第8話  瞬の血、実験!

 僕は毎日狩りに出かけた。

 森の奥には獲物が沢山いた。

 或る日、僕は1匹の鹿を獲った。

 

 だが、時間が早かったので、もう1匹何か獲りたくて森の中を歩いた。

 そうしていると、急な坂道で躓いた。僕は転んだ。

 坂道を転がったら、右足を怪我してしまった。

 木の枝が刺さっている。

 僕は刺さった木の枝を抜いた。血が出る。

 

 僕は森の入り口の泉まで、鹿を背負って歩いた。

 泉に傷ついた足を入れるとすごく気持ちがいい。

 しばらくこうしていたいと思ったが、そうもいかなかった。

 血の臭いに誘われて、ゾンビ化した魚が集まってくる。

 魚達が僕の足に噛みつく。慌てて足を泉から出した。

 この泉、水は綺麗で透き通っているのだが、泳いでいる魚は全てゾンビ化している。ゾンビ化していなければ魚が食べられるのに、残念だ。


 僕は鹿を担いで皆の所に戻った。

 今日は怪我をしたので、鹿1頭で妥協したのだ。

 足の怪我は、すぐに姫が回復魔法で治してくれた。


「瞬のおかげで、毎日お肉が食べられるようになりましたね」

「そやなぁ」

「食糧事情が大幅に改善されたな」

「肉は美味いな…」

「これで魚も食べられたらいいんですけどね」

「魚かぁ…魚も長いこと食べていないなぁ」

「明日、泉を見てきます」

「やめとけ、時間の無駄やで」

「あの泉にはゾンビ化した魚しかいねーよ」

「確かに、今日見た感じ、まともな魚はいなさそうでしたけど」

「それより、肉を調達してくれた方が助かる」

「はい……」

「お兄ちゃん、あまり調子に乗らない方がいいわよ」

「別に調子に乗っているわけじゃない」

「今日だって怪我して帰ってきたじゃない」

「転んだんだよ。森の中で足が滑ったんだ」

「森の中で倒れたらどうするつもり? 私達は森の奥まで助けに行けないんだよ」

「…気を付けるよ」

「本当に気を付けてよね」

「心配かけて、すまない」

「べ、別に心配しているわけじゃないって言ってるでしょう」

「ああ、そうだったな」

「菫さんもだいぶん食べられる植物を覚えましたね」

「あ、はい」

「助かっています。ありがとう」

「あ、いえ。兄と比べたら…」

「比べる必要なんてありませんよ」

「そうですね。兄は兄、私は私です」

「最近、ゾンビと遭遇していませんね。こんな平和な日々が続くといいですね」

「ゾンビって、そんなに頻繁に遭遇するのですか?」

「そうですね…何しろ数が多いですから」

「もしかして、生き残っている人間って私達だけとか…」

「そうでないことを祈るわ」

「まさか、そんなに悲惨な状況になっているなんて」

「そうね…あなた達から見たら現実は残酷かもしれないわね」

「姫、気の滅入る話はやめときましょうや」

「とりあえず、明日は明日の肉の確保が大切だ」

「頼むで、瞬」

「はい!」


 頼られるのは気分が良かった。


 次の日、森の奥に踏み込む前に、網を持って泉を見に行った。

 あれだけの魚、全てがゾンビ化しているのだろうか?

 ゾンビ化していない魚がいたらラッキーなんだけどな…。


 僕は泉を見て驚いた。

 昨日までゾンビ化していた魚が、全て普通の魚に戻っていたのだ。

 信じられないが、現実を受け入れる。

 僕は網で1匹の大きな魚を獲った。

 皆の所まで戻る。


「瞬、どういうことや?」

「ゾンビ化していない」

「何が起こったんだ?」

「確かに、昨日までは全てゾンビ化していました」

「瞬、あなた、昨日、泉で足の傷を洗ったと言っていましたね」

「え? あ、はい」

「もしかしたら、その影響かしら…」

「姫、どういうことですか?」

「瞬の血に、解毒作用があるのかもしれないわ」

「まさか!?」

「そんな夢みたいな話!」

「でも、現実なら受け入れないといけないわ」

「うーん…」

「実験が必要だな」

「そうね、瞬、実験に協力してもらえるかしら?」

「はい。構いませんが…何をするのですか?」

「森に入ってゾンビ化した動物を捕まえてきてください」

「それで?」

「その動物に、瞬の血を飲ませます」

「なるほど」

「行ってくれるかしら?」

「ええ、行ってきます」


 僕は森の中に入っていった。

 すぐにゾンビ化したリスを見つけた。

 簡単に捕まえたが、指を噛まれた。

 リスをぐるぐる巻きに縛って戻った。


「お帰りなさい」

「ただいまです」

「ゾンビ化したリスか?」

「はい。皆さんは離れていてください」


 僕は剣を抜いて指先を切った。

 垂れてくる血をリスに飲ませた。







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