第6話  瞬達は仲閒になる!

「朝っぱらから大声出すなよ」


 デクが眠たそうな顔で起き上がった。

 基本的に、馬車の中で眠るのは姫とポックルだけのようだ。

 他の男性陣は外で毛布を被って寝ている。

 雨の日はどうするのだろうか?


「せやけど、やっぱりこいつゾンビにならへんねん。おかしいやろ?」

「落ち着きなさい、クラマ」


 姫が馬車から降りてきた。


「姫、おかしいやろ?おかしいと思いません?」

「もう認めるしかありませんね」

「認めるって?何をでっか?」

「瞬には抗体があるのよ」

「まさか!?」

「そうね。本当に奇跡だわ」

「そんなアホな……」

「でも、現実を受け入れなければなりません」

「ゾンビにならない……」

「頼もしい仲間よ」

「仲間……」

「頼もしい……」

「確かに、これからのゾンビとの戦闘では期待できるなぁ」

「いくら逃げても戦闘は起こるからな」

「そうですよ、心強い味方です」

「そうやな、味方になれば戦力がアップするな」

「瞬、私達の仲間になってくれますね」

「はい!是非!!」

「クラマ、デク、縄をほどいて」

「わかりました」


 縄はほどかれた。

 ようやく、僕は本当の意味で解放された。


「お兄ちゃん、良かったね」

「菫、心配させてすまなかった」

「別に、心配なんてしてないわよ」

「そうか」

「そうよ」

「これで、菫を1人にしなくてすんだな」

「1人にしてたら、マジ怒ってたから」

「心配させてすまん。もう大丈夫だ」

「だから、別に心配なんてしてないってば」

「そうか」

「でも、これからも私を1人にしたらマジ怒るわよ」

「それは怖いな」

「そうよ、私は怖いの。だから言うことを聞きなさい」

「はい、はい」

「姫」

「何?クラマ」

「こいつがゾンビにならへんのなら、妹にも抗体はあるんちゃうか?」

「そうね、その可能性が高いわね」

「もし、そうなら、本当に最強の兄妹だな」

「いやいや、多分、妹に抗体はありません」

「どうして?」

「菫とは血の繋がりが無いんです」

「血の繋がりがない?」


 僕は、僕と菫のことを簡単に説明した。


「そうでしたか。では、菫さんはこれから気を付けないといけませんね」

「はい。気を付けます」

「かすり傷でも命取りですからね」

「はい」

「菫」

「何よ」

「姫には素直だな」

「うるさい!」

「でも、菫さんには魔法がありますから」

「姫、これは…」


 寡黙なジンが言った。


「そうね。だからこそ瞬と菫さんはこの世界に呼ばれたのかもしれないわね」


 その言葉に、僕はハッとした。

 縛られている間、僕はずっと考えていた。

 何故、僕達はこの世界に来たのか?

 その答えが、今、姫が言ったことであれば理解できる。

 僕はゾンビにならない存在として、この世界から必要とされているのではないのか?

 

 だとしたら、きっとゾンビとの戦闘で活躍の場はあるだろう。

 だが、菫は?菫は多分、噛まれたらゾンビになるだろう。

 僕のサポートをするためか?

 もしくは菫は巻き込まれただけなのか?

 菫を巻き込んだのなら、申し訳ない。


「そうかもしれません。俺達、頑張ります」

「ちょっと待ってよ、どうして私まで一緒にこの世界に来たの?」


 菫は勘の良い娘だ。


「菫さん、どういうことですか?」

「お兄ちゃんがこの世界に招かれたのはわかります。ゾンビにならないから。でも、どうして私まで?」

「どうしてかしら…」

「菫、巻き込んだのかもしれない。すまん」

「いやいや、お兄ちゃんが1人で行方不明になっても困るんだけど」

「瞬と菫さんはコンビで戦うと言っていましたね」

「はい。ゲームでは僕が斬り込んで菫が僕の背中を守ってくれます」

「では、2人でひとつ、そういうことなのでしょう」

「2人で、ひとつ…。私も頑張ります」

「2人共、歓迎するわ」

「ありがとうございます」

「とりあえず、何かの役に立ってもらおうか」

「食料を獲ってきます」

「獣か?」

「はい。ずっと植物だけしか食べてらっしゃらないようでしたので」

「ちょっと鈍いんとちゃうか?どうして動物を獲りに行かないかわからへんか?」

「え?わかりません。動物が少ないのかなぁと…」

「森の奥へ入って行ったら獣はおるわ。けどな、獣にもゾンビはおるねん」

「獣のゾンビ?」

「そんな奴に噛みつかれたらアホみたいやろ?」

「ああ……」

「俺達の場合、かすり傷が致命傷になるからな」


 その時、閃いた。


「僕なら、かすり傷を気にせず獣を獲りに行けますよ!」







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