第5話  瞬は証明する!

「あ!本当だ。僕、ゾンビになってない」


 僕も驚いた。そして安心した。


「ほらね、お兄ちゃんはゾンビにならないって言ったでしょう」

「不思議ね……」

「本当はゾンビに噛まれてないんとちゃうか?」 

「昨日、回復魔法を施した時、沢山の歯形がありましたよ」

「自作自演ということもありえるで。信用するのはまだ早いですぜ」

「なんでそんな面倒臭いことしなくちゃいけないのよ」


 菫が怒った。


 実際にゾンビ達に襲われているから、疑われるのが腹立たしいのだ。

 僕も怒っていた。


「なんでって… 俺達の仲間になるためや」

「なんで仲間になるのにそんな演技するのよ」

「俺達の仲間に入って優位にたつためとちゃうか? “ゾンビにならない”となれば重宝されるからな。マウントとりたいんやろ?」

「そんなことのために、わざわざ沢山の歯形をつけるの?」

「菫さん。落ち着いて。みんな、本当に信じられないのよ。ゾンビにならないということは、それだけ珍しいことなの。クラマの言うこともわかってちょうだい」

「でも、僕……実際にゾンビにならないし」

「そうね。でも、それは本当に奇跡なのよ! うーん、そうね、もしかして、体内に抗体でもあるのかしら?」

「まさか……」


 デクはまるっきり信じていないようだった。


「試してみたらええんとちゃいますか?」

「どうするんだ?」

「実際に、俺達の目の前でゾンビに噛まれてもらうんや」

「なるほど」

「なるほどじゃないわよ、なんでお兄ちゃんがそんなこと……」

「菫、いいんだ」

「お兄ちゃん……」

「それでいい。目の前で噛まれてみせる」

「お兄ちゃん!?」

「菫、きっと大丈夫だ」

「……きっとってどういうこと? 危ないじゃないの」

「でも、そうしないと信じてもらえない」

「信じてもらえなくてもいいじゃん」

「菫、大丈夫だ」

「もう、勝手にしたら良いわ。どうなっても知らないからね」

「ちょうどええのが来たで」


 非常にタイミング良く、遠くに一体のはぐれゾンビが現れた。


「一度、縄をほどいてください」


 男達が僕を縛っていた縄を解く。


「ゾンビを呼び寄せるで、ええか?」

「お願いします。でも、どうやって?」

「音をたてる。奴等は音に敏感やからな」


 クラマが金属の食器をカンカン叩いて音を鳴らす。

 音を聞いたゾンビがこちらに向かって歩いてくる。


「行きますよ、ちゃんと見ていてくださいね」


 僕はゾンビに歩み寄った。

 至近距離になる。

 何度噛まれても噛まれるのは怖い!

 痛いからだ。

 僕は目を瞑って更に一歩踏み込んだ。


 ガブリ!


 見事に右の首筋を噛まれた。

 痛い! 痛い!! 痛い!!!

 僕はゾンビの身体を全力で突き飛ばした。

 そこでジンが矛でゾンビの頭を潰してくれた。

 僕は走って皆のところへ戻った。


「さあ、早く縛ってください」

「わかった」


 僕は再びグルグル巻きに縛られた。


「姫、噛まれたところが痛いです!」

「わかりました。回復魔法を施します」


 回復魔法を施してもらった。肉体的な痛みは治まった。


「また痛い思いをして……馬鹿じゃないの?」


 菫はそっぽを向いた。


「そこまでして、この人達の仲間にならなくてもいいじゃない」

「僕が死んだら、お前はどうする?」

「私のために頑張ってるって言いたいの? 恩着せがましいわよ」

「いや、恩に着せるつもりはないんだ」

「じゃあ、どういうつもりなの?」

「俺は菫のことを大切に思っているんだ」

「いきなり何よ!」

「極論、俺はどうなってもいい。でも、菫には無事に生きて欲しい」

「何よ! 本当の兄妹でもないのに」

「それでも、菫は俺の大事な妹なんだ」

「妹……」

「わかってくれたか?」

「わからないわよ!どうなっても知らないからね」

「まあ、ええやないか。今度こそハッキリするんやから」


 その日、また食事をご馳走になった。

 食材が野菜ばかりということに気付いた。


 そして夜。


 菫はまた僕にもたれかかって寝た。

 僕もいつのまにか眠っていた。

 

「やっぱりゾンビにならへんやないか!?」



 僕は、その声で目を覚ました。 







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