第2話  物語の助走期間!

「お兄ちゃん、ちょっと、あれ何?」

「僕達がゲームでぶっ倒していたゾンビだな」

「これって、夢よね?」

「夢じゃないかもしれないから逃げるぞ」


 動く死体の群れが加速する。

 僕達は走って逃げた。


「あいつら、足が速いなぁ」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」


 僕は何故か早く走れるが、菫に合わせて走っているとゾンビ達に距離を詰められていく。

 僕は落ちている剣を拾った。


「そんなもの拾ってどうするの?」

「逃げ切れない。戦う」

「勝てるわけないでしょ!」

「菫は逃げろ!俺が時間を稼ぐ」

「そんなことできるわけないでしょ!」

「うおおおおおおおおおおおおおお」


 僕はゾンビに斬りかかった。ゲームのように。

 身体が軽い。僕はこんなに運動神経は良くないのに思い通りに動ける。


 ゲームと同じだ!


 僕はゲームをやっている感覚でゾンビの頭を潰して首をはねる。

 だが、数が多すぎる。

 後ろに回られた。


 ゲームでは、いつも僕の背後は菫が守ってくれていた。

 ゲーム通りにやり過ぎた。後ろががら空きだった。


 ヤバイ!


 肩を噛まれた。  

 痛い!

 僕の動きが止まると四方からゾンビに噛みつかれた。

 ゾンビに押しつぶされる。


 その時、光に包まれた。

 と、思ったら僕に覆い被さっていたゾンビ達が吹き飛んだ。


 僕はスグに立ち上がった。


「お兄ちゃん!」

「今のは菫か?」

「うん。私、魔法が使えるみたい」

「もしかしてゲームと同じか?」

「うん、そうみたい」

「菫、勝てるぞ! いつも通り俺の背中を守ってくれ」

「わかった!」


 僕はもう1度ゾンビの群れに斬り込んだ。

 次々と頭を砕き首をはねる。

 戦闘は……どのくらいの時間がかかったのかわからない。

 僕は疲れてきた。

 多分、身体は疲れていない。

 ゲームのキャラが疲れないのと同じだ。

 だが、敵の数が多すぎる。

 精神的に疲れてきたのだ。


「菫!」

「何?」

「キリがない。逃げるぞ」

「わかった」


 僕達はまた逃げ出した。


「菫!」

「何?」

「俺がおぶってやるよ」

「馬鹿、嫌よ、恥ずかしい」

「僕は高速剣士だ!お前をおぶった方が速い」

「…わかった」


 菫を背中に、僕は走った。


「お兄ちゃん、あれ!」

「生きている人間だな!2人か」

「行こう」

「おう」


 僕は、菫を背負って生きている人達に近付いた。

 若い男女のカップルだった。

 僕達は、ようやく人間を見つけてホッとした。


 早く合流したい。


 男性が女性を庇い、斧を振り回している。


 危ない!


 早く合流しないと、あの人達がゾンビに……。

 すると、もう一歩のところで彼等がゾンビに噛まれた。


 僕は立ち止まった。


 さっきまで生きていた人達がスグにゾンビになった。


「ダメだ! 逃げるぞ」

「お兄ちゃんも噛まれてるよ!」

「僕がゾンビになったら、菫1人で逃げろ」

「独りは嫌!」


 妹を背負っていても高速剣士の足は速い。  

 すごく速い。

 あっという間にゾンビ達を引き離した。


 そこで、目の前に馬車があり数名立っていることに気付いた。


“ゾンビか?”


 と思ったが、近寄ると生きている人間だった。


「あなた達は生きているのですか?」


 数名のパーティーのリーダーらしき女性が問いかけてきた。上品でソフトな声だった。なんとなく、聞いていて安心出来る声。僕は少しホッとした。


「生きています。あなた達も生きているんですね?」

「ええ。私達は生存者を探しながら旅をしているのです」

「助けてください」

「何から助けるのですか?」

「何からって…?」


 僕は振り返った。

 ゾンビ達の姿が見えない。

 僕達は完全に奴等を振り切ったようだ。


「逃げ切れたようです。ずっと追いかけられていましたので、奴等がもういないことに気付きませんでした」

「そうですか、無事で何よりです。ですが……」

「どうかしましたか?」

「人間の足でゾンビ達から逃れられるケースは少ないはずです」

「怪しい奴等やなぁ。なんでそんなに速く走れるねん」


 痩せて目つきの鋭い男が言った。


「僕は、高速で動けるんです」

「まあ、それが本当なら素晴らしいですわ。でも……」

「でも、なんですか?」

「あなた達は本当に人間ですか?」

「どういう意味ですか?」

「ゾンビから逃げ切るのは、それだけ難しいことなんです」

「姫!こいつあちこち噛まれてまっせ!」


 目つきの鋭い男が言った。


「ええ、だいぶん噛まれました」



「なんでゾンビにならへんのや!?」







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