第13話  戦闘、失ったもの!

 僕は攻撃を続ける。“攻めこそ最大の防御”だ!

 目の前のゾンビの頭を大剣で潰す。

 剣を横に薙ぎ払う。

 ゾンビの首が飛ぶ。


 残酷なシーンだが、心が恐怖と緊張で麻痺しているので何も感じない。


「瞬、それ以上前に出るな!全体を見ろ」

「はい!」


 つい、どんどん斬り込んで行こうとしてしまう。

 だが、それでは陣形が崩れてしまうことはわかる。

 チーム戦は初めてだ。

 つい、自分勝手に戦おうとしてしまう。ゲームの中の僕の動きだ。


 正直、じれったい。

 他のメンバーは落ち着いていて、来る者だけを斃している。

 時々、後ろから光が射す。

 菫が僕の背中を守ってくれている。

 僕は菫の援護があるので安心はしていたが、油断は出来なかった。


 皆と合わせて戦うことが難しい。


「瞬、前に出すぎやっちゅうねん」

「すみません!」


 ゾンビの数が多い。

 精神的に疲れてくる。


「あ!」

「クラマさん、どうかしましたか?」

「今、噛まれてしもうた」

「大丈夫ですか?」

「わからん。朝飲んだ瞬の血が効くかもしれん」

「きっと、大丈夫ですよ」

「気休めを言うな。俺がゾンビになったら、スグに殺してくれ」

「はい!」


 僕は戦い続けた。


「クラマさん?」

「なんや?」

「大丈夫じゃないですか?」

「ホンマや、ゾンビになってない」

「良かったですね」

「死ぬ覚悟をしていたんやけどな」

「お役に立てて嬉しいです」


 僕達は黙々と戦い続ける。


「瞬!」

「あ!」


 前に出すぎた。

 脇を何体ものゾンビにすり抜けられた。


 ー まずい! ー


「うわー!」

「ポックル!」


 馭者のポックルがゾンビに囲まれた。


「うわー!嫌だ-!」


 ポックルは何体ものゾンビに襲われた。


「菫!」

「わかってる」 


 菫の魔法で、ポックルに覆い被さっているゾンビ達は吹き飛ばされた。

 ポックルが倒れていた。


「ポックル!菫、少しの間、ここを任せる」

「え!?早く戻ってきてよ」


 僕はポックルに近寄った。

 ポックルはほぼ全身を噛まれていた。


「え!?」


 ポックルはゾンビ化した。


「なんで?俺の血を飲んでいるのに」

「ゾンビウイルスの量の問題だと思います」


 姫が言った。


「どけ」


 僕はジンに押しのけられた。

 ジンは無言でポックルの頭を矛で潰した。 


「ジンさん!?」

「ゾンビになってしまったら、もう人間には戻れない」

「ですけど」

「瞬、今は戦闘に集中しろや!」

「お兄ちゃん、私1人じゃ支えきれないわよ」

「わかった」


 僕は自分の持ち場に戻った。

 戦闘は、かなり長い間続いた。


「アカン、体力がもてへん。姫!」

「わかったわ」


 姫がクラマに回復魔法を施す。


「よっしゃ、体力が戻った。ありがとう、姫」

「苦しいでしょうが、頑張ってください。みなさんにも回復魔法を施しますね」

「姫、頼む!」

「姫、お願いします」

「姫、私も!」


 どんなに長く続いても、必ず終わりは訪れる。永遠なんか無い。

 僕達は勝った。

 僕達の前には、無数のゾンビの屍(元々死んでいるが)の山があった。


 菫は脱力して座り込んだ。

 僕も膝をついた。


「そうだ、ポックルは?」


 僕はポックルの亡骸に近寄った。


 他のメンバーも集まる。


「俺は、瞬の血のおかげで助かったんやけどな」

「クラマはゾンビウイルスの量が少なかったからだと思います」

「俺が陣形を乱したせいで…」


 僕の目に涙がにじんだ。  


「瞬、泣いてる場合やないで」

「でも、俺のせいで…」

「もう、気にすんな」

「……はい」

「ポックルの亡骸を埋めようや」

「それから、移動だな。ここは、もう危険だ」

「ジンの言うとおり。移動や」


 僕達はポックルの遺体を土に埋め、馬車を進めた。

 森に沿って移動した。


「なるべく川か泉の側がいい。水源は重要や」

「森が近ければ食料も獲りやすいからな、森の近くがいい」

「森と水源のあるところですね」

「そうや、瞬。こうやって俺達はこの世界を生き抜いて来たんやで」



 その夜、僕達は眠らずに移動した。







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