第12話  不穏な空気。

 その日の朝食は焼き魚と野菜サラダだった。

 それから、皆は僕の血を少し飲む。

 その日は、朝からゾンビが遠くにチラホラと姿を見せた。


「おい、またゾンビやで」

「ああ、まだ遠いけどな」

「あ、引き返したわ」

「見えなくなったな」

「今日はゾンビをよく見かけるわね」

「こちらを眺めて、去って行くで」

「今日だけで、何体見ただろうか」

「10体以上やな」

「そろそろ移動した方がいいかもしれませんよ、姫」

「また逃亡ですね。ああ、逃亡生活に疲れてきました」

「この場所を離れたくないんやけどな」

「そうだな。植物も魚も獣も獲れる」

「何より、見晴らしが良いから陣取るのに適しているからな」 

「姫、動きますか? どないします?」

「囲まれる前に、移動した方が良いのかもしれませんね」

「いや、まだ囲まれてるとは限らへん。ギリギリまで粘りましょうや」

「姫、どうします?」

「もう少し、様子を見ましょうか」

「せやせや、ゾンビが現れるのも偶然かもしれへんし」

「瞬」

「なんですか?姫」

「今日は狩りに行くのを控えてください」

「どうしてですか?」

「移動するかもしれないからです。移動したら、はぐれてしまいます」

「わかりました」

「菫さん」

「はい」

「戦闘になるかもしれません。心の準備をしておいてください」

「はい」

「瞬、菫さん、あなた達と一緒に戦うのは初めてね」

「まだ、戦闘になるとは限らへんで」

「…まあ、様子を見よう」


 ジンが珍しく口を開いた。


「アカン、来るわぁ」

「ゾンビ達がこちらに向かってくる」

「かなりの数やで」

「戦って勝てなくもないが、戦わずにすむなら戦わない方が良い」

「しょうがない。皆、馬車へ」


 手綱はポックルに任せられた。


「ゆっくり、確実に前進や」

「あまり音をたてるなよ。ゾンビ達を刺激する」

 ゆっくり、馬車が進む。右手には森。


「アカン」

「どうした?クラマ」

「前にもおるわ」

「前だと!?」

「向きを変えましょう。左へ進みましょう」


 馬車は左へ。森が離れて行く。

 

「クラマさんは、目が良いのですか?」


 僕が聞いた。


「ああ、このメンバーの中では1番良いねん」

「この状況では、貴重な能力ですね」

「まあな。自分では千里眼と言うてる。この目のおかげで何度も助かったわ」

「僕には見えませんけど」

「大丈夫や、遠くを見るのは俺に任せとったらええねん」


 馬車は2方向にしか進めない。


「ああ、アカンわ」

「どうした、クラマ?」

「こっちにもゾンビ達がいてるわ」

「…戦うしかないな」


 ジンが言った。

 馬車が停まり、ポックルと姫以外は馬車から飛び降りる。


「ちょっと…数が多すぎるんじゃないですか?」


 僕が言った。


「結局、3方向を取り囲まれたからな」


 クラマが長剣を抜いた。

 デクが戦斧を1本ずつ。2刀流だ。

 ジンは矛。

 僕も大剣を抜いた。

 菫は僕の後方に控える。

 馬車を囲む。


「逃げ場は無いで。5人で、自分自身と馬車を守るんや」

「かなり近付いてきましたよ」  

「まだだ、引きつけろ」


 僕は汗を掻いていた。

 緊張する。

 菫と2人で闘った時と同じくらい緊張している。


 チーム戦は初めてだ。

 僕はチーム戦でも無敵の活躍が出来るのだろうか?

 チーム戦で、馬車を守れるのだろうか?

 足を引っ張ってしまったらどうしよう?怖い。


 ゾンビの大群は3方向から、ゆっくり、だが確実に近付いてくる。


「まだですか!?」

「まだや、瞬、慌てるな!」


 短い時間を、やたら長く感じる。


「瞬!」

「はい!」

「今や-!」

「はい!」


 僕はゾンビの群れに接近する。


「菫、魔法で援護を頼む」

「うるさいわね、わかってるわよ」


 菫の機嫌が悪い。

 多分、菫も緊張しているのだろう。


 ゲームの感覚を思い出せ!

 僕は1人目の首をはねた。

 スグに左右のゾンビにも対応する。

 やはり僕は、この世界では超1流の戦士だ。


 僕の後ろから白光。菫の魔法だ。

 菫は手をかざすと、ゾンビ達をまとめて吹き飛ばすことが出来る。


 だが、勿論、僕は吹き飛ばされない。



 さあ、いよいよ戦闘が始まった。







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