第14話  教会の美少女!

 僕達は夜通し馬車を歩ませた。

 敵の動きを見通せる場所。

 森から離れず、水源から離れず。

 何より、ゾンビが近くにいない場所。


 歩いていると、街外れまで来た。

 街があったのだ。

 正確には、街だった所。

 そこに、教会があった。

 街は静かだ。人気は無い。


「止まろうや」


 馭者をやっているクラマの一言で皆が立ち止まった。


「瞬、水源を見つけてくれ」

「はい」


 もう明け方だ。明るくなってきている。

 僕は森の中に入った。

 毒蛇などには用心しつつ、奥へ。

 幸い、スグに泉が見つかった。

 僕は皆 の所へ戻った。


「奥に泉がありました」

「さよか?それは良かった、ご苦労さん」

「あの協会を拠点にしますか?」

「そうしたいねんけどなぁ」

「何か不都合がありますか?」

「何か嫌な予感がするねん」

「嫌な予感?」

「これでも俺は歴戦の猛者や。勘というものがあるねん」

「ゾンビがいると?」

「それがわからへんねん」

「僕が様子を見てきます」

「いや、今、人数を分けるのは危険や」

「偵察は、僕1人でいいですよ」

「1人?正気か?」

「正気ですよ」

「ははーん、ポックルが死んだことを気にしているな?」

「え?」

「自分のミスでポックルが死んだから、償いたいと思ってるやろ?」

「…そうかもしれません」

「やめとけ、やめとけ、1人で背負い込むな」

「いえ、今回は行かせてください」

「お兄ちゃん、冷静になってよ」

「菫、行ってくるよ。大丈夫だ」

「じゃあ、仕方ないから私もついていってあげる」

「菫、ダメだ!」

「もう、どうなっても知らないからね」  

「では、姫、行ってきます」

「少しでも危険を察知したらスグに戻ると約束してください」

「わかりました」

「わかった。ほな、気を付けて行ってこいや」

「行ってきます」


 僕は教会へ向かった。

 そして、教会の前まで来た。

 僕は、安堵した。


“なんだ、何もいないじゃないか”


 僕は、ゆっくりと教会の扉を開けた。


 綺麗な絵を見ているようだった。

 極めて色白の、美少女が立っていた。

 歳は14~15歳だろうか? 16歳かもしれない。菫よりも少しだけ年下だろう。こんな所に、何故、子供が1人いるのだろうか?


 窓から射す朝日を浴びて、輝いているかのようだった。

 美しすぎて、どう反応していいのかわからない。僕は、桜の花を見ているような気分になった。その美少女は、美しい桜のようだった。美しく咲き誇り、そして、散る前の儚さも感じる。


 見とれる。僕にとって、それは初めての経験だった。

 美しすぎる者を見ると動けなくなることを初めて知った。


 だが、少女は僕にスッと素早く近寄って、噛んだ。

 噛まれたのは僕の腕だった。

 僕は彼女の鋭い犬歯に気づいた。

 その時になって、彼女が着ている服が古くてボロボロなことに気付いた。


 彼女は、ゾンビだった。


 それでも僕はボーッとして、噛まれるままになっていた。


「…何故じゃ?」

「え?」

「何故、お前はゾンビにならんのじゃ?」

「なんだって?」

「お前は何者じゃ?」

「お前、人間の言葉がわかるのか!?」

「わかる。それがどうかしたか?」

「他のゾンビは言葉も失いさ迷うだけなのに」

「それは下っ端のゾンビじゃ」

「下っ端?ゾンビに上下関係があるのか?」

「知らんのか?ブロックというか…エリア毎に長がいる」

「では、お前は?」

「強いて言えばエリア長だ」

「凄いな、そんなに幼くて、そんなに綺麗で、ボス級なのかよ」

「幼いと言うな。ゾンビになってから歳をとらなくなっただけじゃ。実年齢はお前よりも上のはずじゃ」

「年上かよ!?」

「驚くのはこっちじゃ。何故、噛まれてもゾンビにならない?」

「俺の体内には、ゾンビウイルスの抗体があるんだよ」

「なんと!?そんな人間がいるのか?」

「この世界にはいないのかもな」

「というと? 異世界人か!?」

「ああ、僕は異世界人だ」

「それは興味深いな」

「話せるゾンビの方が興味深いよ」

「お前、1人か?」

「いや、何人か仲間がいる」

「そうか?どんな奴等だ?」

「どんなって…異世界に放り込まれた俺と妹を拾ってくれた人達だ」

「なんじゃ、ただの生き残りか?」

「生き残り?」

「単に、まだゾンビになっていないだけの奴等なんじゃろう?」

「まあ、そうだけど…何か引っかかる言い方だな」

「放っておいても、その内、全員ゾンビになるからな」

「決定事項かよ」

「決定事項じゃ」

「でも、ゾンビの部隊長がいるんじゃあ、ここは去らないといけないな」

「何故じゃ?ここでしばらく休めば良い」

「仲閒を襲うだろ?」

「襲わない」

「何故、襲わないと言える?」

「お前に興味があるからじゃ」

「興味?」

「ああ、しばらく観察したい」

「仲閒を襲わないと約束できるのか?」

「できる!それだけではなく、他のゾンビ達にお前達を襲わないように指示してやる」

「そんなことが出来るのか?」

「私に与えられた権限の1つじゃ」

「それなら、同行できるな」

「そうじゃろ、そうじゃろ、ゾンビに襲われずにすむというのは魅力的なはずじゃ」

「だが、仲閒が納得するだろうか?」

「納得させるのは、お前の仕事だ」

「わかった、仲閒と話し合おう」

「あ、それから」

「なんだ?」

「私のことをお前と呼ぶな。私は桜じゃ」

「桜? 和風な名前だな」

「和風?」

「いや、わからないならいい」

「じゃあ、早く私を仲閒の所へ連れて行け」

「俺は瞬だ」

「瞬? 瞬、瞬……良い名前じゃな」

「ありがとう」

「さあ、行くぞ」


 桜は僕の手をギュッと握った。







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