第37話 ゴールドランク冒険者のランディ

 みんなと一緒に馬車の荷車に乗って平原を進むことしばらく、僕はもっぱらランディさんに今までの出来事を話して過ごしていた。


「――タスクさんも今まで大変でしたのね~」

「まあね。でも今はきれいなお嫁さんもいて幸せだよ」

「まあ素敵っ。そんな旦那さんと巡りあえて、ユメさんもきっと幸せ者ですわ」

「だといいんだけど……」


 ランディさんは誉めてくれたけど、自分自身旦那としても父親としてもまだまだ半人前だと思っている。


 そんなことを考えていたら、左隣でスイートちゃんが華奢な身体を寄せてきた。


「タスク様はとても立派。何も心配することはない。……むしろ自分も娶ってほしいくらい」

「ははは、それはちょっと……」


 隙あらばアピールしてくるスイートちゃんの対応にも、僕は慣れてきたかも知れない。


「ランディさんのことも僕もっと知りたいんだけど、いいかなあ?」

「わたくしのことなんて知っても面白くないですわよ」


 どうやら自分語りはしたくないのか、ランディさんはつんと背を向けてしまう。


 ……ちょうど衣装のお尻辺りにハートの穴が小さく空いてるけどなんでだろう?


「……タスク様はああいうのが好み?」

「いやいやまさか!? だからそんな怖い顔しないでよスイートちゃん!」


 スイートちゃんのジト目にオロオロしていたら、突然馬車が急停止して僕たちはバランスを崩してしまった。


「魔物だ!」


 先頭で馬を駈っていた冒険者の警告で、僕たちはすぐに荷車から降りて戦闘態勢に入る。


 すると見えてきたのは、平原を疾走してこっちに向かってくる狼の群れだった。


「ガルルル!」

「ガフウウ!!」


「ダイアウルフだ!」


 僕の知る狼よりも一回り身体の大きなダイアウルフが、鋭い牙を剥いて突っ込んでくる。


 すると大きな鎌のような杖を構えたのはランディさんだ。


「ここは任せてちょうだい! 火よ穿て、火炎の弾丸、ファイヤーバレット!」


 そう唱えるや否や、ランディさんの放った無数の火の弾丸がダイアウルフに襲いかかる。


「ギャアアアン!?」


 これにはダイアウルフもたまらず群れがばらけ、そこを戦士職の冒険者たちが迎え撃った。


 みんなすごいなぁ、あんな大きな狼相手に少しも臆することなく立ち向かっている。

 これは僕も負けてられない!


「うおおおおお! はなファイヤー!!」


 僕が唱えると、鼻からの火炎放射でダイアウルフをまとめて焼き払う。


「おいおいあいつ鼻から火ぃ吹いてるぞ!?」

「どっちが魔物なのか分かんねーなぁ……」


 ちょっとそこ、僕は魔物なんかじゃないですよ~。


「タスク様を魔物扱いしないっ。――風よ切り裂け、疾風の刃、ウインドカッター」


 後方からはスイートちゃんも風の刃を飛ばして援護してくれる。


 そうして数十頭はいたダイアウルフを、僕たちは全員で殲滅した。


「よっしゃー!」

「オレらにかかればラクショーだぜ!」


 この勝利で沸き立つ冒険者たちに、ランディさんは肩をすくめて苦言を呈する。


「あなたたちねぇ、喜ぶのはまだ早いですわよ。わたくしたちの目標はあくまでもランドラゴンの討伐、ダイアウルフなんて前座でしかありませんわ」

「そ、そうだな」

「気を引き締めねえと」


 そのランディさんの発言で、沸き立っていた冒険者たちは瞬時に冷静になった。


「ランディさんすごい、一声で冒険者たちをまとめるなんて」

「大したことではございませんわよタスクさん、わたくしは冒険者として当然のことを言ったまでですわ」


 おほほと上品に笑うランディさんだけど、その実力は本物だと思う。


 ダイアウルフの群れを撃破したところで、僕たちは再び馬車の荷車に乗って平原を進むことに。


 ふと今まで気になっていたことを、僕はスイートちゃんに訊いてみる。


「そういえばランディさんの協力に冒険者たちが驚いてたけど、そんなにイレギュラーなことなの?」

「ゴールドランクの冒険者は基本的にもっとランクの高い依頼を受けることがほとんど。ブロンズランクが受けるような依頼はまず受けない」

「だけど今回は緊急の依頼なんだよね? 腕利きのエリートが一人くらいいても不思議じゃないと思うんだけど」

「その場合でもだいたいはシルバーランクの冒険者が名乗りをあげる。ゴールドランクはそれだけ格上」


 そうなんだ……。あれ、それじゃあなんでゴールドランクのランディさんが一緒に依頼を受けてくれることになったんだろう?


 それからも何度か魔物の襲撃はあったけど、みんなで協力して撃退していった。


 そしていつの間にか日が落ちようとしていたので、ここら辺で野宿の準備をすることに。


 野宿ならこの前のオーリン遠征で経験済み、ということで僕も手早く準備を進めて休憩っ。


 手作りのテントの中で一人休息をとっていると、いつの間にかクリーミーないい香りが漂ってくるのを象の鼻が捉えた。


 この香りはシチューかな?


「何だろう?」


 テントから出てくると、ランディさんが手作りのホワイトシチューをみんなに振る舞っているところだった。


「ランディさん?」

「あら、タスクさんじゃないですこと。どうです、あなたも召し上がりくださいませ」

「タスク様、この人のシチューとってもおいしい」


 いつの間にかスイートちゃんもシチューに舌鼓を打っていたので、僕も好意に甘えて頂くことにする。


「ふー、ふー。……んんっ!?」


 吐息で冷ましてから口に含んだ途端、口の中に濃厚なミルクの甘味とコクがいっぱいに広がった。


「これすっごく美味しいよ! 本当にランディさんの手作りなの!?」

「そうですわ。冒険者たるもの調理のひとつできたほうが得ですもの」


 なるほど~。帰ったら僕もユメちゃんに料理を教わろうかな~。


 冒険者のみんなでシチューを囲いながら、僕は夜を迎えるのだった。

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