている」

「いらないから。なんで、俺だけ」

「瞬のことをもっと知りたいからじゃ」

「時間をかけてゆっくりわかりあおう」

「瞬が喜ぶことをしてあげたいのだ」

「喜ばないよ、恥ずかしいよ」

「文句を言うとお湯を取り上げるぞ」

「それじゃあ、俺が風呂に入れない」

「選べ」


 仕方がない。僕は風呂に入る方を選んだ。

 勿論、桜の背中流し付きだ。

 タオルで一生懸命隠す。

 桜がタオルを取り上げた。


「な、何するんだよ」

「全身を洗ってあげるのじゃ」

「えええ!?」


 瞬は桜の積極性に根負けした。


「へー!お兄ちゃん、桜に身体を洗ってもらったんだ」


 風呂場を出たら、菫が立っていた。


「しょうがないだろう、断ったら風呂抜きだぜ」

「なーんて、結構喜んでるんじゃないの?」

「喜ぶもんか」

「キャイキャイ声が聞こえていたわよ」

「桜を振り払うのに大変だったんだ」

「ふーん、桜には全部見せたんだ」

「見せたんじゃない、見られたんだ」

「ふーん、そうかしら」

「そうだよ。なんとしても風呂に入りたかっただけだ」

「お兄ちゃん、桜のこと気に入ってるんじゃないの?」

「嫌いじゃないが、特別な感情は無いぞ」

「ロリコン」

「ロリコンって言うな!」

「お兄ちゃんがロリコンなんて、本当に最低」

「待てよ、菫」

「待たない。ロリコンがうつる」

「菫!」

「お兄ちゃんなんか大嫌い」


 そこへ桜が顔を出した。


「兄妹喧嘩か?」

「そうだよ」

「理由は?」

「お前だ-!」


 思い切り指さしてやった。


「何故じゃ?私は何か悪いことをしたか?」

「俺の全身を洗っただろう?」

「洗った」

「それで、菫が僕のことをロリコンだから気持ち悪いって…」

「瞬はロリコンなのか?」

「そんな自覚は無い」

「そうかー! 菫ちゃんは血のつながりが無いって言ってたもんなぁ」

「そう言えば話したな」

「聞いたぞ」

「俺の妹なら大丈夫だろうって、桜が菫を噛もうとしたから話したんだ」

「そーか、菫か……。これは、これから楽しめそうじゃ」

「なんか悪いこと考えているだろう?」

「いや、考えていない。ただ、楽しいことや面白いことは多いほどいいからな」

「もう、いい。今日は寝る」

「明日は何をするのじゃ?」

「森に入って食料を探す」

「狙いは獣か?」

「ああ、ゾンビ化していない獣を獲ってくるんだ」

「面白そうだな、私も行く」

「留守番してろよ」

「留守番は退屈なのじゃ」

「森の中は危険なんだぞ。毒蛇とかもいるんだ」

「ゾンビに毒は効かんぞ」

「あ、そうですか」

「ということで、私は瞬と狩りに行くぞ」

「はい、はい、お休みなさい」



 朝になった。

 森の中の狩猟に、桜が同行することが許された。

 てっきり、姫は許可しないと思っていたので意外だった。


「今日はいつもの2倍獲って来いよ」


「まあ、桜はぼちぼちやってくれ」

「私は森の入口で植物採集です」


 菫の口調はまだ冷たい。

 僕と桜は森の奥へ入った。

 その時、瞬は思い出した。


 ゲームでは、レベルが高くなると技や魔法を1つずつ使えるようになってくる。

 もしかしたら、この世界でもゲームのようにレベルアップ出来るかもしれない。

 帰ったら、菫に話してみよう。







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