第3話  縛られる瞬!

「不思議なんです。噛まれましたが、僕はゾンビにならないんです」

「いつゾンビになるかわからへんやないか」

「……確かに」

「姫、こいつ縛りましょうや」

「そうですね……あなた名前は?」

「相馬瞬」

「私はエリカ。みんなからは姫と呼ばれています。回復魔法が使えます。瞬……あなたを縛っても良いですか?そうしないと、みんなが不安になりますから」


 僕は菫をチラリと見た。

 迷った。

 僕が縛られたら菫を守れなくなる。

 この人達を信用して良いものか?

 だが、姫と呼ばれる女性は信用出来ると思った。

 だから、言った。


「ゾンビになって妹に襲いかかるのが怖いので縛ってください」

「では、縛りますね」


 僕は男達にグルグル巻きに縛られた。


「お兄ちゃん…」

「菫、大丈夫だ。心配するな」

「別に、心配なんかしてないけどさ…」

「僕がゾンビになったら、この人達と行動を共にさせてもらえ」

「お兄ちゃん!」

「お前達は何者なんや?」


 目つきの鋭い男が言った。


「多分、僕達は異世界から来たのだと思います」

「異世界? どんな世界だ?」

「ゾンビのいない世界です」

「ゾンビがいないだと! なんて羨ましい世界だ」


 身体のデカい男が言った。


「その異世界で、あなた達はどんな仕事をしていたのですか? 戦士ですか?」


 メンバーの中でおそらく最年少の華奢な男の子が言った。


「仕事? まだ仕事はしてませんよ、学生です。高校生です」

「コウコウセイ? ガクセイ?」

「僕達の世界では仕事に就く前に、学校という所で勉強をするんです」 

「戦士ではないのですか?」

「違います」

「でも、剣を持っていますよね」

「この剣は拾った物です」

「妹さんも戦えるんですか?」

「はい。この世界では魔法が使えるようです」

「魔法!? 凄い!」


 少年はかなりビックリしたようだった。


「この世界でも魔法は珍しいの?」


 菫が問いかけた。


「ええ、魔法使いがいないことはありませんが珍しいですよ。私は回復魔法を使えますが、回復魔法を使える人間も貴重なんです」


 “姫”と呼ばれるお姉様が解答した。


「回復魔法が使えるなら、ゾンビに噛まれた人を助けることも出来るのでは?」

「それだけは出来ないんです。ゾンビに噛まれたとき以外の回復でしたら、全て出来るのですが、ゾンビだけは……それが残念でたまらないのですが」

「私のは攻撃魔法と防御魔法だし……回復魔法は無理だし……」

「あなた、お名前は?」

「菫です。相馬菫です」

「菫……良い名前ですね」


 お姉様は菫に優しかった。安心した。


「姫、魔法使いが手に入りましたで~」


 目つきの鋭い男が言った。


「これは重宝しますなぁ」


 デカい男が言った。


「……別に兄が好きというわけではないけど、私は兄とは離れません」

「そういえば、お兄ちゃんはなかなかゾンビにならへんなぁ」

「これは、ちょっとおかしいぜ」

「普通、すぐにゾンビになるんだけどなぁ」

「僕も見ました。生きてる人がゾンビに噛まれてゾンビになるところを」

「噛まれてスグだっただろう?」

「はい、スグでした」

「おかしいよなぁ」

「僕はゾンビにならない方がありがたいのですが……」

「お兄ちゃん、ゾンビになったら承知しないからね!」

「菫ちゃん、何を言ってるんや?」

「……ゾンビになるなんて……私が許さない」

「菫ちゃんがどんなに怒っても、ゾンビになる時はなるんやで」

「……」


 菫が泣き始めた。


「クラマ、やめなさい」


 姫が目つきの鋭い男をたしなめた。


「へい」


 目つきの鋭い男も、姫には逆らえないようだ。姫がこのパーティーのリーダーらしい。回復魔法を使えるからだろうか?


「菫、泣くな」

「別に泣いてないし」


 菫は涙を袖で拭った。


「僕がゾンビになったら、この人達についていけ」

「そんなこと言わないでよ」

「でも、意識がある内に言っておかないと」

「私1人で見知らぬ人達について行けと言うの?」

「かといって他に頼れる人がいないからな。魔法使いは重宝されるようだし」

「勝手に突進して噛まれるからよ」

「すまん。僕が軽率だった」

「私をおいてゾンビになったら許さないから」

「…わかった。僕はゾンビにならない」


 そうだ。妹を残して自分だけゾンビになるなんて許されるわけがない。


「まあ、もう少し様子を見ようぜ」

「お嬢ちゃん、あんまり期待せん方がええで」

「期待するわよ!」

「じゃあ、食事にしましょう」


 姫が言った。


「はい。用意しますね」

「手伝うわ、ポックル」


 少年と姫が食事の支度を始めた。

 僕は男達に監視され続けた。 



 菫は、縛られた僕の側から離れなかった。







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