第9話  瞬の血、実験結果!

 リスに僕の血を飲ませると、みるみる正常化していった。

 ゾンビ化が治まり、ごく普通のリスになった。


「これは…」

「スゲェ!」

「魔法みたいだ」

「これ、人間にも効くんとちゃうか?」

「おそらく、それは無理ね」


 盛り上がっていたところで姫が冷静に言った。


「どうしてですかい?」

「ここに来る前に瞬は何人ものゾンビに噛まれてきたわ。当然、瞬の血をすすっているはず」

「なるほど。僕を噛んで血をすすっても人間に戻れなかったということですね」

「そういうことです」

「でも、実験したいなぁ」


 そこへ、本当に、非常にタイミング良くはぐれゾンビが現れた。


「こいつで実験したらええねん」

「瞬、縛ってこい」

「お兄ちゃん、危ないよ」

「大丈夫だ。心配するな」

「だから、誰も心配してないって」


 菫はそっぽを向いた。


「みんな、一度噛まれたらアウトなんだ。僕が適役なんだよ」

「…好きにすれば」


 僕はロープを持って、はぐれゾンビにゆっくりと近付いた。

 極力、音をたてないようにした。

 至近距離に入って、僕は一気にゾンビを縄で縛った。

 失敗したときのために、ジンが矛を持って立っている。


 結果的に、ジンの助力は必要無かった。

 僕1人で、はぐれゾンビを縛り上げた。

 皆の所へ引きずっていく。


「皆さん、離れていてください」


 僕は、また指先を切った。

 滴る血をゾンビに飲ませた。

 様子を見る。


 結局、晩になってもゾンビはゾンビのままだった。


「やはり、姫の仮説が正しいようですね」

「人間のゾンビには効かないみたいね」

「畜生、期待したのにな-!」


 クラマが悔しそうに言った。


「明日も実験しましょう」

「どんな実験ですか?」

「猪とか鹿など、大きな動物に解毒剤が通用するか」

「なるほど。どこまで有効か?確認するんですね」

「でも人間に効かへんとは…。ガッカリしたけどまあええわ。今日は魚が食べれた分、幸せや」

「魚は全て通常の状態に戻っていましたから」


 と、ポックル。


「でも、ちょっと怖いなぁ」

「大丈夫です。念のため、全ての魚に瞬さんの血を飲ませています」

「魚なんて、何年ぶりだろう」

「魚って、こんなに美味かったんだな」

「瞬に感謝ですよ」

「サンキュー、瞬」

「おおきに」

「…ありがとう」

「魚は沢山あります。簡単に釣れたので」


 楽しい夕食だった。


「ところで、瞬と菫は何歳なんや?」

「僕が18,菫は17です」

「なんや、菫はいき遅れかいな」

「いき遅れってどういうことよ!」

「菫さん、そちらの世界ではどうか知りませんが、この世界では13歳で成人なんです。大体、女性は14~15歳で結婚します。勿論、この世界がゾンビの世界になる前の話ですけど。この10年、ゾンビの世界では生き抜くことに必死で、結婚なんて考える余裕もなかったですけどね」

「皆さんはお幾つなんですか?」

「俺とジンは21や。デクは22。ポックルは15歳や。俺達も、ほんまやったらとっくに結婚してる歳や。ゾンビのせいで、俺達も結婚できてへん」

「姫は?」

「ふふふ、内緒です。女性に年齢を聞いてはいけませんよ」

「失礼しました」


 多分、姫は20歳くらいだろう。


 その時!

 縛っていたゾンビが縄を千切って立ち上がった。


「おい!」

「戦闘準備」

「逃げろ!ポックル」

「うわあああああああ」


 ポックルが悲鳴をあげた。怖くて動けないようだ。

 ポックルはゾンビに噛みつかれた。


 スグにジンの矛がゾンビの脳天を打ち砕き倒した。


「うわああああああ!僕、噛まれたあああ!」


 うろたえるポックル。

 僕は指先を深めに切って、ポックルの口の中に指をねじ込んだ。


 どれくらい時間が経ったのかわからない。

 どれくらいポックルに血を飲ませたかわからない。

 いつまでもポックルはゾンビ化しない。


「良かった。もう大丈夫ね」

「姫、僕は?」


 ポックルの声は震えている。


「これだけ時間が経ってもゾンビ化しないのですから、もう大丈夫ですよ」

「よ、よ、良かったああああ」


 ポックルはその場に座り込んだ。


「また面白い実験結果ね。噛まれてスグに瞬の血を飲んだらゾンビ化しない」

「これから、予防薬として瞬の血を飲んでから戦闘するというのはどうだ?」

「それ、ええやんか-! 俺達もゾンビに噛まれても怖くないで」

「…できるか?」

「俺は構いませんよ」   

「お兄ちゃんの馬鹿!そんなに血をあげちゃったら貧血で倒れるわよ」

「菫さん、大丈夫です。私の回復魔法がありますから…」

「……」


 菫は姫には逆らわない。


「じゃあ、明日、ゾンビ化した猪とか鹿とか猿とかを捕まえてきます」

「あんまり調子に乗っていると痛い目にあうわよ」

「この世界で生き抜くには、全力で挑まないといけないんだと思う」

「確かに、生きていくのが厳しい世界だけど…」

「出し惜しみをしている場合じゃない。全力で生き抜くんだ」

「まあ、いいわ。気を付けてね」

「それに、俺は菫を守らなければならない!」


 菫は何かを言いかけて…言葉にするのをやめた。







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