第10話  毎朝、瞬の血を!

 次の日から、皆が毎朝ゾンビウイルス予防に瞬の血を飲むようになった。

 

 菫は、


「お兄ちゃんの血なんて飲みたくない」


 と言って、なかなか飲もうとしなかった。


「そう言わず、飲んでくれよ」

「嫌! 嫌なモノは嫌」

「僕は菫が心配なんだ。頼む、飲んでくれ」

「……仕方ないわね、そんなに言うなら飲んであげるわよ。ありがたく思いなさいよ」


 と、長い時間をかけて説得して、菫はようやく飲んでくれた。


「では、言ってきます」

「瞬、ゾンビ化した動物をお願いしますね」

「わかっています。まだまだ実験が必要ですからね」


 僕は森の奥へ入って行った。

 奥へ。奥へ。


 森の中を歩くのにも慣れてきた。

 僕は蛇が苦手だった。

 蛇を見つけたら、大小に関わらず逃げる。


 蛇から逃げていたら、僕は猿を見つけた。

 大きくはない。

 捕まえてみた。ゾンビ化していた。

 暴れる猿を、僕は縄でグルグル巻きにした。


 獲物、1体ゲット。


 猿を背負って森の中を進むと、また猪を見つけた。

 様子を見る。

 今度はゾンビ化していた。

 僕は猪に突進した。

 猪もこっちに向かってくる。

 僕は峰打ちで猪の頭を殴った。

 猪がひっくり返った。

 僕は猪も縄でぐるぐる巻きにした。

 僕は猪と猿をひきずるようにして帰った。


「瞬、お疲れ様です」

「どうも」

「猪と猿か?さて、どうなるんやろな」

「皆さんは離れていてください」

「瞬、頼むぜ」

「はい。まず、猿からいきます」


 僕は指先を切って、子猿に血液を飲ませた。

 しばらく待つ。

 猿は正常な状態に戻った。


「おお、戻ったやんけ」

「次、猪いきます」

「猪のゾンビ化を治せたらええんやけどな。猪は肉の量が多いからな」


 今度は猪に血液を飲ませる。

 しばらく待つ。

 変化は無い。


 更に待つ。

 変化は無い。


「姫」

「そうですね。これ以上見守っても時間の無駄ですね」


 僕は剣で猪の頭部を破壊した。


「とにかく猿には有効でしたね。この結果、どう判断します?判断材料が足りなければ、またゾンビ化した獲物をとってきますけど」

「小さい動物の方が効き目があるんやろか?」

「そうですね。大きい動物には効かないのかもしれませんね」

「じゃあ、ポックルは何故助かったのでしょう?」

「対処が早かったからではないですか?」

「ややこしいなぁ。噛まれてスグなら助かるんかいな? ほな、時間の勝負なんか? 処置が早ければ助かるとか……」

「とりあえず、この猿は食えるな」

「ええ、いただきましょう」

「魚もまだまだありますよ」

「本当に、食は大幅に改善されたな」

「瞬達のおかげです」

「私は何もしてないわよ」


 菫が言った。少し拗ねていた。


「いいえ、あなた達兄妹は2人で1つ。あなたがいるから、瞬は頑張ってくれるのよ」

「……」


 菫は、少しだけ顔を赤らめて黙った。

 僕は、何か話そうとして、言葉にするのをやめた。


「瞬、まだしばらくの間、実験に協力して頂けないかしら」

「構いませんよ。猪と猿以外ですね」

「ええ。私達は瞬の血について、もっと知らなければいけません」

「今度はウサギとか鹿ですかねぇ」

「虎とか狼でもいいぞ。牛や豚も歓迎や」

「牛や豚なんて、何年も食べていないからな」

「わかりました。頑張ります」

「ライオンでもいいぞ。いれば、だけど」

「わかりました。片っ端から生け捕りにしてきます」

「もう少し奥へ行くと川があってなぁ」

「川に何が?」

「ワニがいるねん」

「ワニを仕留めるのは大変そうですね」

「まあ、無理せん程度に頑張ってくれや。でも、お前の活躍に、俺達の食事の内容がかかってるんや。頼むで。美味いもん食わせてくれよ」


「はい」


「菫、寝ようか?」

「…うん」


 僕達は座って、大きな木にもたれかかって寝る。

 毛布はもらっている。


「お兄ちゃん…」

「うん?何?」

「すっかりヒーロー気取りね」

「そんなつもりは無いんだけどな」

「その内、失敗するわよ」

「そうかもしれないな」

「それじゃ困るのよ。もし、お兄ちゃんがいなくなったら私はどうなるの?」

「菫を独りにはしない」

「約束よ」

「ああ、約束だ」

「約束を破ったら、一生口きかないからね」

「ああ、わかった。菫と話せなくなったら困るから、気を付ける」

「お兄ちゃんは、私だけのヒーローでいいんだからね」

「え?」

「ううん、なんでもない」



 僕等は眠った。







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