第15話  ゾンビ、同行する!

「瞬」

「はい」

「なんやねん、そのゾンビは?」

「いやー、いろいろありまして」


 僕が桜を皆の所に連れて戻ると、予期していたとおり皆から質問攻めにされた。

 桜はまだ僕の腕をガジガジかじっていた。


「お兄ちゃん、誰、それ?」

「慌てるな、私はお前達の敵ではない」

「そうなんです。姫、皆さん、しばらく同行を許してくださいませんか?」

「おい、瞬、ふざけんなや。俺達全員、寝首をかかれるやないか!」

「それが、桜がいた方が都合が良いんです」

「どう、都合がいいんや?」

「桜を同行させたら、ゾンビ達に僕等を襲わないようにしてくれるんです」

「なんで、そんなことが出来るねん?」

「私がエリア長だからじゃ。ここら辺のゾンビは、皆、私の言うことを聞く」

「信じられへんなぁ」

「でも、人の言葉がわかる時点で、桜は他のゾンビとは違いますよ」

「確かに変わってるけどな。ところで、桜って何やねん?」

「彼女の名前です」

「そうか、べつに興味は無いけどな」

「じゃあ、どうするんですか?」

「ゾンビはゾンビだ、殺す!」


 ジンの矛が振り下ろされた。桜は左手1本で止めた。


「やめろ。私と戦ったら、全滅するぞ」

「桜さん、どうして私達に同行したいのですか?」


 姫が言った。


「瞬が珍しいから興味があるのじゃ」

「あなたは、このエリアのゾンビの長なのですね」

「そうじゃ」

「では、ここら辺のゾンビはあなたの言うことを聞くのですね」

「そうじゃ。お前達を襲わないように指示を出せる」

「他のゾンビを操れるっていう証拠を見せてくれんと信じられへんわ」

「それはそうだな、見せよう」

「桜、どうするんだ?」

「まずゾンビ達を呼び出す」

「え!?」

「マジかよ!」

「心配するな。ゾンビ達に、ここに集結するように指示を送るぞ」


 しばしの静寂、ゾンビの群れが姿を現した。


「もう、ええわ」

「どこまでひきつけるんだ?」

「この馬車の近くまで」

「やっぱり俺達、全滅するじゃねーか!」

「大丈夫、お前達は殺してはいけないと命令している」


 僕達はゾンビ達に取り囲まれた。

 手を伸ばせば、届く距離だ。

 思わず、息をひそめる。


 だが、誰も襲われない。


「もう、私の力がわかったか?」

「桜、充分わかったから、ゾンビ達を退けてくれ」

「うむ、わかった」


 来たときと同様、ゾンビ達はゆっくり去って行った。

 ゾンビが見えなくなって、僕達はその場に足から崩れ落ちた。

 ゾンビに囲まれるなんて、寿命が縮む。


「と、いうことで、そちらに損は無いであろう?同行するぞ」

「って、言いながら瞬の腕をかじってるんだけど」

「心配するな、瞬以外はかじらん」

「わかりました。私達と同行してください」


 姫が結論を出した。


「姫がそう言うなら…」

「従いまんがな」

「仕方あるまい」


 ジンも喋った。


 そこで、桜は自分と姫を見比べて言った。


「友好の印に、綺麗な服がほしいのじゃ。女性らしいのがいいな」

「私のお古しか無いですよ」

「それで構わん、今より綺麗になれれば良いのじゃ」

「では、馬車の中へどうぞ」


 少しして、馬車から着飾った美少女が降りて来た。


「どうかしら?」

「完璧じゃ!礼を申す」


 着替えた桜は、更に美しかった。


「御礼に、皆、教会に来い。風呂に入れてやる」

「風呂!?」

「マジかよ!?ごっつ嬉しいやんけ」

「教会の風呂を使えば良い。水を張ったり、湧かすのは私の魔法でなんとかなる」

「水と火を扱えるのですか?」

「そうじゃ武器にも守りにも使える。だが、そんな驚異的な敵なんかいないから、風呂を沸かすくらいにしか術を使っていない」


 一同は、風呂に喜んだ。

 そんな中で、


「今度という今度こそ、お兄ちゃんなんて、もう知らないからね」

「何か気に入らないことをしたか?」

「どうせ、あの娘がかわいいから、処分できずに連れて帰ったんでしょう?スケベ」

「違う、話せるゾンビは貴重だ。我々を襲わないようにしてくれるなら、こんな良い話はないじゃないか」

「後で、何か起こっても知らないわよ」

「菫も風呂は入るだろう?」

「入るわよ。当然!」

「だったら、今日の所は、それで許してくれ」



 菫は、まだ何か言いたそうだった。







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